コレステロール摂取量が多いと筋肉量が増える

筋肉量を増やして筋力アップしようと思うと、筋肉を鍛えることと筋肉の発達に必要な栄養素を補給することが大切です。誰もが知っていることですね。

筋トレをしたり、重たい物を持ち上げたり、走ったりすれば筋肉を鍛えられます。また、筋肉の材料であるタンパク質を多く食べれば筋肉量を増やせます。他にも、食事ではビタミンやミネラルの摂取も筋肉量の増加に関わっていますが、コレステロールも筋肉量を増やすのに貢献しているかもしれません。

コレステロールの体内合成を抑える

以前に脂質栄養学を専門とされている浜崎智仁先生の「コレステロール値が高いほうがずっと長生きできる」という本を読んだことがあるのですが、この本の中で、浜崎先生が2009年10月にジュネーブで開かれた第二回国際栄養遺伝/栄養ゲノム学会のサテライトシンポジウムの内容が紹介されていました。

老齢者の場合なのですが、以下の3タイプの人たちで筋肉量と筋力が向上するという研究結果が発表されたそうです。

  1. コレステロール摂取が多い人
  2. もともと血清コレステロール値が高い人
  3. スタチンの使用者

スタチンとは、体内でのコレステロール合成を抑える薬です。健康診断でLDLが高いと言われた場合に服用する薬ですね。

人とラットで同じ結果が出ているので、動物の筋肉の発達にコレステロールが関わっている可能性があるのかもしれません。

上記の「1」と「2」は体内のコレステロールが多い人たちと考えられます。反対に「3」のスタチンの使用者は体内のコレステロールが少ない人たちと考えられます。それなのに上記3タイプの人たちで筋肉量と筋力が向上したのは不思議です。

浜崎先生は、これには体内でのコレステロール合成が関わっているのではないかという仮説を持っています。

その仮説は、簡単に言うと体内でのコレステロール合成が少ない方が筋肉量が増えるというものです。

コレステロール合成の中間代謝産物

人間が体内でコレステロールを合成する際、アセチルCoA(コーエー)から始まり、約20段階の化学反応が行われます。アセチルCoAは、糖質、脂質、タンパク質から作られる物質で、ミトコンドリアでエネルギーを生む出す主原料となります。人間が生きていくためにはアセチルCoAから作り出される大量のエネルギーが必要です。

そのアセチルCoAが、コレステロール合成にも使われます。

アセチルCoAからコレステロールが作られる過程で、イソプレイドという骨格を持った中間代謝産物がいくつもできるのですが、これが筋トレの効果を抑制しているのではないかと浜崎先生は考えています。

コレステロールの摂取量が多い人は、体内でのコレステロール合成が抑えられるので、イソプレイド骨格を持った中間代謝産物の合成も抑えられます。また、血清コレステロール値がもともと高い人たちも、コレステロール合成が抑制されるでしょうから、中間代謝産物の発生量も少ないはずです。

そして、スタチンを服用している人も、体内でのコレステロール合成が抑えられるので、中間代謝産物の合成も少なくなります。

上記の3タイプの人たちは、コレステロール合成を抑えることで、イソプレイド骨格を持った中間代謝産物の合成も抑制するという点で共通しているんですね。

スタチンの筋毒性

浜崎先生は、もう一つの仮説も紹介しています。

その仮説はスタチンの筋毒性という副作用です。

この筋毒性も、コレステロール代謝の中間代謝産物であるイソペンテニルピロリン酸の合成低下で説明できるようだ。この物質がないと筋肉保持が難しくなるという。
筋トレは、ある程度筋肉を痛めつけることが必要で、実際に効率よい筋トレをすると筋肉がある程度ダメージを受けて、筋肉に特異な酵素(CPK)が血中に漏れだしてくることが血液検査で測定できる。マラソン選手などの中には、この酵素の増え具合を見て筋肉負荷の調節をしている人もいる。
そこでスタチンを使うと、筋肉が臨床的にはわからない程度の障害を受ける。さらに筋トレが重なることで、筋肉に障害が起こり、筋肉の修復と増強の引き金になると考えられる。(106ページ)

筋トレをしている人ならご存知のことですが、筋肉量を増やしたり筋力アップしたりするためには、筋肉に負荷をかけて筋肉の機械的破壊を起こさなければなりません。そして、3日程度、筋肉を休養させると再び壊れた筋肉が再生します。この時、超回復と呼ばれる現象が起こり、以前よりも筋肉量が増えるとされています。

超回復が事実であれば、スタチンを服用して微妙に筋肉を痛めつけておけば、再生の過程で筋肉が大きくなっていくはずです。

しかし、同書には、家族性高コレステロール血症患者のプロスポーツ選手でスタチンの服用者を調べたところ、24人中17人が筋肉異常のためスタチンの服用をやめたという報告が紹介されています。また、スタチンを投与すると筋のエネルギー代謝が2倍ほど遅れることもわかっているそうです。

筋肉の機械的破壊を目的にスタチンを服用する人はいないでしょうが、とりあえず、筋トレをしている人は、将来、健診で脂質異常症と診断される場合もあるでしょうから、知っておいた方が良さそうです。

厚生労働省の日本人の食事摂取基準2015年版で、コレステロールの摂取上限が撤廃されました。コレステロールを多く含む食品を食べても、血中コレステロール値が上がるという科学的根拠が得られなかったからです。

なので、筋トレをしている人はコレステロールが多く含まれている食品もしっかり食べて、体内でのコレステロール合成を抑えておいた方がトレーニングの効果を得やすいかもしれませんね。

参考文献