グルコースが主要エネルギー源でないのは1ヶ月間不食で生きられることから明らか

俳優の榎木孝明さんが、1ヶ月間水のみで生活する、いわゆる不食を実施していたことが話題となっています。

飴や塩飴などを食べることもあったそうですが、基本的には1日に1リットルから2リットルの水だけしか体に入れていなかったそうです。コーヒーとお茶なんかもありだったそうですが、1ヶ月間はほとんど水分補給だけということです。

あれ?人間の主要エネルギー源はグルコース(ブドウ糖)と言われているのになぜ1ヶ月間も、ほとんど糖質を補給せずに榎木さんが生きられたのか不思議ですよね。

人間は糖質摂取が必要ない生物

その答えは簡単です。人間は糖質摂取を必要としない生き物だからです。

つまり、グルコースが主要エネルギー源だという考え方が間違っているのです。人間は、糖質(グルコース)をグリコーゲンという形で、肝臓に100グラム程度、筋肉に300グラム程度蓄えることができます。ただし、筋肉に300グラムのグリコーゲンを貯蔵できるのは、筋肉質のムキムキの人です。一般人だと、そんなにも筋肉にグリコーゲンを蓄えれません。

肝臓と筋肉合わせて400グラムのグリコーゲンを蓄えれたとしても、1,600kcalしかありません。成人男性の1日の基礎代謝量が1,500kcalほどあるので、食事から糖質を補給しなければ1日で枯渇する量です。

しかも、筋肉に蓄えられたグリコーゲンは筋肉が利用するためのもので、他の部分に融通することができません。そうすると、肝臓に蓄えた100グラムのグリコーゲンだけで人間は活動しなければなりませんが、それは無理でしょう。

そのような危ういエネルギー源である糖質を主要なエネルギー源だと解釈するのは、どうなのでしょうか?

1ヶ月間水分摂取のみだと何をエネルギー源とするのか?

榎木さんが1ヶ月間水分摂取のみで生き続けたということは、グルコース以外の物質をエネルギーに使ったと考えられます。わずか100グラムのグリコーゲンで、1ヶ月間、活動できないでしょうからね。

この場合、グリコーゲンではなく中性脂肪を主に利用して活動していたと普通なら考えます。

体重50kg、体脂肪率20%の場合、単純に計算すると体内の中性脂肪の量は10kgとなります。脂質は1グラム当たり9kcalですから、中性脂肪10kgだと9万kcal分のエネルギーを生み出すことができます。成人男性の60日分の基礎代謝量に相当します。

榎木さんが、1ヶ月間水分しか摂取しなくても生きていられたのは、中性脂肪を活動のためのエネルギーとして利用していたからではないでしょうか?仮に榎木さんが不食前に10kgの中性脂肪を持っていたのなら、30日間の不食でも、まだあと30日分のエネルギーを体内に残していることになりますね。

これなら、榎木さんが1ヶ月間の不食を終えて元気でいることに納得できます。

脳はケトン体もエネルギー源にできる

よく脳の唯一のエネルギー源はブドウ糖(グルコース)だと言われます。

これが事実なら、榎木さんの脳は不食開始後まもなく機能停止していたでしょう。肝臓に蓄えていたわずか100グラムのグリコーゲンしか使えないのですから。

でも、榎木さんの脳が機能停止しなかったのは、人間の体には脂質とタンパク質からグルコースを生み出す糖新生という機能が備わっているからです。糖新生は、成長ホルモンなど様々なホルモンが分泌されると行われます。そして、糖新生で生み出されたグルコースを脳や赤血球は利用できるのです。

また、脳は脂肪酸が分解されてできるケトン体もエネルギー源として利用できます。これについては様々な書籍で解説されています。その中から栄養学博士の川島由起子先生監修の「カラー図解 栄養学の基本がわかる事典」の該当箇所を引用します。

脳は、エネルギー源として脂肪酸が使えず、基本的にはグルコースのみを使う。しかし、飢餓などの非常事態には、脂肪酸が分解されて生じるケトン体(アセト酪酸やβヒドロキシ酪酸)もエネルギー源として利用できる。(80ページ)

しっかりと栄養学の本にも、脳がケトン体を利用できると書かれているのです。「飢餓などの非常事態」となっていますが、要は体内のグルコースが減ってくると、脳はケトン体も利用し始めるということでしょう。

よく脳がエネルギー源にできるのはグルコースのみだから、糖質をしっかりと摂取しなければならないと言われます。中には、疲れた時には体が吸収しやすい砂糖を摂取して、脳にグルコースを送ることが大切だと述べている人もいますが、これは論外ですね。

血糖値は、血液1デシリットルあたり100ミリグラム程度に維持されていますので、大量に砂糖を食べたとしても、すい臓からインスリンが追加分泌されて、上昇した血糖値を1デシリットルあたり100ミリグラムまで下げようとします。だから、砂糖を大量摂取しても、脳が活発に働くことはないでしょう。

むしろ、糖質を過剰に摂取していたら糖尿病になってしまうので、極力控えた方が良いのです。

榎木さんが1ヶ月間の不食を終えたことは、脳がグルコースのみをエネルギー源としていないことを証明したようなものですね。

ちなみに榎木さんは1ヶ月の不食で80kgから71kgまで体重が減ったそうです。

参考文献