脳のエネルギー消費量とブドウ糖必要量

以前は、脳の唯一のエネルギー源はブドウ糖だと言われていました。現在では、肝臓でアセチルCoA(コーエー)から合成されるケトン体も脳はエネルギー源として利用できることがわかっています。

なので、脳はブドウ糖とケトン体の両方を利用してエネルギーを作り出しています。

ところで、脳はブドウ糖とケトン体をどのような比率でエネルギー源として利用しているのでしょうか?

脳のエネルギー消費量は約300kcal/日

まず、脳は1日にどれくらいのエネルギーを消費しているかを知っておきましょう。

厚生労働省が公表している「日本人の食事摂取基準2015年版」の144ページを読むと、1日の基礎代謝量が1,500kcalと仮定すると、脳のエネルギー消費量は300kcalになるとされています。以下に該当箇所を引用します。

仮に基礎代謝量を1,500 kcal/日とすれば、脳のエネルギー消費量は300 kcal/日になり、これはぶどう糖75 g/日に相当する。上記のように脳以外の組織もぶどう糖をエネルギー源として利用することから、ぶどう糖の必要量は少なくとも100 g/日と推定され、すなわち、消化性炭水化物の最低必要量はおよそ100 g/日と推定される。

ブドウ糖1グラム当たりの熱量は4kcalとされているので、脳が300kcalのエネルギーを全てブドウ糖で賄うとしたら75グラム必要になる計算です。また、全身で100グラムのブドウ糖が必要ですから、脳以外の組織には25グラムのブドウ糖が供給されなければならないことになります。

脳はケトン体をどの程度利用するのか?

次に脳はケトン体をどの程度利用しているかを知らなければなりません。

ガンの治療食に免疫栄養ケトン食を活用している医師の古川健司先生の著書「ケトン食ががんを消す」では、絶食時に脳が、必要なエネルギー量の60%以上をケトン体から得ていることが記載されているので引用します。

脳が使うエネルギーの割合に関しても、平常時にブドウ糖が100%を占めていたのに対して、絶食時にはケトン体が60%以上を占めていたという報告が残っています。
つまり、たとえブドウ糖が枯渇しても、脳細胞にはケトン体をエネルギーとする機構が備わっているのが、いまでははっきりしているのです。(58ページ)

この文章を読めば、最後の食事から時間が経過するにしたがって、脳はブドウ糖からケトン体にエネルギーを依存する割合が高まっていくと言えそうです。

脳へは1日に30グラムのブドウ糖が供給されれば問題ないはず

脳が1日に必要とするエネルギー量は300kcalです。そのうち60%まではケトン体で賄えますから、残りの40%、つまり120kcalをブドウ糖に依存すれば、脳は問題なく働けるはずです。

120kcalはブドウ糖30グラムに相当します。したがって、脳へブドウ糖を供給するために食事からブドウ糖を摂取する場合、30グラムで足りることになります。脳以外の組織が25グラムのブドウ糖を必要としますから、1日に55グラムのブドウ糖(糖質)を摂取すれば問題ないですね。これは、京都高雄病院の江部康二先生が提唱する1日60グラム未満まで糖質摂取量を制限するスーパー糖質制限をしても、お釣りが来る量です。

でも、本当に1日に55グラムの糖質摂取量で問題ないのでしょうか?

これについても、「日本人の食事摂取基準2015年版」の144ページに記載されているので読んでみましょう。

しかし、これは真に必要な最低量を意味するものではない。肝臓は必要に応じて、筋肉から放出された乳酸やアミノ酸、脂肪組織から放出されたグリセロールを利用して糖新生を行い、血中にぶどう糖を供給するからである。(中略)そのため、この量を根拠として推定必要量を算定する意味も価値も乏しい。さらに、炭水化物が直接ある特定の健康障害の原因となるとの報告は、後述するように、生活習慣病の一種としての糖尿病を除けば、理論的にも疫学的にも乏しい。そのため、炭水化物については推定平均必要量(並びに推奨量)も耐容上限量も設定しない。同様の理由により、目安量も設定しなかった。

この文章を素直に読めば、55グラムどころか、それよりも少ないブドウ糖摂取量でも問題ないことはわかるはずです。

古川先生がガン治療で指導する免疫栄養ケトン食では、1日に糖質摂取量を総摂取カロリーの5%に抑えています。1日に総摂取カロリーを2,000kcalとすれば糖質からのエネルギー摂取は100kcal、つまり、たったの25グラムでしかありません。

結局、脳が1日に必要とするブドウ糖摂取量はどれくらいになるのでしょうか?

ゼロでいいんじゃないですか。ゼロで。体内でタンパク質や脂肪からブドウ糖を作り出して脳に供給できますからね。

総摂取カロリーの約60%を糖質で賄わなければならないと言っている人は、「日本人の食事摂取基準」を読んでないのでしょうね。そんなことを言う人やそう思っている人は、144ページに記載されているこの1文を読んでおきましょう。

炭水化物と糖尿病との関連を考えるためには、絶対量(g/日)よりも総エネルギー摂取量に占める炭水化物由来のエネルギーの割合(% エネルギー)が多用されている。これは、炭水化物が現実として主要なエネルギー源でもあるため、エネルギー源としての炭水化物の摂取量と、炭水化物そのものの健康障害への直接影響との二つを同時に考慮しなくてはならないからであると考えられる。

「炭水化物が現実として主要なエネルギー源」と書かれていますね。「現実として」と。この1文は、炭水化物(糖質)が理論的には主要なエネルギー源ではないと言っていることになりませんか?

参考文献