甲状腺ホルモンの分泌が不足すると酸素消費量が減って太りやすくなる

先日、「ザ!世界仰天ニュース」というテレビ番組を見ていたら、体重が600kg近くある男性のことが紹介されていました。

その男性は、子供の頃から体が大きかったのですが、周りの子供たちと同じように運動しても太っていく体質でした。大人になると肥満が加速します。さらに交通事故で入院したこともあり、体重はどんどん増えていき600kg手前まで太ったということです。

甲状腺機能低下症だった

この男性のことを知ったある医師がダイエットに協力し、200kgの減量に成功しました。そして、その医師は、男性がこんなに太ったのは先天的な甲状腺機能低下症が原因だと述べていました。

甲状腺は首の下側にある器官で、ここからは甲状腺ホルモンとカルシトニンという2種類のホルモンが分泌されます。男性が極度の肥満になったのは、このうちの甲状腺ホルモンの分泌が不足していたことによると考えられます。

では、甲状腺ホルモンの分泌が不足すると、なぜ太るのでしょうか?消化器病学を専門とする石川隆先生監修の「カラー図解 生理学の基本がわかる事典」で、甲状腺ホルモンの働きが紹介されているので以下に紹介します。

体全体の代謝を活発にさせるのが甲状腺ホルモンで、体の成長・成熟・熱産生に関わっています。炭水化物やタンパク質、脂質などの代謝を促し、酸素消費量(基礎代謝量)を増加させます。
甲状腺ホルモンは、身体の成長に欠かせないホルモンですが、分泌が異常に高まると、基礎代謝の増加、頻脈発汗促進などの、甲状腺機能亢進症(バセドウ病)になります。逆に分泌が不足すると、精神活動の低下や手足のむくみなどの症状が出る甲状腺機能低下症(粘液水腫)がおこります。(142ページ)

人間が酸素を吸うのは、酸素を利用してエネルギーを作り出すためです。甲状腺ホルモンの分泌が不足すれば、酸素消費量が減るので、エネルギー産生量も少なくなります。だから、甲状腺機能低下症になると、糖質、脂質、タンパク質が体の中で余って太るということなのですね。

テレビ番組で紹介されていた男性は、生まれつき甲状腺機能低下症だったので、運動をしても肥満を解消できなかったのです。しかも、それに気づく医師がいなかったことも災いし、600kg近くまで太ってしまいました。

カロリー収支で体重管理はできない

さて、一般的に体重が増えるか減るかは、カロリー収支で決まるとされています。

  • 摂取カロリー>消費カロリーなら体重増加
  • 摂取カロリー<消費カロリーなら体重減少

摂取カロリーは、食事で補給した糖質、脂質、タンパク質から計算します。一方の消費カロリーは、その人の基礎代謝量や運動による消費カロリー量を合計して計算します。運動によるカロリー消費量の計算には、メッツ値というものを使ったりしますね。

上の計算式を見ても、甲状腺ホルモンがどれだけ分泌されているのかはわかりません。甲状腺ホルモンの分泌量は酸素消費量に影響を与えます。酸素消費量が多いほど生体内でのアデノシン三リン酸(ATP)というエネルギーの合成量が増え、酸素消費量が少なければATP合成量は減ります。

テレビ番組で紹介されていた男性は甲状腺ホルモンの分泌不足で酸素消費量が減り、ATP合成量も少なくなっていたから太ったんですよね。それなのにカロリー収支で太るか痩せるかが決まるというのは、いかがなものでしょうか。

生物・化学系ライターの大平万里さんの著書「『代謝』がわかれば身体がわかる」の以下の文章を読むと、動物はカロリー消費のためにエネルギーを生み出しているのではないと気付きます。

生命活動を維持するために必要なATPを合成するために、呼吸はある。エネルギー産生の代謝において重要なのは、「今どれだけATPが必要なのか」「需要量のATPを合成するための最適な代謝経路は何か」ということなのである。脂肪や糖質を消費するためにエネルギー産生の代謝があるわけではない。(160ページ)

ダイエットのためにエネルギーが作られるのではありません。その時の状況に応じて、身体の正常な状態を維持するためにエネルギーが作られるのです。状況に応じて、何をどこでどれだけ使ってエネルギーを作るかの判断は、自分の意思ではできませんから、一切を身体に任せるしかないですね。

さて、甲状腺ホルモンは、海藻や魚介類に多く含まれるヨウ素(ヨード)が構成成分になっています。だから、ヨウ素の補給は大切なのですが、摂り過ぎるとこれまた甲状腺機能低下につながります。成人女性の1日の要素の摂取量は、推奨量が130㎍、耐容上限量が3,000㎍です。海産物をよく食べる日本人は、ヨウ素の不足よりも過剰を意識した方が良さそうですね。

参考文献