タンパク質が体作りに使われることをカロリー計算は無視している

カロリー計算をする場合、糖質とタンパク質は4kcal/g、脂質は9kcal/gとするアトウォーター係数を使用します。

アトウォーター係数は、20世紀初頭に考案された方法で、糖質、脂質、タンパク質が持つ物理的燃焼値を消化吸収率や生体内で燃焼できない分を考慮して導き出したものとされています。ちなみに糖質、脂質、タンパク質の1グラム当たりの物理的燃焼値は以下の通りです。

  • 糖質=4.10kcal
  • 脂質=9.45kcal
  • タンパク質=5.65kcal

アトウォーター係数は、食べた糖質、脂質、タンパク質がエネルギー利用されることを前提としています。でも、タンパク質や脂質は体作りの材料としても使われますから、食べた全量がエネルギー利用されるわけではありません。

大人はエネルギー補給のために食べると思っていた

アトウォーター係数が考案された時代は、食事に関して誤った認識がありました。

「子供は成長するので、体作りに必要な栄養素と体を動かすためのエネルギー源を食事から摂取しなければならない。でも、大人は成長しきっているので、エネルギー源の補給だけが食事の目的になる」

これが昔の生物学の考え方でした。

今では、この考え方は間違っているとわかっていますが、アトウォーター係数が考え出された時代は、まだ古い考え方を前提としていましたから、大人の場合はタンパク質もエネルギー利用されると思われていたんですね。

でも、シェーンハイマーという生化学者が行ったネズミの実験によって、大人でも、食べたタンパク質が体のタンパク質に置き換わることがわりました。彼は1941年に自殺していますが、1935年に生体におけるターンオーバー(代謝回転)を明らかにしています。

分子生物学者の福岡伸一先生の著書に「生物と無生物のあいだ」があります。この本の中には、シェーンハイマーが行ったネズミの実験についての解説があります。

シェーンハイマーは、大人のネズミに重窒素で標識されたロイシンというアミノ酸を含むエサを3日間与えました。大人のネズミが食べたエサはすぐにエネルギー利用されて燃やされるに違いないと思ったシェーンハイマーは、アミノ酸の燃えかすに含まれる重窒素はすべて尿中に出現するはずだと考えていました。

ところが、結果はそうなりませんでした。

重窒素で標識されたアミノ酸は、尿中に27.4%しか出現せず、糞中にはわずか2.2%しか含まれていませんでした。

残りのアミノ酸(タンパク質)はどこに行ったのか?

半分以上の56.5%のアミノ酸がネズミの体のあちこちに分散されていたのです。特に取り込み率が多かったのは、腸壁、腎臓、脾臓、肝臓などの臓器、血清(血液中のタンパク質)だったそうで、筋肉タンパク質への取り込みははるかに低いことがわかりました。

タンパク質の摂取は体作りが主だろう

シェーンハイマーの実験で、摂取したタンパク質の半分以上は体の一部になることがわかりました。それも、目に見えないほど速いスピードで。

ところが、現代でも、シェーンハイマーの実験前に考案されたアトウォーター係数を使って熱量の計算が行われています。いつ、修正するんでしょうね。

脂質だって全てをエネルギー利用するわけではないですし、糖質だって食べ過ぎれば中性脂肪として体内に蓄えられエネルギー以外の用途に利用される部分があります。

シェーンハイマーの実験後、さらにDNAも発見され、遺伝子発現の仕組みが明らかにされました。遺伝子発現と聞くと難しそうですが、簡単に言うと体内でタンパク質を作るということです。食べたタンパク質が体内に吸収される時、アミノ酸に分解されますが、このアミノ酸が再び体内で並び替えが行われタンパク質が作られます。

大人はエネルギー源として栄養素を摂取するという考え方なら、糖質、脂質、タンパク質をどのように食べようが、必要なエネルギー量を摂取できれば問題ありません。ところが、実際は違います。タンパク質の作り替えが常に体内で行われているので、身体を維持するためにタンパク質は食べ物から補給しなければなりません。

「生物と無生物のあいだ」では、タンパク質の重要性を以下のように説明しています。

私たちが仮に断食を行った場合、外部からの「入り」がなくなるものの内部からの「出」は継続される。身体はできるだけその損失を食い止めようとするが「流れ」の掟に背くことはできない。私たちの体タンパク質は徐々に失われていってしまう。したがって、飢餓による生命の危険は、エネルギー不足のファクターよりもタンパク質欠乏によるファクターのほうが大きいのである。エネルギーは体脂肪として蓄積でき、ある程度の飢餓に備えうるが、タンパク質はためることができない。(163ページ)

この文章を読むと、食事量を減らしてもタンパク質の摂取量は減らさない方が良さそうです。

それにしてもカロリー信仰は根強いですね。どんなに新たな発見があっても、アトウォーター係数は修正されません。そもそも、タンパク質が4kcal/gの熱量というのは、どのようにして計算したのでしょうか。

参考文献