海水を飲むと脱水症状を起こすのなら高血圧対策に減塩は無意味なのでは?

高血圧の対策や予防には減塩、つまり、ナトリウムの摂取量を減らすことが大切だと言われていますよね。

これって本当なのでしょうか?

いや嘘でしょう。

のどが渇いた時に海水を飲むのはなぜいけないのか?

夏になると海水浴に行く人もいらっしゃるでしょう。私はもうずいぶん長いこと海水浴に行ってませんが。

海で泳いだり、砂浜で日焼けをしたりビーチボールで遊んだりしていると、のどが渇いてきます。夏は暑いですからね。海の中に入っていても、汗をかいてのどが渇くものです。

でも、どんなにのどが渇いたからと言っても、海水を飲んではいけません。おそらく、過去に同じことを人から言われたことがあるでしょう。

海水を飲んだらいけないのは、脱水症状を起こすからです。なぜ脱水症状を起こすのかというと、海水のナトリウム濃度が3.5%なのに対して人間の体液のナトリウム濃度が0.9%と低く、体液のナトリウム濃度を適切な濃度に保つために飲んだ海水以上に水分を排泄しないといけないからです。

栄養学博士の川島由紀子先生監修の「カラー図解 栄養学の基本がわかる事典」にその仕組みが分かりやすく解説されていますので引用します。

もし海水を飲み、その水分も塩分(ナトリウムや塩素などのミネラル)も、腸から吸収されたとすると、浸透圧を維持するためには、体液より濃度の濃い分、つまり余分なミネラルを体外へ排出しなければなりません。ヒトのミネラルの排出経路は、尿になります。
ここで問題が生じます。海水のミネラル分を排出するには、海水よりも高い塩分濃度の尿をつくらないと、摂取した分より多い水分が尿として排泄されてしまいます。残念ながらヒトは海水よりも高濃度の尿をつくることはできません。海水を飲めない理由は、実は腎臓の尿の濃縮能力にあったのです。ヒトが海水1Lを飲むと、余分な塩分を排出するために1.35Lの尿が必要とされます。体内の水分を差し引き0.35L失うことになるのです。(114ページ)

塩分濃度3.5%以上の尿を腎臓で作ることができれば、海水を飲んで脱水症状を起こすことはないのですが、残念ながら人間の腎臓はそんな高濃度の尿を作れないんですね。

余分な塩分は体外に排泄される

海水を飲むと脱水症状を起こすことと、高血圧に減塩が無意味ということがどう関係するのかと疑問に思うかもしれません。

でも、よく上の引用部分を読んでもらえれば、その理由がわかります。

海水を飲むと脱水症状を起こすということは、人間は必要な水分を失ってでも余分な塩分を体外に排出しようとするわけですよね。それなら、普段の食事でナトリウムを多く摂取したとしても、体液の濃度が濃くなりすぎないように腎臓で尿を作り体外に排泄するはずです。

この機能が備わっている限り、塩分の摂り過ぎで体液が濃くなって高血圧になることはないでしょう。

これについては、分子生物学に詳しい三石巌先生の「医学常識はウソだらけ」でも述べられています。

食塩の摂り過ぎが高血圧の原因とされたのは、食塩の摂取量が多い東北地方で高血圧になる人が多かったからです。でも、東北地方でもリンゴの生産地では高血圧になる人は少なかったそうです。

その理由は、リンゴにはカリウムが多く含まれているからです。

三石先生によると、人間の体にはナトリウム0.6に対してカリウムが1.0の比率で存在しているので、食物から摂取するナトリウムとカリウムもこの比率に近づけるのが望ましいとのこと。でも、食事のたびにナトリウムとカリウムの比率を計算しなくても問題ありません。

ナトリウムやカリウムは過剰に摂取されても、通常は適切な量だけ吸収されて、過剰分はすみやかに腎臓から尿へ捨てられる仕組みになっている。しかし、この排出能力が低い人の場合、体液の濃度が高くなってしまうのである。(39ページ)

腎臓の排出能力を調べずに「高血圧には減塩だ」というのは、おかしいということですね。

カルシウムとマグネシウムの摂取比率も大切

現在、高血圧は原因のはっきりとしない本態性高血圧と原因がはっきりとわかっている二次性高血圧の2種類に分類されています。そして、高血圧患者の約9割が本態性高血圧だそうです。

原因が分からない本態性高血圧の患者が9割もいて、その人たちに「高血圧には減塩だ」と言うのは乱暴ですよね。原因が分からないのに塩分の過剰摂取が高血圧の原因だと言っているのですから。

三石先生は、血圧のコントロールにはカルシウムとマグネシウムの摂取比率も大切だと述べています。すなわち、カルシウム2に対してマグネシウム1の比率で食物から摂取するのが理想です。

血圧のコントロールにはカルシウムとマグネシウムの摂取比も大切である。動脈の収縮にカルシウム、弛緩にマグネシウムが関わっているからである。マグネシウムは、ナトリウムやカルシウムを細胞の外へ出したり、縮んだ筋肉を緩める働きがあり、高血圧や不整脈を予防することがわかっている。
マグネシウムはカルシウムの二分の一以上を毎日摂ることが望ましい。(39~40ページ)

結局、血圧に関係しているのはナトリウムだけではないので、それだけをコントロールしても無駄と言うことです。ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム、これらのミネラルを体にとって必要な量を摂取するように心掛けるべきなんですね。

だからと言って、ナトリウム0.6:カリウム1.0、カルシウム2.0:マグネシウム1.0になるように食物に含まれる成分を調べる必要はなく、多めに摂取すれば問題ないでしょう。なぜなら、余分なものは外に排泄される仕組みになっているのですから。

むしろ、注意しなければならないのは、これらのミネラルが不足しないようにすることなのではないでしょうか?

精製塩よりも天然塩が健康に良い?

さて、検索エンジンで塩分と高血圧の関係を調べてみると、高血圧に減塩は無意味だということが解説されているサイトやブログをたくさん見つけることができます。

世の中に正しい情報が広まることは良いことだと思いながら、それらを覗いてみるのですが、多くのサイトやブログで精製塩は悪で天然塩が健康に良いと記載されています。文章を読んでみると、精製塩には塩化ナトリウムしか含まれていないからダメで、天然塩にはナトリウム以外にもカリウム、マグネシウム、カルシウムといった様々なミネラルが含まれているから体に良いと言うのです。

これって、どこかでよく見るおかしな文章ですよね。

そうそう、米やパンなどの主食を食べない糖質制限をすると、それらに含まれている食物繊維やビタミン、ミネラルが補給できないから栄養不足になるという論調と全く同じです。

米を食べなくても、納豆や豆腐から食物繊維を補給できますし、肉や魚からもビタミンやミネラルを摂取できます。それと同じで、精製塩からはナトリウムしか補給できなかったとしても、他の食品から各種ミネラルをしっかりと摂れば何の問題もないことですよね。

納豆や豆腐には、カリウム、カルシウム、マグネシウムが含まれていますから、それに精製塩を振り掛けて食べれば血圧にかかわる4種類のミネラルを摂取可能です。

もちろん、精製塩の製造過程で異物が混入したり、人体に悪い影響を与える化学物質を添加しているのなら危険でしょう。でも、そうでなければ精製塩を特別悪者扱いする必要はないのではないでしょうか?

それよりも、天然、自然由来、植物性だから善、精製されている、合成成分、動物性だから悪といった固定観念の方が、問題を引き起こすことになると思うのですが。

参考文献