現代日本で、食べるものに困るということは、そうそう起こりません。飽食の時代とも言われていますから、よほどのことがない限り、餓死することはないでしょう。
だから、多くの日本人が栄養が足りていると思っているわけですが、どうもそれは怪しそうです。むしろ、多くの日本人が低栄養状態にあるような気がするんですよね。
たんぱく質・エネルギー低栄養状態(PEM)
栄養学博士の川島由起子先生監修の「カラー図解 栄養学の基本がわかる事典」で、たんぱく質・エネルギー低栄養状態について解説されています。これは、PEM(protein-energy malnutrition)とも言われており、痩せ、浮腫、低体温、免疫力の低下といった症状が現れます。
PEMには、クワシオルコル、マラスムス、両者の混合型があり、臨床の現場では混合型が最も多いそうです。
クワシオルコルは、エネルギーは足りているものの、たんぱく質が著しく欠乏した状態で起こる低栄養状態です。一方のマラスムスは、エネルギー、たんぱく質の両方が長期にわたって不足した結果起こる低栄養状態です。
両者を比較したのが下の表です。
マラスムスは、脂肪も筋肉も少なく、外見からもあきらかに痩せているとわかります。この状態になれば周囲も低栄養状態だと気付くでしょうから、本人にもっと食べろと言えば、栄養状態が改善されそうに思えます。
私が問題だと思うのは、クワシオルコルの方です。
前掲書の13ページにクワシオルコルとマラスムスのイラストが掲載されているのですが、クワシオルコルの場合は、服を着た状態だと、ごく標準的な体形に見えるはずです。でも、服を脱げば全体的に筋肉量が少なく、お腹周りに脂肪が付いているので、体重は標準を維持しているものの、なんとなく太ってるように見えます。
日本人はクワシオルコルだらけじゃないの?
PEMは、発展途上国では今も深刻な問題なのですが、日本でも悪性腫瘍、肝硬変患者、高齢者に見られるそうです。高齢者だと、感染症や合併症を起こしやすく、筋肉減少で日常生活動作が低下し、寝たきりにつながりやすいとのこと。
最近では、ロコモティブシンドロームという筋肉、骨、関節、軟骨、椎間板といった運動器に障害が起きて日常生活に支障をきたす状態が問題視されていますが、これも運動不足よりも低栄養が大きな要因なのではないでしょうか?
特に日本人は、クワシオルコルが多いように思えます。
カロリーの60%を炭水化物で補給し、肉を控えめにしましょうといった栄養指導が今でも行われていますが、これがまさにクワシオルコルになる原因でしょう。
米や小麦ばかりを食べていては、糖質の過剰摂取になり、お腹周りに脂肪がつくのは当たり前です。それでも、肉もたくさん食べていれば同時に筋肉も付くでしょうから、低栄養状態にはなりません。でも、米や小麦でお腹を満たし、肉を控えて野菜中心の食生活をしていれば、タンパク質の補給量が絶対的に不足するはずです。
そうすると、筋肉は少ないのにお腹周りには脂肪が付いているクワシオルコルの状態になりやすいはずです。それでも、体重は標準体重を維持しているので、自分が低栄養状態にあることは気づきません。糖質を過剰摂取していた時の私が、まさにクワシオルコルだったと思います。
体重は標準だったのですが、筋肉量が少なく脇腹に脂肪が付いていました。
そして、糖質制限を開始すると、今度はエネルギーも不足する状態となりました。これは、マラスムスでしょう。
現在は、糖質制限をしながらタンパク質と脂質を多めに食べるように努力をしていますから、低栄養状態を改善しつつあります。でも、まだBMIが18.5なので、ギリギリ標準体重を維持できているかどうかといったところです。
よく痩せているよりも小太りの方が長生きをすると言われます。これは、おそらく標準体重の人でも、炭水化物(糖質)中心の食生活をしていてクワシオルコルの状態になっているから、小太りの人よりも早死にするのでしょう。
一方の小太りの人は、糖質の過剰摂取になっているものの、タンパク質や脂質といった体の土台をつくる栄養素をしっかりと補給しているから、痩せ型の人よりも長生きなのではないでしょうか?
そう考えると、低栄養状態から脱出し健康的な体をつくるためには、糖質摂取量を極端に少なくし、タンパク質と脂質の摂取量を大幅に増やして標準体重を維持する必要がありそうです。
なお、「カラー図解 栄養学の基本がわかる事典」は、Amazonで前半部分を読むことができます。第2版だと13ページにクワシオルコルとマラスムスのイラストが掲載されているので、一度ご覧になると良いでしょう。