日本は江戸時代から国民全員分の米を収穫していた

よく昔の日本は貧しくて、食べ物に困っていたと言われています。特に江戸時代は、武士のような特権階級や富豪だけが米を食べていて、貧しい農民は、ヒエやアワしか食べてなかったというのが常識となっていますね。

でも、これは普通に考えてあり得ないことです。江戸時代は、農民たちも毎日しっかりと米を食べていたと考えられます。

米1石は150kg

江戸時代の日本人が、毎日、米をしっかりと食べることができたということを知るためには、当時の米の重量を測る単位である石(こく)がどのくらいの量なのかを知っておかなければなりません。

1石は150kgです。そして、1合は150gです。したがって、1石は1合の1,000倍ですから1石は1,000合と計算できます。

ちなみに時代劇を見ていると、加賀100万石といった表現をされていますが、100万石は1億5千万kgの米の量になります。

なお、1石は人間1人が1年間に消費する米の量を意味します。1石は1,000合ですから、1日当たり約2.74合の米があれば江戸時代の日本人は生きていけたわけですね。現代人で3食白米を食べる場合でも、2.74合は多いように感じますが、この量を江戸時代の日本人は食べていました。

武士は人口の5%しかいなかった

江戸時代、農民が作った米は、武士に年貢として納めなければなりませんでした。

だから、農民たちは米を食べれなかったと思ってしまいますが、江戸時代には全国民に米が行き渡る量の生産が行われていたのですから、それはあり得ません。

当時の武士の人口は全人口の5%程でした。まさか毎日武士が20人分の米を食べていたとは考えられません。米の転売をしたでしょうが、国内で収穫された米は国内でしか流通しません。なぜなら、江戸時代の日本は鎖国をしていたからです。海外に米を売りさばくことは不可能です。

これについては、作家の井沢元彦さんの「逆説の日本史1巻」でも指摘されています。

とてつもなく大量の米が余ったはずである。まさか、ドブに捨てたわけではあるまい。備蓄したのでもない。江戸時代に大量の埋蔵金ならぬ埋蔵米があったなどどいう話は聞いたことがない。
結局、それは人口の九十パーセントをしめる農民の口に、最終的には入ったに違いない。(75~76ページ)

おそらく、これが事実でしょう。

江戸時代の石高と人口はほぼ一致する

江戸時代の日本は鎖国をしていたのですから、自国民の食糧は国内ですべて賄う必要がありました。つまり、食糧自給率が100%でなければならなかったのです。

先ほども述べましたが、1石は人間の1年間の米の消費量のことです。だから、江戸時代の全国の米の収穫量(石高)と総人口は一致してなければなりません。そして、江戸時代の米の収穫量と総人口はほぼ一致していることが分かっています。

以下の表は、Wikipediaの「石高」と「江戸時代の日本の人口統計」を基に作成しました。

江戸時代の石高と人口
年代 万石 万人 1人分/年(石) 1人分/日(合)
1872年 3,2373 3,310 0.978 2.68
1830年頃 3,056 2,706 1.129 3.09
1700年頃 2,591 2,607 0.994 2.72

この表を見るとわかるように石高と人口はほぼ一致しています。

1872年は明治5年ですが、おそらく幕末でも収穫量と人口に大差はなかったでしょう。1830年ころになると1人当たり年間1.1石の米が収穫されていたのですから、農民が有り余っている米を食べずにヒエやアワを毎日食べていたとは考えられません。

江戸時代初期の1600年頃でも石高は約2,000万石ありましたし、諸説ありますが、当時の人口も2,000万人程度と推測されています。

食べ物に余裕があったのに低身長だった

江戸時代の日本人は、現代の日本人と比較すると低身長でした。

食べるものがあったにも関わらずです。これは、普通に考えれば米ばかり食べていても、体作りにはあまり役立たないということではないでしょうか?

それどころか、米ばかりを食べていたことが原因で、脚気になっていたのですから、米食は不健康食とも考えられます。

江戸時代の人が脚気になった原因はビタミンB1不足だと指摘されます。そして、B1が不足したのは、玄米から精製された白米を食べるようになったからだとも言われています。米の胚芽にB1が含まれていたのにそれを食べなくなったからだと。

この説は正しそうですが、それ以上に米をたくさん食べること自体が、ビタミンB1不足をもたらすことも指摘しておくべきです。

米に多く含まれる炭水化物(糖質)を体内でエネルギー利用する場合、ビタミンB1が必要になります。エネルギー源の多くを糖質から得るということは、それだけB1を消費するということですから、米の食べ過ぎそのものが脚気のリスクを高めると言えるでしょう。

ちなみに脂質はビタミンB2、タンパク質(アミノ酸)はビタミンB6が、エネルギー利用する場合に必要となります。ビタミンB1ばかりを消費する炭水化物中心の食事は、バランスが悪いです。エネルギー効率を高めるには、脂質とビタミンB2の摂取も必要ですし、タンパク質とビタミンB6の摂取も大切でしょう。

江戸時代の農民が米を食べていなかったという話は、誰かの単なる思い込みです。それを信じていると、現代日本人は米をたくさん食べて健康になったんだとか、世界一の長寿国になったんだと勘違いしてしまいます。

現代日本人の1人当たりの米の消費量は、農林水産省の発表によると2013年度で56.9kgということです。

米の消費量を江戸時代の半分以下に減らしたら、平均寿命が40歳程度から80歳以上に延びたのですから、米に偏った食事が寿命を縮めると考えても良さそうです。

もちろん、平均寿命の延びには衛生環境や医療の発達など、その他の要素もありますが。

参考文献