糖質とタンパク質の同時摂取はインスリン分泌量を増やす

炭水化物(糖質)を食べると、血糖値が上がって、それを下げるためにすい臓からインスリンが分泌されます。糖質摂取量が増えればインスリンの分泌量も増える傾向にあります。

糖質を摂取してインスリンが追加分泌されると、血中のブドウ糖を外に出して筋肉や脂肪組織に貯め込みます。だから、インスリンは肥満ホルモンとも呼ばれています。

糖質摂取量を少なくすれば、血糖値が上がりにくくなるのでインスリンの追加分泌も少なくて済みます。もちろん、インスリンの追加分泌が少ないと中性脂肪も体に蓄えられにくくなりますから、肥満の予防や改善にもつながります。

タンパク質を食べてもインスリンが大量分泌される?

インスリンは、タンパク質を食べた時も分泌量が増えるのですが、糖質摂取時と比較すると一気に分泌量が増えることはありません。

それなのにタンパク質を食べてもインスリンが大量分泌されると主張する人がいます。そして、そう言っている人がよく持ち出す実験結果があります。その実験は、高糖質食と高タンパク質食を比較した場合、高タンパク質食の方がインスリン分泌量が多かったというものです。それぞれの糖質とタンパク質の摂取量は以下の通りです。

  1. 炭水化物(糖質)=125g、タンパク質=21g
  2. 炭水化物(糖質)=75g、タンパク質=75g

摂取カロリーは、どちらも675kcalに統一しています。

さて、両者を比較して、「1」が低タンパク質食で、「2」が高タンパク質食であることはわかります。糖質摂取量から比べると、「1」が超高糖質食、「2」が高糖質食となっています。

なんてことはありません。どちらも、糖質摂取量が多いからインスリンが大量に分泌されたわけです。ただ、「2」の方が「1」よりもインスリン分泌量が多かったようですが、これをもって高タンパク質食がインスリンを大量分泌するとは言えませんね。インスリンは血糖値を下げるために分泌されるホルモンというのは生理学の基礎知識です。以下に石川隆先生監修の「カラー図解 生理学の基本がわかる事典」の該当箇所を引用します。

食事により血糖が上がると、ランゲルハンス島のβ細胞が刺激されて、インスリンが分泌されます。インスリンは、血液中のブドウ糖を体内の細胞に送りこんでエネルギー源に変えたり、脂肪に変えて脂肪組織にたくわえたり、グリコーゲンに変えて肝臓にたくわえるはたらきをします。また、骨格筋脂肪組織でのタンパク質合成を促進し、血糖を下げる作用があります。(58ページ)

こう言っても、「いや、タンパク質の摂取量が多いからインスリンが大量分泌されたんだ」と主張し続ける人はいるでしょうね。

糖質摂取で脳内のセロトニンレベルが上がる

前回の記事で、糖質を摂取するとインスリンが分泌されて、幸せホルモンのセロトニンの材料となるトリプトファンというアミノ酸が脳に届けられやすくなるということを紹介しました。

ここからも、糖質がインスリンを大量分泌し、タンパク質摂取ではインスリンがそれほど分泌されないことがわかります。

糖質を摂取すると、脳内のセロトニンレベルが上がることを実験で確かめたのはマサチューセッツ工科大学のリチャード・ワートマン教授です。実験内容については、生田哲先生の著書「食べ物を変えれば脳が変わる」で簡単に説明されています。

同教授が被験者を二グループに分け、一方にふつうアメリカで食べられている高タンパク質の朝食を、他方に高糖質の朝食を与えたところ、後者だけが脳内のセロトニンレベルが上がったことが判明した。後者にはトリプトファンがまったくふくまれていなかったにもかかわらず、である。
(中略)
じつは、バナナやフルーツジュースによって血糖値が上がるため、インスリンが放出されるのだが、このインスリンが、トリプトファンによる血液-脳関門の通過を助けるのである。(186~187ページ)

この文章を読めば、高タンパク質の食事は、例えトリプトファンを多く含んでいても、インスリンの分泌量がそれほど増えないので糖質摂取した場合との比較で脳にトリプトファンが届きにくいとわかるでしょう。

もう、これで、インスリンを大量分泌するのは糖質摂取時だと理解していただけるはずです。

でも、まだ食い下がってくる人がいるんですよね。データで示せとか言って。

タンパク質のみを摂取してもインスリンスパイクは起こらない

しつこくタンパク質摂取でも、インスリンが大量分泌されると言い張る人には、「臨床栄養士のひとり言」さんの下記記事に掲載されているインスリンの追加分泌のグラフを見せてやりましょう。

このグラフを見たら明らかなようにタンパク質のみを摂取した後にインスリンは分泌されますが、分泌のされ方は非常に穏やかで一気に大量に分泌されることはありません。

それに対して、炭水化物(糖質)のみを摂取した場合には、一気にインスリンが大量分泌され、急激に分泌量が減っていくインスリンスパイクが起こっているのがわかります。特に興味深いのが、炭水化物とタンパク質を同時摂取した場合は、炭水化物のみ摂取時よりも多くのインスリンを短期間に分泌し、激しくインスリンスパイクを起こしていることです。

もう、これで結論が出たでしょう。

この記事の最初の方で紹介した実験内容は、高タンパク質食の方がインスリン分泌量が多いという結果でしたが、それは同時に炭水化物も摂取したことが原因だったのです。

高炭水化物+高タンパク質の食事の実験結果を持ってきて、高タンパク質食でもインスリンが大量分泌されると主張して糖質制限を批判したいのでしょうが、論文の選択の仕方に問題があるでしょう。

最初は、高タンパク質食でもインスリンが大量分泌されるという文章を読んだときは、タンパク質だけを食べた場合もインスリンスパイクが起こるんだと思ってしまいましたよ。

現代日本で糖尿病が増えている原因がわかった気がする

今回、いろいろと調べていたら、なぜ、日本で肥満が増えつつあるのかがわかってきました。下の記事でも書いたのですが、日本人の摂取カロリーは減っていますし、糖質摂取量も減っています。

摂取カロリーが減っても肥満者が増えているから肥満の原因はカロリーだけでは説明できません。また、糖質摂取量も年々減っているので、日本人の肥満率上昇を糖質摂取量の増加とすることもできません。

なぜ、カロリー摂取量も糖質摂取量も減っているのに肥満率が増えているのか、ずっと疑問だったのですが、「臨床栄養士のひとり言」さんの記事を読んでひらめきましたよ。

現代人がよく食べる料理を思い起こしてみましょう。

牛丼、カツ丼、天丼、ハンバーガー、カツサンド、ハムサンド、サケ弁当、のり弁当、生姜焼き弁当、ビーフカレー、ポークカレー、天ぷらうどん、肉うどん・・・。

いろいろとありますが、ほとんどの料理が、炭水化物とタンパク質がセットになっています。どんぶり飯だけを食べてもインスリンスパイクは起こりますが、牛丼になるとタンパク質もセットで炭水化物を食べますから、さらに激しいインスリンスパイクが起こります。バランスの良い食事をすればするほど、炭水化物とタンパク質の同時摂取になりますから、大量にインスリンが分泌されて中性脂肪として体に蓄積されます。

戦前であれば、タンパク質の摂取量が今よりも少なかったので炭水化物のみの摂取で済む食事が多かったでしょう。だから、炭水化物ばかり食べても太りにくかったのかもしれません。

しかし、現代は、炭水化物とタンパク質がセットになっている食べ物が多いですよね。寿司はその典型です。回転寿司屋に行く機会が多い人だと、インスリンスパイク起こしまくりですね。

当然、炭水化物+タンパク質食はインスリンを一気に大量に分泌するのですから、すい臓への負担も大きくなるはずです。だから、炭水化物中心食だった時代よりも、現代の方が、カロリー摂取量が減ろうが糖質摂取量が減ろうが、糖尿病になる人が多いのではないでしょうか?

糖質制限批判には、その理屈はおかしいんじゃないかと思うことが多いです。でも、どこがおかしいかを考えて、いろいろと調べてみると新たな発見があるのですから、糖質制限を批判している人たちにも感謝しないといけませんね。

ありがたや~、ありがたや~。

フェイスブックやツイッターで、糖質制限の話題を出す機会がある方は、「臨床栄養士のひとり言」さんの記事をシェアしておきましょう。高タンパク質食でもインスリンスパイクが起こると言う人が出てきたときには、インスリン分泌のグラフを見せれば簡単に反論できますよ。

参考文献