いまだに糖質制限でケトアシドーシスになると言っているお医者さんがいる

アシドーシスは、体液が酸性に傾き、体に不調が出る状態です。

乳酸やケトン体は酸性なので、これらの血中濃度が高まるとアシドーシスになることがあります。糖質制限をすると、血中のケトン体濃度が高まるのでアシドーシスになると言われていますが、ケトン体濃度が高まるだけではアシドーシスにはなりません。ケトン体濃度が高まり、アシドーシスになる時は高血糖になっています。つまり、ケトン体濃度が高まって起こるケトアシドーシスは、血中のブドウ糖濃度も同時に高まっているわけです。

これをわかっていないお医者さんは、いつまで経っても、糖質制限でケトアシドーシスになると言い続けます。

血中のブドウ糖濃度とケトン体濃度は同時に高くならないのが普通

そもそもの話として、血中のブドウ糖濃度が高い状態、すなわち、高血糖になっている状態ではケトン体濃度が高くなることは通常は起こりません

ケトン体は、肝臓や腎臓で、脂肪酸のβ酸化が進み、アセチルCoA(コーエー)がオキサロ酢酸よりも多くなった時に作られます。

中性脂肪は、グリセロール1個と脂肪酸3個からできていますが、中性脂肪をエネルギー利用する場合は、脂肪酸に分解する必要があります。脂肪酸は、β酸化によりアセチルCoAとなった後、オキサロ酢酸とくっついてクエン酸になります。細胞内のミトコンドリアでは、このクエン酸を酸化してアデノシン三リン酸(ATP)というエネルギーを作り出します。クエン酸が酸化されるとオキサロ酢酸になり、再びアセチルCoAとくっついてクエン酸となって酸化されるという流れが延々と繰り返されます。これをクエン酸回路といいます。

アセチルCoAは、ブドウ糖からも作られます。ブドウ糖は解糖系を経てピルビン酸になり、その後、アセチルCoAとなってオキサロ酢酸とくっつきクエン酸になります。その後の反応は、上記と同じです。

ここで、知っておかないといけないのは、血糖値が高い状況ではブドウ糖からATPが合成される反応が進み、血糖値が低いと脂肪酸からATPが合成される反応が進むということです。つまり、ブドウ糖と脂肪酸の両方からATPが同時に大量に作られるという仕組みにはなっていないのです。

なぜこのような仕組みになっているのかというと、血糖値が上がるとすい臓からインスリンが分泌されホルモン感受性リパーゼの働きが抑制されるからです。

血糖値が低いとホルモン感受性リパーゼの働きが活発になり、中性脂肪の分解が進みます。反対に血糖値が高いとインスリンの作用により、ホルモン感受性リパーゼの働きが抑えられ中性脂肪の分解が進まなくなります。

中性脂肪の分解が進まなければ、脂肪酸から合成されるアセチルCoAの量も減ります。だから、肝臓や腎臓で合成されるケトン体も減るわけですね。

この仕組みを知っていれば、血中のブドウ糖濃度が高い状態とケトン体濃度が高い状態は、同時に起こらないことが理解できます。

糖尿病の場合、高血糖と高ケトンが同時に起こることがある

ところが、糖尿病になると、高血糖と高ケトンが同時に起こることがあります。

先ほど血糖値が上がるとインスリンが分泌されると述べましたが、糖尿病になると、インスリンの分泌量が減ってきます。

インスリン分泌が少なくなると、ホルモン感受性リパーゼの働きを抑えられなくなりますから、中性脂肪の分解が進みケトン体濃度が高くなっていきます。このような状況で糖質を食べると血中のブドウ糖濃度が高いにもかかわらず、インスリンの分泌量が少ないので、ケトン体濃度も高い状態が維持されます。

高血糖と高ケトンが同時に起こらない状況ではケトアシドーシスにはなりません。しかし、糖尿病になって高血糖と高ケトンが同時に起こるとケトアシドーシスになる危険があります。

「だから、糖尿病の人は、糖質制限をするな」

と言う医師がいるのですが、これはおかしいですよね。

糖尿病になってインスリン分泌が減っている状態では、ホルモン感受性リパーゼの働きが活発になっていますから、血中のケトン体濃度は高くなります。通常なら、糖質を食べてインスリンが分泌されれば、ホルモン感受性リパーゼの働きが抑えられるので、ケトン体合成も抑えられます。しかし、糖尿病の人は、インスリンの分泌が少ないので、糖質を食べても中性脂肪の分解が進み続けます。

インスリンが分泌されない状況で糖質を食べて血糖値を上げたら、高血糖と高ケトンが同時に起こるのは当たり前です。

したがって、糖尿病の人がケトアシドーシスを起こさないようにするには、糖質制限をして血糖値を上げないようにするべきなのです。

最近は、糖尿病の人にSGLT2阻害薬という糖尿病薬が処方されるようになっています。この薬は、尿細管からのブドウ糖の再吸収を抑える薬で、糖質制限をしているのと同じような状態を作り出します。だから、SGLT2阻害薬を服用していると、血中のケトン体濃度が高まります。

以前は、ケトン体はケトアシドーシスになるから危険だと言われていましたが、SGLT2阻害薬が開発されて以降は、ケトン体は臓器を保護する良い物質だと言われるようになっています。

もう、ケトン体を悪と考える時代は終わったんですよ。

それにもかかわらず、いまだにケトン体は危険だと言っているお医者さんは、ちょっとどうなんだろうと思いますね。