糖尿病になると心筋梗塞などの冠動脈疾患の発症率と死亡率が高くなる

糖尿病は、高くなった血糖値を下げることができなくなる病気で、高血糖の状態が続くと様々な合併症を併発します。

糖尿病の合併症には様々ありますが、その中でも心筋梗塞などの冠動脈疾患は、命にかかわる危険な病気です。糖尿病ではなくても冠動脈疾患を発症することはありますが、糖尿病になると、その発症率や死亡率は極めて高くなります。

2型糖尿病者の冠動脈疾患発症率は約6倍高い

インターネットで検索していると、「月間糖尿病」の2010年7月号の「糖尿病と冠動脈疾患の疫学」というページの一部が出てきました。

この特集記事を執筆されたのは、東京慈恵会医科大学 糖尿病・代謝・内分泌内科の西村理明先生です。

記事の中では、フィンランドで行われた「Finish Study」という糖尿病がもたらす冠動脈疾患の危険度について、具体的な大きさを検討した研究内容が掲載されていました。

2型糖尿病者と非糖尿病者をあわせて約2,400人を対象として7年間追跡調査したものです。過去に心筋梗塞になったことがあるかないかでも分けられており、そのグラフが示されていました。以下は、そのグラフから作った表で、内容は上記特集記事に掲載されているものと同じです。

糖尿病と心筋梗塞発生率
心筋梗塞既往なし 心筋梗塞既往あり
非糖尿病者 3.5% 18.8%
2型糖尿病者 20.2% 45.0%

この表を見ると明らかなように2型糖尿病者は非糖尿病者よりも、心筋梗塞を発症する確率が高くなっています。心筋梗塞既往のない2型糖尿病者は20.2%となっており、心筋梗塞既往のない非糖尿病者との比較で約6倍高いです。

心筋梗塞既往のある非糖尿病者が再び心筋梗塞を発症する確率が18.8%ですから、2型糖尿病の方は過去に心筋梗塞になったことがなくても、心筋梗塞既往のある方と同じくらい発症する危険があるということですね。

心筋梗塞での死亡率は2型糖尿病者の方が高くなる

さらに上記研究の対象者を18年間経過観察した内容のグラフも掲載されていました。

そのグラフには18年間の累積死亡率が示されています。

男性の場合、冠動脈疾患既往のない2型糖尿病者の累積死亡率は40%近くあるのに対して、冠動脈疾患既往のある非糖尿病者のそれは25%ほどとなっています。

女性の場合は、冠動脈疾患既往のない2型糖尿病者の累積死亡率は35%ほどあるのですが、冠動脈疾患既往のある非糖尿病者だと5%を超えている程度しかありません。

男女どちらでも糖尿病になると、心筋梗塞での死亡率は、心筋梗塞既往歴のある非糖尿病者よりも高くなっています。おそらく、糖尿病と診断された時点で、冠動脈疾患既往のある非糖尿病者よりも血管が傷んでいるのでしょうね。

日本国内での研究でも糖尿病者は冠動脈疾患発症率は高い

西村先生の特集記事では、日本での糖尿病と冠動脈疾患発症率との関係についても掲載されています。

1996年4月より行われたJDCSというもので、日本人2型糖尿病患者2,205人を対象とした生活指導の効果を検討する前向き研究で、冠動脈疾患(狭心症と心筋梗塞)と脳卒中の発症率やリスク因子を検討したものだそうです。

なお、登録時の対象者の平均年齢は59歳、平均罹病期間は11年です。

研究結果によれば、7年間で心血管疾患発症率は1,000人年あたり虚血性心疾患8.0、脳卒中7.4とのこと。9年次中間報告で1,000人年あたりの冠動脈疾患発症率は9.6、脳卒中は7.6であり、それぞれ一般住民の約3倍、約2倍だったそうです。

西村先生は、「日本人においても糖尿病に罹患すると,冠動脈疾患の発症率は確実に欧米人の値に近づきつつあることが示されている」と結論を述べています。

心筋梗塞の原因

心筋梗塞は、アテローム性動脈硬化が原因とされています。

アテローム性動脈硬化は、傷ついた血管の内側の壁を修復する際にできるアテローム性プラークが大きくなることで起こります。アテローム性プラークは、簡単に言うと、かさぶたのようなものです。このアテローム性プラークが大きくなって血管をふさいでいくのがアテローム性動脈硬化です。

そして、心臓の近くで血管がふさがると心筋梗塞、脳の近くでふさがると脳梗塞となります。

お餅をのどに詰まらせると窒息死することがありますが、心筋梗塞や脳梗塞もこれと同じように発症すると急死する危険性が高い病気です。糖尿病は心筋梗塞の危険性を高めますから、日頃から糖尿病には注意しなければいけませんね。

歯科医の花田信弘先生は、著書の「白米が健康寿命を縮める」の中で、アテローム性動脈硬化の原因について以下のように述べています。

アテローム性動脈硬化は、血管内皮細胞がくり返し損傷を受けることで起こります。
この損傷のリスク因子としては、一般的には高血圧、タバコの煙、糖尿病、高い血中コレステロール値などが指摘されていますが、私としてはじつは、歯周病患者に日常的に生じている歯原性の菌血症がその大きなリスク因子になっていると声を大にして主張したいのです。(40ページ)

歯周病になると、歯茎が常に炎症を起こした状態になりますから、そこから侵入した細菌が血管にも炎症を作り、アテローム性動脈硬化を引き起こします。だから、歯の手入れは、歯周病だけでなく心筋梗塞の発症を予防するためにも、とても大切です。

そして、花田先生は、糖質を摂取すると血糖値が上がって血管を傷めるグルコーススパイクも起こすことを指摘しています。

著書のタイトル通り、白米を常食することで健康寿命が縮むわけですね。

参考文献