摂取カロリーと肥満率の推移を男女年代別に調べてみた

以前に以下の記事を書いたのですが、この記事について、高齢化の影響で高齢者の割合が増えて日本国民の摂取カロリーが減少傾向にあるのではないかといった指摘を受けました。

なかなか鋭い指摘で、その通りだなと思ったので、年代別の摂取カロリーと肥満率の推移を男女別々に調べてみました。

男性の摂取カロリーと肥満率の推移

まず男性の1日の摂取カロリーを年代別にみていきましょう。

20代、30代、40代、50代、60代、70歳以上でグループ分けし、1989年から2012年までの摂取カロリーの推移をグラフにしました。なお、2000年までは1人世帯の男性を対象にしていますので2001年以降と単純には比較できないと思います。2000年以前は、年ごとのばらつきが大きいですが、これは1人世帯を対象にしているからかもしれません。

男性の年代別摂取カロリーの推移

20代の摂取カロリーは、1989年が1,996kcalだったのが2012年には2,180kcalと増えています。しかし、摂取カロリーが増えているのは20代だけで、30代以降は減少傾向にあります。

このような傾向から、20代は肥満率が上昇していると予想されますし、30代以降は肥満率が低価していると予想されます。

ところが、下のグラフを見ていただければわかりますが、男性は全世代で肥満率が上がっています。

男性の年代別肥満率推移

摂取カロリーが減っていれば肥満率が下がりそうなものですが変ですね。

女性の摂取カロリーと肥満率の推移

次に女性の摂取カロリーと肥満率の推移を見ていきましょう。

女性は、全ての世代で摂取カロリーが減少傾向にあります。

女性の年代別摂取カロリーの推移

2012年には全体的に摂取カロリーが前年よりも増加していますが、1989年との比較では、全ての世代で摂取カロリーが減っていますね。

次に女性の肥満率の推移を見てみましょう。

女性の年代別肥満率推移

70歳以上の女性の肥満率が1989年は21.4%だったのに対して2012年は24.6%と上昇しています。大きな変動ではないですが、70歳以上の女性の肥満率は年々上がっているのがグラフから読み取れます。

他の世代は、2000年ころまでは、ほぼ横ばいで推移していますが、それ以降は20代で上昇傾向、40代から60代では低下傾向にあります。30代女性は、年ごとに肥満率が高かったり低かったりと波があります。

1989年と2012年との比較では70歳以上の肥満率が上昇傾向、その他の世代の肥満率は低下傾向にあります。

女性は男性と比較すると摂取カロリーの減少と比例するように肥満率も低下しています。ただ、摂取カロリーの減少に比べると、肥満率はそれほど大きく変化していないように思えます。

消費カロリーも考慮する

男性は摂取カロリーの減少と反比例して肥満率が上昇する傾向にあり、女性は摂取カロリーと比例して肥満率も低下する傾向にありました。

なぜ、男性と女性でまったく反対の傾向となっているのでしょうか。

ひとつ思いつくのが消費カロリーの違いです。

そこで、消費カロリーの推移を調べようと思ったのですが、これがなかなか難しいのです。そもそも、個人の消費カロリーを毎日計算し集計するのは困難です。特に筋肉質の人と痩せている人では、基礎代謝量が違うわけですから、運動量が同じだったとしても、消費カロリーは両者で違ってきます。

それで、どうやって消費カロリーを求めようかと考えていたところ、厚生労働省が「日本人の食事摂取基準(2015年版)策定検討会」報告書を公表しており、そこに推定エネルギー必要量の計算の仕方が掲載されていたので、それを消費カロリーの代わりに使ってみましょう。

18歳以上の成人の場合、推定エネルギー必要量は以下の計算式で求められます。

  • 推定エネルギー必要量(kcal/日)=基礎代謝量(kcal/日)×身体活動レベル

この計算式で推定エネルギー必要量を求めるには、基礎代謝量と身体活動レベルについて把握しておく必要があります。

基礎代謝量は体重から推定する

まず基礎代謝量の求め方ですが、これは体重から推定します。

ちなみに以下の表は2011年の男女別の平均体重を示したものです。

2011年の男女の年代別平均体重

基礎代謝量は、基礎代謝基準値に体重を乗じて計算します。

以下の表は、男性の基礎代謝基準値、参照体重、基礎代謝量を示したもので、この表から基礎代謝量を計算できます。

男性の参照体重における基礎代謝量

例えば、2011年の30代男性の平均体重が70.0kgなので、これに基礎代謝基準値22.3を掛けると基礎代謝量は1,561kcalと計算できます。

女性の場合も同じ計算方法ですが、基礎代謝基準値は男性よりも低くなっています。

女性の参照体重における基礎代謝量

30代女性の基礎代謝量は、平均体重53.9kgに基礎代謝基準値21.7を掛けると1,170kcalになりますね。

身体活動レベル

基礎代謝は、何もしなくても消費されるエネルギー量のことです。つまり、1日中寝ていたとしても、消費されるカロリーということですね。

上の計算で求めたように平均体重の30代男性は1,561kcalが基礎代謝量で、平均体重の30代女性は1,170kcalが基礎代謝量と推定されます。

しかし、基礎代謝量がわかっただけでは意味がありません。1日の活動によって消費したカロリーを基礎代謝量に加算しなければ、その日の消費カロリーとならないからです。

ほとんど体を動かさなかった場合、ジョギングをした場合、サッカーのような激しいスポーツをした場合、これらの活動量の違いを考慮して消費カロリーを計算する必要があります。厚生労働省の上記報告書では、身体活動レベルを「低い」「ふつう」「高い」の3段階に分けています。

  1. 低い:生活の大部分が座位で、静的な活動が中心の場合
  2. ふつう:座位中心の仕事だが、職場内での移動や立位での作業・接客等、あるいは通勤・買い物・家事、軽いスポーツ等のいずれかを含む場合
  3. 高い:移動や立位の多い仕事への従事者、あるいは、スポーツ等余暇における活発な運動習慣を持っている場合

身体活動レベルを年齢別に表したのが以下の表です。

年齢階級別に見た身体活動レベルの群分け(男女共通)

この表の身体活動レベルごとの数値を基礎代謝量に乗じて、1日の推定エネルギー必要量が求められます。

例えば平均体重の30代男性の身体活動レベルごとの推定エネルギー必要量は以下のようになります。

  1. 低い:1,561kcal×1.50=2,342kcal
  2. ふつう:1,561kcal×1.75=2,732kcal
  3. 高い:1,561kcal×2.00=3,122kcal

平均体重の30代女性の推定エネルギー必要量も計算しておきましょう。

  1. 低い:1,170kcal×1.50=1,755kcal
  2. ふつう:1,170kcal×1.75=2,048kcal
  3. 高い:1,170kcal×2.00=2,340kcal

摂取カロリーから推定エネルギー必要量を差引くと

さて、年代別の平均摂取カロリーと推定エネルギー必要量(消費カロリー)を導くことができました。

摂取カロリーが消費カロリーを上回れば太る、反対に摂取カロリーが消費カロリーを下回れば痩せると一般的に言われています。30代男性は肥満率が上昇し続けているので、きっと摂取カロリーが消費カロリーを上回っているはずです。30代男性のカロリー収支を身体活動レベル別に見ていきましょう。なお、2011年の30代男性の平均摂取カロリーは2,117kcalです。

  1. 低い:2,117kcal-2,342kcal=-225kcal
  2. ふつう:2,117kcal-2,732kcal=-615kcal
  3. 高い:2,117kcal-3,122kcal=-1,005kcal

おかしいですね。

身体活動レベルが低い場合でも、カロリー収支がマイナスとなっているのにどうして30代男性の肥満率が上昇傾向にあるのでしょうか?

30代男性が全員デスクワークの仕事をしていて、しかもマイカー通勤でほとんど歩かない人ばかりだったとしても、摂取カロリーが推定エネルギー必要量を下回っているので、痩せている人が多くないと辻褄が合わないのですが。

これに関しては、厚生労働省の上記報告書で摂取カロリーについては過少申告する傾向にあると指摘されていたので、もしかしたら、公表されている摂取カロリーよりも本当は多いのかもしれません。

でも、例え摂取カロリーを過少申告していたとしても、摂取カロリーが年々減少しているのであれば、肥満率は下がる傾向にあると思うのですが。

30代男性全員がデスクワークに従事しマイカー通勤でほとんど運動しない場合、つまり身体活動レベルが低い場合でも、エネルギー収支がマイナスになっているのですから、ほとんどの30代男性は標準体重よりも痩せていないとおかしいと思うんですけどね。

やっぱり、太りやすいとか痩せやすいとかいうのは、カロリーよりも何を食べたのかに影響されやすいのではないでしょうか。

糖質を摂取するとインスリンが追加分泌されて、それを脂肪として体内に貯め込むわけですから、カロリーコントロールではなく糖質摂取量をいかに制限するかが肥満の予防には大切だと思いますよ。