酵素はタンパク質だから食べるとアミノ酸に分解される

最近、酵素という言葉を耳にする機会が多くなっています。テレビの健康番組やCMを見ていると、酵素が健康に良いとかなんとか言ってますね。

酵素は、タンパク質でできている物質で、体内での様々な化学反応と関係があります。食べたものを消化するためには消化酵素が必要になりますし、他にも数千種類の酵素が体内に存在しています。

だから健康維持に酵素を欠かすことはできません。

タンパク質はアミノ酸の集合体

酵素はタンパク質でできていると述べました。では、タンパク質は何からできているのでしょうか?

その答えはアミノ酸です。

タンパク質は、アミノ酸が100個以上くっついた集合体のことです。また、アミノ酸がくっついている個数によって、その集合体の名称は変わります。

  • ポリペプチド:アミノ酸が数十個結合したもの
  • オリゴペプチド:アミノ酸が2個から数十個結合したもの
    • トリペプチド:アミノ酸が3個結合したもの
    • ジペプチド:アミノ酸が2個結合したもの

トリペプチドもジペプチドもオリゴペプチドに含まれますが、アミノ酸の結合が3個の場合と2個の場合はこのようにいいます。ちなみに「トリ」は数字の3、「ジ」は数字の2を意味します。

アミノ酸は20種類ありますが、アミノ酸の組み合わさり方によって様々なタンパク質ができます。例えば、美容に深い関わりがあるコラーゲンやエラスチンなどは生体の強化や保護の役割を果たす構造タンパク質に分類されますし、酸素を運ぶヘモグロビンなどは体内の物質の運搬に関わる輸送タンパク質に分類されます。

そして、アミラーゼやペプシンといった生体反応を加速させる触媒の働きをするタンパク質が、酵素タンパク質、すなわち一般的に酵素と言われているものです。

タンパク質の消化吸収の仕組み

では、口から食べたタンパク質は、どのようにして消化吸収されるのでしょうか?

鶏の手羽先を食べたらそのままの形で体内に吸収されるわけではありませんし、豚足を食べてもそのままの形で吸収されて手足が豚の足のようになることはありません。

先ほども述べましたが、タンパク質はアミノ酸の集合体です。人間が食べたタンパク質は、胃や腸で消化され、最終的にアミノ酸まで分解されて体内に吸収されます。

  1. 胃に入った100個以上のアミノ酸の集合体であるタンパク質は、胃液に含まれる消化酵素のペプシンによって数十個のアミノ酸の集合体であるポリペプチドまで分解されます。
  2. ポリペプチドは十二指腸に移送され、すい臓から分泌されたトリプシン、キモトリプシン、カルボキシペプチターゼといった消化酵素により2個から数十個アミノ酸が結合したオリゴペプチドまで分解されます。
  3. 十二指腸から小腸に移送されたオリゴペプチドは、腸液に含まれるジペプチターゼやアミノペプチターゼといった消化酵素によりアミノ酸になります。
  4. アミノ酸は小腸上皮細胞に吸収されて体内に入ります。

要約すると、タンパク質は、胃や腸を通過しながら消化酵素の働きによってポリペプチド、オリゴペプチドと少しずつアミノ酸の結合がほどかれていき、最終的にアミノ酸まで分解されて体内に吸収されるということです。

アミノ酸になってしまえばタンパク質の種類は関係なくなる

酵素もタンパク質ですから、それを食べた場合にも腸の消化酵素によって最終的にアミノ酸まで分解されて吸収されます。

したがって、食べる前は美容に良い効果があると言われている酵素であっても、食べてしまえばアミノ酸まで分解されて吸収されますから、食べる前の美容に良い効果を発揮する酵素のままで体内に入るわけではありません。

これは、手羽先を食べても羽が生えてこないこと、豚足を食べても豚のような手足にならないことと同じようなものです。

ただ、酵素を食べることで、その酵素を作る材料となるアミノ酸を吸収しますから、体内で再び食べる前と同じ酵素が生産される可能性はあるでしょう。コラーゲンに関しても同じです。これについては栄養学博士の川島由起子先生監修の「カラー図解 栄養学の基本がわかる事典」で解説されていますので該当箇所を引用します。

コラーゲンを構成するアミノ酸は、ありふれた非必須アミノ酸で、ばらばらになってしまえば体内ではさまざまなたんぱく質の再合成に利用できるため、食物中のコラーゲンがそのまま皮膚のコラーゲンになるという科学的な根拠はないのです。ただ、コラーゲンペプチドという通常より大きな分子が吸収され、そのペプチドが全身で検出されたというマウスによる実験報告もあります。(56ページ)

コラーゲンを食べてもコラーゲンになるかはわかりませんし、コラーゲンを構成するアミノ酸が含まれたタンパク質を食べれば体内でコラーゲンが生産されます。

したがって、皮膚のコラーゲンが不足しているからと言ってコラーゲンを積極的に食べる必要はありませんし、美容に良い酵素がたくさん含まれている健康食品の類を摂取する必要もありません。

むしろ、必須アミノ酸が豊富に含まれている卵、豚肉、牛肉を積極的に食べた方が、肌の美容や健康維持に良いはずです。

食べたタンパク質はアミノ酸まで分解されて吸収されることを知っていれば、わざわざ値段の高い酵素を買う必要はないと判断できるでしょう。

参考文献