人間も含め動物は、生命活動を維持するために体内でアデノシン三リン酸(ATP)というエネルギーを生み出しています。そして、ATPを生み出すためには、食事からその材料を補給しなければなりません。
動物がATPを体内で生み出すために必要な材料は、主に糖質(ブドウ糖)と脂質(脂肪酸)です。ブドウ糖でも脂肪酸でも、どちらからでもATPを生み出せますが、主要なエネルギー源と言われているのはブドウ糖です。
エネルギーの大部分は太陽光から獲得している
ブドウ糖こそが主要なエネルギー源だとする考え方には、様々な根拠があります。その中に太陽光から獲得するエネルギーが、生命活動に利用される全エネルギーの大部分を占めていることを根拠とする考え方があります。
理学博士の林純一先生の著書「ミトコンドリア・ミステリー」を読んでいて、そのような考え方があることを知ったわけですが、これがなかなか興味深いんですよ。ちなみに本の全体の内容は、ミトコンドリアがガンや老化の原因になっているという説が本当なのかどうかを解明していくというもので、ミトコンドリアがどのようにATPを生み出しているのかの解説にはあまり紙数が割かれていません。
ミトコンドリアは、我々人間はもちろんのこと動物の細胞内に存在する小器官で、酸素を利用して大量のATPを作り出す働きをしています。動物はミトコンドリアが作り出したATPなくしては生きていけませんから、とても重要な存在です。
太陽光、つまり光エネルギーを動物は直接利用できません。だから、動物は、光合成によって光エネルギーを体内に蓄えた植物を食べなければ生命活動に必要なエネルギーを得られないのだそうです。ちょっと長くなりますが、該当箇所を引用します。
生命活動に利用されるエネルギーの源のほとんどは太陽から降り注いでくる光のエネルギーに由来する。しかし、生物は光のエネルギーを直接ATPに変換することはできない。ATPを作り出すためには長く複雑なエネルギー変換の道をたどらなければならない(図3-3)。
光のエネルギーを化学エネルギーに最初に変換するのは、植物の細胞に存在する葉緑体という細胞小器官である。葉緑体は光合成を行い、水(H₂O)と二酸化炭素(CO₂)と光のエネルギーから、ブドウ糖(C₆H₁₂O₆)と酸素(O₂)を作り出す。つまり、光のエネルギーはブドウ糖の中に化学のエネルギーとして導入されるわけだ。
私たちは、このようにして植物が光合成で作ったブドウ糖などの栄養素を食事によって摂取し、植物が光合成によって作った酸素を呼吸で取り込む。体内に入ったブドウ糖は小腸で、酸素は肺で血液に入る。そして、個々の細胞は血液によって運ばれてきたこのブドウ糖と酸素を取り込み、それに引き続いてミトコンドリア内で大量のATPを生産する酸素呼吸が行われる。(53~54ページ)
簡単に言うと、動物が光エネルギーから生命維持に必要なATPを獲得するためには、植物が作り出したブドウ糖を食べる必要があるということですね。
植物から動物への壮大なエネルギー移行
上記の光エネルギーから動物がATPを作り出す過程を図にすると以下のようになります。なお、この図の作成には、ICON HOIHOIさんが配布されている素材を利用しています。
まず、植物は太陽光、二酸化炭素、水から光合成によってエネルギーを獲得します。そして、獲得したエネルギーはブドウ糖に蓄えられるとともに酸素を作り出します。上の図の①のところですね。
次に動物が、果実、豆、根っこなどを食べて、それらに含まれているブドウ糖を体内に取り込みます。また、酸素も吸います。ブドウ糖は様々な化学反応を経て細胞内小器官のミトコンドリアに渡されます。ミトコンドリアは、酸素を利用しながら植物がブドウ糖に蓄えたエネルギーをATPという形で獲得します。上の図の②の部分です。この際、動物は二酸化炭素と水を体外に排出します。
このように動物は、植物が太陽光から得た化学エネルギーを貯蔵しているブドウ糖を食べなければ生きていけません。さらに動物がATPを獲得する際に排出した二酸化炭素と水が、上の図の③のように植物の光合成に利用されるとすると、植物と動物との間で壮大なエネルギー産生の仕組みができあがっていると言えます。
妄想も壮大化する
この植物と動物との間のエネルギーのやり取りを知った時、なんてよくできた仕組みだと感心しました。よくこんなことを思いついたものです。誰だって、このように説明されると植物がブドウ糖を作り出さない限り動物は生きていけないと思うはずです。
でも、海の深いところに棲んでいる深海魚はどうなんでしょうか?光が海底まで届いているのでしょうか?仮に海底に光が届いていても、そこに光合成を行える植物が生息しているのでしょうか?
もしも、海底に植物がいなければ深海魚はどうやってATPを獲得しているのか、さらなる疑問がわいてきます。
そもそも、陸に棲んでいる動物だってすべてが草食ではありません。また、草食動物も植物から栄養補給しているというより、胃や腸で飼っている微生物にエサをやるために植物を口から消化管に入れているのですから、植物が作り出したブドウ糖からATPを獲得していると言い切れるのでしょうか。植物を食べて増殖した微生物を草食動物が食べ、その草食動物を肉食動物が食べるのだから、間接的に草食動物も肉食動物も、植物が作り出したブドウ糖を食べてエネルギーを獲得していると言えなくもありません。
そもそも植物は動物にエネルギー供給するためにブドウ糖を作り出しているのでしょうか。それだと、食べられることを前提に植物は生きていることになりそうです。そして、酸素も動物のために作り出していると。
これらは、おそらく壮大な妄想でしょう。
酸素は、植物にとって単なる排気ガスであり、それを動物が利用しているだけ。ブドウ糖も、たまたま動物がエネルギー利用できるだけ。動物は脂肪酸からもATPを獲得できるのですから、ブドウ糖に全エネルギーを依存する必要はないですしね。
それにしても、よくできた理屈です。