糖新生とケトン体合成の関係はどうなってる?

人間は、血中のブドウ糖濃度(血糖値)が下がると、肝臓でブドウ糖を作り出し血糖値を上げようとします。この働きは糖新生と呼ばれています。

ブドウ糖は人体に必要な物質ですが、糖新生が行われるので食事から摂取しなくても問題はないと考えられます。もしかしたら、研究が進んで、食事からのブドウ糖(糖質)摂取が一定以上なければならないといったことが発見されるかもしれませんが。

ブドウ糖は、体内でエネルギー産生に利用されます。ブドウ糖が不足するとエネルギー不足になって大変だと思うでしょうが、中性脂肪の分解産物である脂肪酸をエネルギー産生に利用できますし、さらに脂肪酸から合成されるケトン体もエネルギー源として利用できます。

クエン酸回路からATPを取り出す

人間にとってのエネルギーはアデノシン三リン酸(ATP)です。ブドウ糖も脂肪酸もケトン体も、細胞内のミトコンドリアがクエン酸回路(TACサイクル)を回すことで、このATPが取り出されます。

ブドウ糖、脂肪酸、ケトン体は、クエン酸回路に入る前にアセチルCoA(コーエー)に加工されます。そして、アセチルCoAは、オキサロ酢酸とくっついてクエン酸となります。つまり、ミトコンドリアがクエン酸回路を回してATPを取り出すためには、アセチルCoAとオキサロ酢酸が不可欠なのです。以下は、クエン酸回路を簡略化した図です。

クエン酸回路

クエン酸回路が1回転すると、再びオキサロ酢酸が作り出されます。オキサロ酢酸は次のアセチルCoAとくっついて、再度クエン酸回路が回ります。これをミトコンドリアが何度も何度も繰り返しているから、人間は歩いたり、走ったり、重たい物を持ったりできるんですね。

オキサロ酢酸不足とケトン体合成

前述したようにクエン酸回路を回すためには、オキサロ酢酸が必要です。

オキサロ酢酸は、ブドウ糖が不足した時に肝臓で行われる糖新生の材料にも使われます。なので、血中のブドウ糖濃度が少なくなり、肝臓が糖新生を行うと、オキサロ酢酸が糖新生に使われて肝臓のミトコンドリアはクエン酸回路を回せなくなります。

肝臓でオキサロ酢酸不足が発生すれば、アセチルCoAが余ってしまいます。この時、肝臓はケトン体を作り出しますが、肝臓はケトン体を利用できないので、血中に流して他の組織に渡します。ケトン体を受け取った組織は、ケトン体をアセチルCoAに戻します。そして、アセチルCoAとオキサロ酢酸をくっつけてクエン酸回路を回し、エネルギー源として利用します。

川島由起子先生監修の「栄養学の基本がわかる事典」で、ケトン体合成について簡単に解説されているので引用します。

β-ヒドロキシ酪酸、アセト酢酸、アセトンをまとめてケトン体といいます。ケトン体は肝臓のミトコンドリアアセチルCoAから生成されます。
アセチルCoAがTCA回路で利用されるためにはオキサロ酢酸が必要ですが、グルコースが足りず糖質代謝がうまくいかない場合、オキサロ酢酸は糖新生に利用されるため、不足します。このとき、アセチルCoAはTCA回路に入れず(エネルギー産生に利用されず)にケトン体となります(93ページ)

文章で読んでもわかりにくいので、図にしました。

オキサロ酢酸不足

例えば、肝臓のミトコンドリアでオキサロ酢酸とアセチルCoAが100ずつあったとします。通常は、クエン酸回路が100回転できるのですが、血中のブドウ糖(グルコース)が不足して、30のオキサロ酢酸を糖新生に利用したとしましょう。

この場合、クエン酸回路は70回転しかできないので、アセチルCoAが30余ってしまいます。この余った30のアセチルCoAを肝臓がケトン体にして血中に流し、その他の組織がエネルギー源として利用します。

さらにブドウ糖が不足して糖新生が亢進すれば、肝臓でアセチルCoAがたくさん余ります。60のオキサロ酢酸が糖新生に回れば、アセチルCoAも60余り、ケトン体が60合成されます。

糖新生亢進

このように肝臓で糖新生が活発になればなるほど、ケトン体が多く合成されると考えられます。別の言い方をすると、オキサロ酢酸不足が生じれば生じるほどケトン体合成量も増えるということですね。

脂肪酸代謝の亢進でケトン体が増える

ガン治療に糖質制限を応用している古川健司先生の著書「ケトン食ががんを消す」を読んでいて気になる記述を見つけました。

最近になって注目を集め始めたのが、コーヒー成分の健康への有効性です。コーヒー豆には、ポリフェノールの一種で、苦みや渋みの成分であるクロロゲン酸が含まれています。
このクロロゲン酸は抗酸化作用が強いことで知られていますが、糖新生を抑える働きもあるので、糖尿病の予防には効力を発揮します。また、肝臓に脂肪が溜まる脂肪肝の予防効果に優れているため、肝臓がんなどの肝臓疾患を抱える人には、特に摂取してもらいたい成分です。(199ページ)

古川先生は、ガン細胞がブドウ糖をエネルギー源にして増殖することから、糖質制限でガン細胞へのブドウ糖供給を断つ免疫栄養ケトン食をガン患者にすすめています。また、ケトン体もガンをやっつけるのに貢献するとのことで、血中ケトン体濃度を高めることも大切だと述べています。

ケトン体の血中濃度を高めるためには、糖新生が活発に行われた方が良いはずです。糖新生が行われれば行われるほどオキサロ酢酸不足が生じ、肝臓でアセチルCoAからケトン体が多く合成されるからです。

それなのに糖新生を抑えるクロロゲン酸の摂取をすすめるのはどういうことでしょうか?むしろ、ケトン体濃度を高めるためには、クロロゲン酸の摂取を控えるべきだと思うのですが。

そこで、福岡大学理学部化学科のウェブサイトにある「ケトン体合成」のページを読んだところ、以下の記述を見つけました。(2017年3月15日追記:なお、このページは削除されたようで見ることができません。)

肝ミトコンドリアの脂肪酸の代謝が亢進すると,生じたアセチル-CoAの一部は別経路に入り,アセト酢酸,b-ヒドロキシ酪酸,アセトンのようなケトン体に作り変えられる。

脂肪酸は、β酸化によってアセチルCoAに加工されます。なお、β酸化については以下の記事を参考にしてください。

「肝ミトコンドリアの脂肪酸の代謝が亢進する」とは、肝臓で脂肪酸のβ酸化が活発に行われて多くのアセチルCoAが作り出されるということですから、今あるオキサロ酢酸以上にアセチルCoAがβ酸化によって作られると、余分なアセチルCoAはクエン酸回路に入れません。そうすると、肝臓で余ったアセチルCoAはケトン体に変えられて血中に放り込まれるはずです。

例えば、オキサロ酢酸が100しかない状況で、アセチルCoAが150作られると50が余ってケトン体になるはずです。

β酸化亢進

このように考えれば、コーヒーを飲んで糖新生を抑えても、脂肪酸代謝が亢進していれば多くのケトン体を合成できることになります。

では、どうやって脂肪酸代謝を活発にすれば良いのでしょうか?

その方法は簡単で、糖質摂取を控えるだけです。糖質が体内に入って来なければ、中性脂肪を分解して脂肪酸を作り出しエネルギー源として利用します。糖質を制限すれば制限するほど中性脂肪の分解が進みますから、ケトン体も多く合成されます。

ただ、古川先生は、極端な糖質制限はガン治療にだけ推奨しています。健常者は、緩やかな糖質制限の方が無難とのこと。「ケトン食ががんを消す」を読んだ感じだと、1日の糖質摂取量を100グラム前後に制限すれば良さそうな感じです。

でも、もっと糖質を制限しても問題ないと思うのですが。京都高雄病院の江部康二先生が提唱する1日の糖質摂取量を60グラム未満に抑えるスーパー糖質制限をしている方なら、中途半端に感じるでしょうね。

ここからは私の妄想です。

「栄養学の基本がわかる事典」ではオキサロ酢酸不足からケトン体が合成されるとなっています。一方、福岡大学理学部化学科のウェブサイトでは、脂肪酸代謝の亢進からケトン体が合成されるとなっています。一体、どっちの説明が正しいのでしょうか?

おそらく、どちらの説明も正しいのだと思います。糖質制限をすれば、糖質を日常的に摂取している人よりも糖新生が活発に行われますし、中性脂肪の分解が進んで脂肪酸代謝も亢進するはずです。例えば、肝臓でオキサロ酢酸が100ある状況で糖質制限をしたとします。この場合でもアセチルCoAが150作られ、さらに糖新生のために30のオキサロ酢酸が消費されるといったことが起こるのではないかと思うんですよね。

糖新生とβ酸化亢進

オキサロ酢酸が糖新生に回る事だけが理由でケトン体が産生されるのなら、血中のケトン体濃度が高い場合には高血糖にもなっているはずです。しかし、糖質制限をしても、ケトン体濃度は上がるものの高血糖にはなりません。

また、糖質制限をすれば血糖値が下がりますから、糖新生が行われなければ低血糖で倒れてしまいます。なので、糖質制限中は糖新生が行われて、血糖値を一定以上に保っているはずです。

上記の理由から、血中のケトン体濃度が高くなるのは、糖新生とβ酸化の亢進が同時に起こっているのではないかと思うわけです。

理由はどうあれ、糖質制限をしても低血糖にはなりませんし、ケトン体が多く合成されることも事実です。とりあえず、肝臓が都合の良いように糖新生とケトン体合成をしてくれているのでしょうね。

参考文献