赤血球がミトコンドリアを持たない理由を考えてみようか

人間は、体内でアデノシン三リン酸(ATP)というエネルギーを作り出して活動しています。体内でATPを産生しているのは、主に細胞内にあるミトコンドリアと呼ばれるエネルギー工場です。他に解糖系でもATPは作られますが、その量はミトコンドリアと比較すると大した量ではありません。

細胞は基本的にミトコンドリアを持っていて自家発電できるのですが、なぜか赤血球だけはミトコンドリアを持っていません。

なぜ、赤血球はミトコンドリアを持っていないのか?

不思議に思いませんか。

赤血球の働き

まずは、赤血球がどのような細胞で、どういった役割を担っているのかを確認しておきましょう。消化器病学、肝臓病学、健康管理を専門にされている石川隆先生監修の「カラー図解 生理学の基本がわかる事典」で、赤血球の働きが簡単に説明されているので引用します。

赤血球は、直径約8㎛の中央がくぼんだ円盤状の形をしています。他の細胞とちがって核がなく、その中には水分やヘモグロビンという鉄をふくむ色素が入っています。赤血球の最も重要な役割は酸素を運ぶことです。
これはヘモグロビンの鉄に酸素が結合するからです。ヘモグロビンは酸素の多いところでは酸素を結合しますが、酸素の少ないところでは酸素を放出します。ヘモグロビンから離れた酸素は、組織の活動のエネルギーとして使われます。(110ページ)

簡単に言うと、赤血球は酸素の運び屋ということですね。また、赤血球は二酸化炭素も運搬するので、体内でガス交換を行う働きをしています。

先ほども述べましたが、細胞のエネルギー工場はミトコンドリアです。そして、ミトコンドリアは酸素が供給されなければATPを生み出すことができません。したがって、赤血球はATPを産生するために必要な酸素を各細胞に送り届ける役割を果たしているのです。

赤血球がミトコンドリアを持っていたらどうなるか?

では、赤血球がミトコンドリアを持っていたらどうなるかを考えてみましょう。

何度も言いますが、ミトコンドリアは酸素を利用してATPを作り出します。もしも、赤血球がミトコンドリアを持っていれば酸素を利用してATPを作り出すのではないでしょうか?

それはそうだろうと思うでしょうが、ここで、あることに気付いたのです。

酸素の運び屋である赤血球にミトコンドリアがあると、体内の細胞に送り届けなければならない酸素を赤血球が自ら消費してしまいます。すると、赤血球以外の細胞に酸素が行き渡らなくなります。酸素を得られなかった細胞はミトコンドリアでATPを作り出せないのでエネルギー不足に陥ってしまいます。

全身の細胞がエネルギー不足になれば、きっと、人間は生きていけないでしょう。だから、赤血球に酸素を消費できないようにするため、ミトコンドリアを持たせなかったのではないでしょうか?

例えるなら、運送屋さんがお客さんに届けなければならないお中元やお歳暮を食べてしまうようなものです。運送屋さんはそのようなことをしませんが、赤血球は酸素を他の細胞に送り届けなければならないことを理解しているのかどうかわかりません。もしも、それを理解していないのであれば、ミトコンドリアを持たさない方が良いでしょう。

そう判断して、赤血球からミトコンドリアを取り上げたのかもしれません。

赤血球もミトコンドリアを持っていた

実は、赤血球もミトコンドリアを持っていたそうです。

「東京医科歯科大学 難治疾患研究所 病態細胞生物学分野」の教授である清水重臣先生の解説が以下のウェブサイトに掲載されています。

  • 赤血球からミトコンドリアが除かれるしくみを解明! | 特集記事 | NatureJapanJobs | Nature Publishing Group(左記ページは閉鎖しています)

清水先生の見解は以下のとおりです。

「ミトコンドリアが取り除かれるのは、酸素を消費するミトコンドリアが赤血球内に存在すると、ヘモグロビンに結合する酸素が少なくなって体の組織に運搬されるべき酸素が減るのを防ぐためだと思われます」

やはり、赤血球が酸素を自家消費するのを防ぐことが理由のようですね。

でも、それが理由で赤血球からミトコンドリアが取り除かれるのかどうかはわかりません。人間は何にでも理由をつけたがります。しかし、どんなに辻褄が合っていても、赤血球からミトコンドリアが取り除かれる理由はこれだと言いきることはできません。

「赤血球はミトコンドリアを持っていない」

この事実だけ知っておけば良さそうです。別に知らなくても生きていくのに何の不都合もありませんけどね。

参考文献