すい臓のβ細胞の再生が糖尿病治療に活かされれば糖質制限の認知度が高まりそう

2016年12月に東北大学大学院医学系研究科糖尿病代謝内科学分野の山田哲也准教授、突田壮平助教、片桐秀樹教授らのグループが、将来の糖尿病治療を変えるかもしれない発見をしました。

これまでも現在も、糖尿病を発症すると治すことができないので、今以上に糖尿病を悪化させないようにする治療が行われてきました。糖尿病と診断されても、糖尿病が引き起こす合併症を未然に防げれば健常者と同じような生活を送れますから、糖尿病治療は合併症を併発しないようにすることが大切だとされています。

それが、今回の山田先生、突田先生、片桐先生らのグループの発見により糖尿病完治の可能性が出てきたのです。

マイクロRNAの静脈投与でβ細胞が再生

上記の研究内容は東北大学のプレスリリースに掲載されています。新聞でも報道されていたので、ご存知の方もいらっしゃるかと思います。

このページの下の方にあるPDFをダウンロードして読んでみると、マイクロRNA(miRNA)を糖尿病マウスに投与したらインスリン分泌が改善したと書かれていました。

同定した2種類のmiRNA(miRNA-106bとmiRNA-222)をインスリン分泌低下によって発症した糖尿病マウスに、静脈注射により投与したところ、膵β細胞が増殖することによってインスリン分泌が回復し、血糖値が改善しました。

糖質を食べると血糖値が上がります。血糖値が上がると、すい臓のβ細胞はインスリンを分泌して、筋肉や脂肪組織に血糖を取り込ませます。そうすると、元の状態まで血糖値が下がります。すい臓のβ細胞が壊れると、インスリンが分泌されなくなるので高血糖の状態が持続します。これが糖尿病です。

β細胞の自己再生能は低いので、一度壊れてしまうと元に戻すのが困難です。だから、糖尿病と診断されてインスリン分泌能が低下していることがわかった段階では、根治が厳しい状況となっています。

ところが、上の研究結果によると、糖尿病マウスではありますが、miRNAを静脈注射により投与したらβ細胞が増殖してインスリン分泌が回復したということですから、これが糖尿病治療に活かされるようになれば糖尿病を完治させることができるかもしれないのです。

インスリン抵抗性とインスリン分泌不全

糖尿病は、太っている人がなる病気だと思っている人は多いです。確かに太っていると、糖質摂取で上がった血糖値を下げにくくなります。筋肉や脂肪組織が、もうこれ以上血糖を取り込む余裕がないので拒否している状態です。これをインスリン抵抗性と言います。

インスリン抵抗性が増大すると、ちょっとのインスリン分泌で血糖を処理できなくなくので、すい臓のβ細胞がさらに多くのインスリンを分泌して、血糖を筋肉や脂肪組織に取り込まそうとします。インスリン抵抗性がある状況では、多くのインスリン分泌が必要になるので、β細胞に大きな負担を与えます。だから、太ってインスリン抵抗性が増大している人が糖質を摂取すると、β細胞が多くのインスリンを分泌して血糖を処理するので、β細胞が傷むのが早まります。

そして、β細胞が壊れてインスリン分泌不全に陥ると、糖尿病と診断されます。

インスリン抵抗性が増大していても、β細胞が元気であればインスリン分泌不全には陥っていません。だから、ダイエットしてインスリン抵抗性を改善できれば、β細胞が壊れるのを防げる可能性があります。インスリン抵抗性がなくても、もともとインスリン分泌が弱い人は、太らなくてもβ細胞が壊れて糖尿病を発症する危険があります。

インスリン抵抗性とインスリン分泌不全の関係を簡単に説明すると、以下の表のようになります。

インスリン分泌不全とインスリン抵抗性

β細胞が壊れてインスリン分泌不全に陥るのが糖尿病です。β細胞が元気でもインスリン抵抗性がある人は糖質摂取でβ細胞を酷使することになるので、将来的に本物の糖尿病になる危険があります。

多くの人が肥満が糖尿病の原因だと思っています。私も、以前はそう思っていました。だから、標準体重以下に自分の体重を抑えておけば糖尿病にはならないだろうと思い込んでいました。

ところが、糖質制限をするようになって、糖尿病は糖質の頻回摂取や大量摂取でβ細胞を酷使した結果発症する病気だとわかりました。今回の山田先生、突田先生、片桐先生らのグループの研究結果が臨床に活かされるようになれば、きっと多くの人が糖尿病はβ細胞が壊れてインスリンが分泌されにくくなる病気だと理解するようになるでしょう。

そうすると、多くの人がβ細胞を酷使してインスリン分泌能が低下する原因が、糖質の頻回摂取や過剰摂取だと気付くと思います。これがわかれば、肥満だから糖尿病になるのではないと理解できますし、糖尿病予防には糖質制限が大切だと理解できるはずなんですけどね。