糖尿病になったら運動能力が向上するのか

糖尿病は、血糖値が上がっても基準値まで下げることが困難になる病気です。糖尿病には1型と2型があり、生活習慣の悪化で起こりやすいのが2型糖尿病です。

2型糖尿病は、米、パン、麺類など炭水化物(糖質)が多く含まれている食品を常食することが原因で発症します。だから、2型糖尿病予防には糖質制限が有効です。

でも、テレビなどのメディアでは、医師や栄養士の方が、糖質は脳の唯一の栄養であり、糖質の少ない食事をしていると、頭の回転が悪くなったり、記憶力が衰えてくると警告しています。そして、糖質を摂取すると思考力や記憶力が向上するといったことも、よく耳にします。

本当なのでしょうか?

血糖値は一定の幅で安定するもの

糖質を摂取すると頭が良くなるかどうかを考える前に血糖値の基準値を知っておく必要があります。

人間の血糖値は、血液1dl(デシリットル)あたり80~100mg(ミリグラム)の範囲に保たれているのが正常とされています。すなわち、1dlを100グラムと仮定した場合、血液に含まれる糖質はわずか0.08%~0.10%でしかないんですね。

血糖値が0.08%未満になると低血糖状態となるので、人間の体は常に0.08%以上になるように血糖を作り続けています。これを糖新生と言います。また、血糖値が0.10%を超えると高血糖状態となり、人間の体は正常な範囲に戻すためにすい臓からインスリンを追加分泌して余分な血糖を血管の外へ出します。

このように健常者であれば、血糖値は常に0.08~0.10%の範囲で安定しているのです。

糖質を過剰に摂取しても排除される

したがって、どんなに糖質をたくさん摂取したとしても、糖尿病でなければ、すぐに余分な血糖は処理されます。

このような体の反応から考えると、糖質をたくさん摂ったからと言って、大量の糖質を脳に送り込むことなんてできないのではないでしょうか?もしも、糖質を大量に脳に送り込んでいたら、それは、体が余分な血糖を処理できなくなっている状態、つまり糖尿病になっているということではないでしょうか?

このように考えると、糖質を摂取したら頭の回転が速くなるとか物覚えが良くなるといった発言内容は非常に怪しいですね。

糖尿病になると頭が良くなるのか

もしも、糖質を摂取すればするほど脳にたくさんの糖質を送り込むことができるのなら、高血糖の状態は喜ばしいことと言えます。なぜなら、脳は糖質(ブドウ糖)を唯一の栄養としており、糖質が不足すると思考力や記憶力が低下すると、テレビなどで言われているのですから。

しかし、健常者の体は、血糖値が上がると速やかに下げようとするので高血糖状態を維持することはできません。高血糖状態を維持するためには、糖尿病になるしかないでしょう。

でも、彼らの主張からすると、糖尿病になれば高血糖の状態が継続するので、その状態が持続している間は脳にたくさんの栄養を送り込むことができるのですから、思考力や記憶力が高まり喜ばしいことと言えます。

そして、糖尿病の人は、そうでない人よりも頭が良くなるので、仕事も若い人たちよりもバリバリこなせるはずです。ところが、そのような話を聞いたことは今までにありません。

糖尿病になれば運動能力も高まるはず

糖質をたくさん摂取すると頭が良くなると主張する識者はたくさんいます。でも、不思議なことに糖質をたくさん摂取すると運動能力が向上するといった話は聞きません。

マラソンの前に炭水化物を大量に補給し、エネルギーとして体に貯め込むカーボローディングは聞いたことはあります。でも、カーボローディングはエネルギーを蓄えようとする行為なので、運動能力を活性化させるということではないはずです。

脳の中で運動と関係があるのが小脳です。糖質が脳の栄養となるのなら、小脳の栄養にもなっているはず。だから、高血糖状態が継続する糖尿病の方は、常に小脳に大量の栄養を送り込めるはずなので、そうでない人よりもスポーツで高いパフォーマンスを発揮できるはずです。

もちろん運動には筋力も関わっているので、筋肉量が少ない人は高血糖状態を持続させても、筋肉量が多い人よりも高いパフォーマンスを発揮できないでしょう。でも、同程度の筋肉量の人との比較であれが、糖尿病の人の方がスポーツで良い結果を残せるはずです。

しかし、プロアスリートの中には、あまり糖尿病の人はいません。私がすぐに思いついたのは、阪神タイガースの岩田投手だけです。岩田投手は1型糖尿病です。彼が1軍で活躍できているのは、1型糖尿病が理由なのでしょうか。そんなことはないでしょう。むしろ、糖尿病でなければ、もっと素晴らしい成績を残していたかもしれません。

糖質が脳の唯一の栄養であり、糖質が不足すると思考力や記憶力が低下すると言う人はたくさんいます。でも、彼らは不思議なことに糖質をたくさん摂取すると、小脳が活性化されて運動能力が高まるとは言いません。

なぜなのでしょうか?

きっと、糖質が脳の唯一の栄養であり、それが不足すると脳の働きが悪くなるという噂話を鵜呑みにしているからでしょう。糖質の摂取量が減って脳の働きが悪くなるのなら、思考力や記憶力だけが悪くなるのではなく、運動能力も低下するはずなんですけどね。