飽和脂肪酸を多く摂取しても脳卒中の原因にはならない

飽和脂肪酸を多く含む動物性脂肪をたくさん摂取していると、脳梗塞、脳内出血、くも膜下出血といった脳卒中を起こしやすいと言われています。心筋梗塞も、動物性脂肪の摂り過ぎが原因だとも。

でも、飽和脂肪酸をたくさん摂取したからと言って、脳卒中や心筋梗塞になるという証拠はありません。むしろ、飽和脂肪酸を多く摂取している方が健康に良いくらいです。

意図的に作られた飽和脂肪酸害悪説

飽和脂肪酸を健康に悪いものだと結論付けたのは、アンセル・キーズというアメリカの栄養学者です。

キーズ先生は、1950年代に7ヶ国を対象に疫学調査をして、飽和脂肪酸が心筋梗塞を引き起こすという結論を導き出しました。現在の飽和脂肪酸害悪説は、キーズ先生の疫学調査が発端となっているようです。

ところが、キーズ先生の研究は非常に怪しいものです。これについては、脂質栄養学を専門とされている浜崎智仁先生の著書『コレステロール値が高いほうがずっと長生きできる』で簡単に説明されているので引用します。

この調査に登場した七つの国を個別に分析すると、国によって大きな差がある。中でも日本人は、コレステロールと心筋梗塞の間に関連がなく、コレステロールと心筋梗塞の関連性が強く認められるのは米国とフィンランドの二ヵ国だけなのである。もしもキーズが、フィンランドではなくて、飽和脂肪酸を豊富に摂取しながら心筋梗塞の発症率の低いフランスやスイスを調査対象に選んでいたなら、結果はまったく違ったものになっていただろう。(70ページ)

国によってバラツキがある調査結果を私たちは今まで信じ込んでいたわけですね。

しかも、飽和脂肪酸の摂取量が多いフランスやスイスを調査の対象から外している時点で、これは怪しいですよ。本来なら、飽和脂肪酸の摂取量が極めて多い人たちと、その摂取量が極めて少ない人たちを対象に調査をした方が優位差が出るはずです。

それなのにフランスやスイスを調査から外しているのは、何らかの意図があったと考えるべきでしょう。

フレンチパラドックスなんて存在しない

最近では、飽和脂肪酸の摂取量が多いフランス人が脳卒中や心筋梗塞にならないのはポリフェノールを多く取っていることが理由だと言われています。これをフレンチパラドックスと言うそうです。

フレンチパラドックスについては、栄養学博士の川島由起子先生監修の『カラー図解 栄養学の基本がわかる事典』で解説されています。

獣肉類を好む欧米の人たちに動脈硬化が多いかといえば、必ずしもそうとはいいきれません。
フランス人を例にとりましょう。彼らはバターも大好きで、確かに総脂質摂取量は多いのですが、総コレステロール値は欧米で最も低く、虚血性心疾患の発症率も決して高くありません。これは、調理で使うオリーブ油に含まれる一価不飽和脂肪酸のオレイン酸や、ワインに含まれるフェノール化合物の働きによるものと考えられています。(201ページ)

フランス人の食生活は、現代の栄養常識や医学常識からすると不健康極まりないものなのに不思議と動脈硬化になる人が少ないのです。その理由は、ポリフェノールが多く含まれるワインをよく飲むからだとされています。

しかし、先ほど紹介した浜崎先生の著書では、飽和脂肪酸を多く摂取した方が脳卒中を起こしにくいという日本における大規模疫学調査の結果が紹介されています。

一九八八年から一九九〇年にかけて、四〇~七九歳の男女五万八四五三人から食品の摂取頻度に関するアンケート調査をとり、十四年にわたって追跡したところ、飽和脂肪酸の摂取と脳卒中全体に「負の相関」が見られた。飽和脂肪酸をたくさん摂っているほうが脳卒中(脳梗塞、脳内出血、および、くも膜下出血)を起こしにくい。つまり、安全なのである。
心血管疾患に関しても、飽和脂肪酸を摂取すると心筋梗塞が増えるというデータは得られず、統計的優位差は見られないものの、飽和脂肪酸は摂っているほうがむしろ、心筋梗塞の危険率が少なくなっていた。(85ページ)

したがって、飽和脂肪酸を多く摂ると、血管がボロボロになるということはないのです。だから、フランス人が飽和脂肪酸をたくさん摂取していても動脈硬化を発症する割合が少ないのは、ポリフェノールを多く摂取しているからだとは言えません。

キーズ先生が飽和脂肪酸は体に悪いと発表した内容に矛盾が生じていたら、その調査に何らかの不備があったのではないかと考えそうなものです。でも、ポリフェノールが体に良いと言い出したのは、誰もキーズ先生の調査結果を疑おうとしなかったのでしょうね。

もしかしたら、キーズ先生の調査結果に矛盾があることを指摘されると困る人たちが、ポリフェノールを持ち出してフレンチパラドックスと言っているのかもしれません。

とりあえず、肉をたくさん食べても、ワインを飲む必要はないということですね。

参考文献