ATP合成量が増えると体温が上昇する

私は以前から平熱が36.5度以上あり、割と高体温でした。さらに米、パン、麺類など炭水化物が多く含まれている食品の摂取を控える糖質制限を始めてから平熱が37度まで上がりました。

なぜ糖質制限をすると体温が上がるのか、よくわかりませんでしたが、高タンパク食になることで体温が上昇する可能性があると知ったので、それで納得していました。でも、高タンパク食以外にも平熱が上がる理由が他にもあることを知りました。

それは、アデノシン三リン酸(ATP)と呼ばれるエネルギーが合成される過程で熱が発生することです。

ATP合成と反応熱

人間が活動するためには、体内で糖質、脂質、タンパク質を主原料にして、ビタミンB群や鉄などの補助材料も使用しながらATPを作り出さなければなりません。ATPは、アデノシンにリン酸が3個くっついた物質で、1分子のATPからリン酸が1分子外れると、7.3kcalのエネルギーが放出されます。この放出されたエネルギーを使って、我々は日々活動しています。

栄養学博士の川島由起子先生監修の「カラー図解 栄養学の基本がわかる事典」では、化学エネルギーが熱エネルギーに変換されて体温が維持されると解説されています。

体内では、燃焼といっても「燃える」わけではなく、各栄養素は分解され、酸化される過程で化学エネルギーを発生させます。この分解、酸化はすべての細胞内で行われます。発生した化学エネルギーが熱エネルギーに変換されれば体温維持に使われ、筋肉の収縮に使われれば運動エネルギーに変換されたことになります。
この科学エネルギーは、体内ではATPアデノシン三リン酸)という分子に蓄えられます。ATPは体のあらゆる細胞で、エネルギー分子として利用されます。(60ページ)

この文章を読んだ時、糖質、脂質、タンパク質が持っているエネルギーが体内でATPに格納され、そのATPを使って熱エネルギーを発生させ体温を維持しているのだと思いました。

ATPからリン酸が外れる時に放出されるエネルギーの一部が、熱エネルギーとして利用されますが、これはどうもATPから放出された全エネルギーを運動に使えず、一部が熱エネルギーになって逃げてしまうということのようです。また、ATPからリン酸が外れる時にだけ熱エネルギーが発生するのではなく、ATP合成過程でも熱エネルギーが発生し体温を維持しています。

糖質の持つエネルギーの6割は失われる

生物・化学系ライターで理学博士の大平万里先生の著書「『代謝』がわかれば身体がわかる」によると、糖質(グルコース)が持つ生理学的エネルギーの約63%がATP合成過程で失われるそうです。

グルコース100グラムの生理学的エネルギーは、約335kcalです。でも、グルコース100グラムから合成されるATPに格納されるエネルギー量は約131kcalです。したがって、その差204kcalがATP合成過程で失われます。この失われた204kcalが熱エネルギーとして利用されているのです。

なお、グルコースの生理的エネルギーと、合成されたATPのエネルギーとの差、約204キロカロリーは、呼吸の過程で生じた反応熱であり、その熱は体温の一部となる。呼吸の代謝が盛んに進み、体温上昇となる流れの「化学的な要因」の一部はここにある。(157ページ)

グルコースが持つエネルギーの内、ATPに格納できるのは約37%で、残り63%はただ失われるだけでなく熱エネルギーとして利用されていたんですね。体内でのATP合成量が増えるほど熱エネルギーの発生が多くなり、体温も上昇する仕組みです。私が糖質制限を始めて体温が上昇した理由の一つに体内でのATP産生量が増えたというのがあるのでしょう。

でも、私は、糖質(グルコース)を食事からほとんど摂取していません。では、私の体は、何からATPを作り出しているのでしょうか?

それは、脂肪です。脂肪が持つエネルギー量はグルコース以上です。当然、高糖質食でグルコース中心のエネルギー代謝の人よりも、脂肪をたくさん食べる脂肪酸中心のエネルギー代謝の人の方がATP産生量が増えますから、体温も高くなるはずです。もちろん、ビタミンB群や鉄などATP合成の補助材料もしっかりと補給しておかなければなりませんが、肉中心の糖質制限食だとこれら補助材料も多く摂取できます。

私が糖質制限を始めて体温が上昇したのは、高タンパク食に加え、脂肪酸からのATP合成が高糖質食時代よりも活発になったからなのだと思います。他にも理由がありそうですけど、今思いつく理由はこれくらいですね。

グルコースの熱量は4kcalではない

さて、糖質(グルコース)のカロリーは1グラム当たり4kcalとされています。これはアトウォーター係数と呼ばれる指標で、19世紀末から20世紀初頭に米国のRubnerとAtwaterの研究から導き出されました。

でも、上でも書きましたが、グルコース1グラムの生理学的エネルギーは3.35kcalですし、ATPに格納できるのは1.31kcalです。4kcalではないですね。Wikipediaのアデノシン三リン酸のページを見ればわかりますが、ATPが発見されたのは1929年で、生体内でのエネルギー通貨としての役割を持つことが分かったのはもっと後です。つまり、RubnerとAtwaterは、ATPを知らずにアトウォーター係数を発表したと考えられます。

そのアトウォーター係数が、今でも健康産業で使われているのですから、おかしな話ですよね。

なお、グルコース1グラムのATP産生量と熱量は以下の過去記事で計算しています。

上の過去記事ではATP産生量を38分子としてカロリーを計算していますが、大平先生の著書では32分子説に基づいてカロリーを1.31kcalと計算しています。ちなみに32分子の場合の計算式を示すと以下の通りです。

  • 32mol×7.3kcal/180.16g=1.30kcal

0.01kcal異なっていますが、小数点以下の端数処理の影響だと思います。

それにしても、大平先生の「『代謝』がわかれば身体がわかる」は、生体内でのエネルギー代謝がわかりやすく解説されてますね。手書きの図がたくさん使用されていて、まるで、ホワイトボードに図を書きながら説明してもらっているような感じです。この本なら、エネルギー代謝について勉強したことがない方でも、すぐに理解できると思いますよ。でも、わかりやすいと言っても3回は読まないとダメでしょうけどね。3回も読んでられないと思うかもしれませんが、他の本だと5回は読まないと理解できませんよ。

勉強せずに東大に一発合格できる人なら、1回読むだけで理解できるでしょうが、普通の人はやっぱり3回でしょうね。

参考文献