喫煙率低下と肺がん死亡数増加の理由は炭水化物摂取量減少と糖尿病患者数増加にも当てはまる

2015年12月11日の朝日新聞に「グラフによれば、たばこは無害?」という記事が掲載されていました。

日本人の喫煙率は年々低下しているのですが、肺がん死亡数は増加する傾向にあったことから、たばこと肺がんとの間に因果関係はないという主張があります。でも、上記記事によると、これは統計を使ったごまかしだということです。

そして、炭水化物の摂取量が減っているのに糖尿病と糖尿病予備軍の数が増加しているから、炭水化物と糖尿病との間に因果関係はないと主張する人たちも、このごまかしを使っています。

グラフの期間を長くとれば喫煙率と肺がん死亡者数は相関する

私は、たばこと肺がんに因果関係があるのかどうかは知りません。世の中では、両者は関係あるとされていますから、そうなのだろうと思っている程度の知識でしかありません。

なので、たばこの何が体にどう影響して肺がんになるのかはわかりません。

でも、喫煙率の低下と肺がん死亡数の増加には因果関係がないとする主張がおかしいことはわかります。朝日新聞の記事では、下のような「X」型のグラフが紹介されていました。

喫煙率と肺がん死亡数の推移

このグラフを見ると、確かに喫煙率と肺がん死亡数は比例していません。むしろ、喫煙率が低下しているのに肺がん死亡数が増えているのですから、たばこを吸わないと肺がんになるという主張も成り立ちます。

しかし、グラフの時間軸を長くとると、喫煙率と肺がん死亡数は相関関係にあることがわかります。

喫煙率と肺がん死亡数の長期推移

朝日新聞の記事が言いたいことは、喫煙による悪影響は長い時間をかけて現れるということです。そして、グラフの時間軸を短くして見ると、あたかも喫煙率と肺がん死亡数が反比例しているように見えるので、真逆の結論を導き出してしまう危険があるのです。

炭水化物摂取量は減っているが糖尿病とその予備軍は増えている

日本人の炭水化物の摂取量は年々減少しています。

厚生労働省が公表している「国民健康・栄養調査」を見ると、国民1人当たりの1日の炭水化物の摂取量を調べることができます。1955年から2010年まで5年間隔で国民1人当たりの炭水化物摂取量を表にしました。

日本人1人当たり炭水化物摂取量の推移

5年単純平均(kg)は、例えば、1955年と1960年の場合は炭水化物摂取量を2で割った148kgとなります。1960年と1965年との5年単純平均は143kgです。1年ごとに数字を取得するのが面倒だったので、5年単純平均を計算しました。

この1年間の炭水化物平均摂取量を基にして、日本国民が生涯にどれだけの炭水化物を摂取しているのかを推定してみました。なお、1955年以前は1955年の150kgを毎年の炭水化物摂取量と仮定し、それ以降の期間は5年単純平均を用いて計算しています。また、2000年の男性の炭水化物摂取量は平均値よりも約9%多く、女性は約9%少なかったので、全期間で9%の調整をして計算した結果も掲載しています。

生涯炭水化物摂取量の推移

男性の場合、1955年の平均寿命が64歳です。そして、64歳までの炭水化物摂取量は10,470kgと推定されます。その後、男性は、平均寿命まで生きた場合、右肩上がりで炭水化物摂取量が増えていき、2000年から減少し始めています。

また、女性の場合は、1955年の平均寿命が68歳です。この年の平均寿命まで生きた場合の炭水化物摂取量の累計は9,287kgと推定されます。女性も男性同様に一生涯での炭水化物摂取量は増加傾向にあり、2010年で減少しています。

このように国民1人当たりの炭水化物摂取量は、単年度では減少していますが、近年まで一生涯の累計では増加傾向にありました。そして、糖尿病と糖尿病予備軍の数も増加傾向にありますから、両者はそれなりに相関関係があると言えそうです。

糖尿病の年代ごとの割合

次に糖尿病と糖尿病予備軍の年代ごとの割合を見てみましょう。

まずは男性です。

糖尿病と糖尿病予備軍の年次比較(男性)

70歳以上の糖尿病とその予備軍の割合は、1997年が22.6%だったのに対して2012年は40.9%まで上昇しています。70歳以上の男性はほぼ2人に1人が糖尿病かその予備軍なので、この数は深刻ですね。

しかし、30代では、1997年が6.1%、2012年が3.2%と約半分にまで減少しています。40代と50代も微減です。

60代から糖尿病と糖尿病予備軍が増えているのは、1997年時点での40代と50代の糖尿病予備軍の方が2012年時点で60代以上になっていることが理由でしょう。

女性の場合は、1997年と比較して2012年は30代と40代の糖尿病と糖尿病予備軍の割合が減少しています。特に40代では糖尿病が5.4%から1.7%まで大きく減っています。

糖尿病と糖尿病予備軍の年次比較(女性)

女性は男性よりも糖尿病と糖尿病予備軍の割合が全体的に小さくなっています。女性の方が健康を意識しているからなのかもしれません。ただ、30代では男性よりも女性の方が、2012年時点で糖尿病と糖尿病予備軍の割合が大きくなっています。妊娠糖尿病になる方もいるでしょうから、その影響も考えられます。

若い世代で糖尿病と糖尿病予備軍が減っている

1997年と2012年の糖尿病と糖尿病予備軍の割合の比較で興味深いのは、30代で糖尿病と糖尿病予備軍が減少していることです。特に女性は40代でも減少傾向にあります。

これはどういうことなのでしょうか?

考えられる理由はいろいろあるでしょう。

炭水化物摂取量が減少しているということも、その一つでだと思いますね。

炭水化物の大部分は、血糖値を上げる糖質です。糖尿病は、高血糖の状態が続く病気です。その原因は血糖値を上げる糖質の頻回摂取、血糖値を下げるインスリンを分泌する能力が弱くなっていることが原因とされています。

そして、糖質を多く摂取したり、頻回に摂取していると、すい臓が疲れてきてインスリンを分泌できなくなると言われています。

若い時から炭水化物をたくさん食べていた世代は、30代で糖尿病と糖尿病予備軍の割合が高く、若い時に炭水化物の摂取量が少なかった世代は30代での糖尿病と糖尿病予備軍の割合が低くなっています。

炭水化物の摂取量と摂取回数が増えるほど、糖尿病になりやすいと予測できそうです。

統計に納得しない

ここまで読まれた方は、糖尿病の原因は糖質の過剰摂取だと思ったのではないでしょうか?

でも、脂質やタンパク質の摂取量も、きっと増加傾向にあるはずです。だから、脂質の摂り過ぎが糖尿病の原因、タンパク質の摂りすぎが糖尿病の原因という結論を導き出すことも、統計を使えば可能です。

統計で導いた結論は妄想ですよ。

統計よりも、糖質、タンパク質、脂質を食べると体の中でどういった反応が起こるのかを勉強する方が大切でしょう。

直接血糖値を上げるのは糖質だけ。

これを知っていれば、米、麦、砂糖など、糖質が多い食べ物を控えることが糖尿病の予防に有効だとわかると思うのですが。