インスリンが分泌されるとホルモン感受性リパーゼの働きが抑制される。だから中性脂肪が溜まって太るのだ。

糖質を食べると、なぜ太るのか?

それは、糖質が体に入ってくると血糖値が上がり、それに反応したすい臓のβ細胞がインスリンを追加分泌して、糖質(血糖)を中性脂肪(トリアシルグリセロール/トリグリセリド)に変えて脂肪組織に蓄えるからです。インスリンは、何も食べなくても少しずつ分泌されていますが、糖質を食べた時に大量に分泌されます。だから、ダイエットをしている人は、糖質摂取を控えると成功しやすくなります。

でも、脂質を食べても中性脂肪が脂肪組織に蓄えられるのだから、結局、糖質だけでなく脂質も制限しなければ痩せないのではないかと疑問を持つ方もいらっしゃるでしょう。

中性脂肪の分解

脂質を食べると、どのようにして脂肪組織に蓄えられるのかについては、以下の記事をご覧になってください。

脂肪組織に蓄えられた中性脂肪は、何もしなければ減ることはありません。「何もしなければ」と聞くと、「やっぱり、ダイエットには運動が大事なんだ」と思うかもしれませんが、ここでは、そういうことを言ってるのではありません。

脂肪組織に蓄えられた中性脂肪をエネルギー利用するためには、脂肪組織の外に出して筋肉などで消費しなければなりません。そのためには、まず脂肪組織に蓄えられた中性脂肪が脂肪組織の外に出られるようにする必要があります。

中性脂肪は、1つのグリセロールに3つの脂肪酸がくっついた物質です。中性脂肪の状態では、グリセロールも脂肪酸も脂肪組織の外に出られませんから、いったん中性脂肪を1つのグリセロールと3つの脂肪酸に分解する作業をしなければなりません。

その作業をしてくれるのが、ホルモン感受性リパーゼです。

ホルモン感受性リパーゼは、脂肪組織に蓄えられた中性脂肪に働き、スパッ、スパッ、スパッとグリセロールと脂肪酸に切り分けてくれます。すると、脂肪酸は脂肪組織の外に出られるようになり、遊離脂肪酸として血中をさまよい、各組織でエネルギー利用されます。

ホルモン感受性リパーゼの働きを活性化させるのは、グルカゴン、アドレナリン、成長ホルモン、糖質コルチコイドなどのホルモンです。これらのホルモンは、血糖値を上げる働きをしており、血糖値を下げる働きをするインスリンに対してインスリン拮抗ホルモンと総称されます。

ホルモン感受性リパーゼの働き

この図を見れば、脂肪組織に蓄えられたトリアシルグリセロール(中性脂肪)が、ホルモン感受性リパーゼによって分解され、脂肪酸がエネルギー利用されている限りは太らないとわかるでしょう。脂肪組織に入る脂肪酸と出ていく脂肪酸が同量であれば、体脂肪率に変動はないでしょうし、入りが多ければ体脂肪率が上がり、出が多ければ体脂肪率が下がるはずです。

インスリンがホルモン感受性リパーゼの働きを抑制

摂取した糖質が、脂肪組織に貯蔵されるためにはインスリンの関与が必要です。

糖質(血糖)は、グルコーストランスポーターという輸送体を使わなければ組織に取り込まれません。脂肪組織に血糖を取り込むグルコーストランスポーターは、GLUT4と呼ばれ、インスリンが分泌されると発現します。わかりやすく言うと、脂肪組織のドアを開けて玄関から血糖を入れる感じですね。

脂肪組織に入った血糖は中性脂肪に変わって蓄えられていきます。

そして、中性脂肪がホルモン感受性リパーゼに分解されて脂肪酸になれば、血管に入って遊離脂肪酸となり、各組織でエネルギー利用されます。糖質摂取は、結局、脂質摂取と変わらないじゃないかと思うかもしれません。しかし、糖質摂取を引き金にインスリンが分泌されると、脂肪組織にGLUT4を発現させるだけでなく、ホルモン感受性リパーゼの働きを抑えてしまいます。

つまり、インスリンがたくさん分泌されていると、脂肪組織の中性脂肪の分解が進まず、脂肪組織が膨れ上がっていくのです。

インスリンがホルモン感受性リパーゼの働きを抑制

糖質が脂質よりも太りやすいのは、脂肪組織に蓄えた中性脂肪を脂肪酸に分解してエネルギー利用するのを邪魔するインスリンがたくさん分泌されるからなんですね。

他方、糖質制限でインスリンの分泌を抑えておけば、血糖値を上げるためにインスリン拮抗ホルモンが分泌され、それに伴ってホルモン感受性リパーゼの働きも活性化されるので、常に中性脂肪の分解が行われます。糖質制限ダイエットや低炭水化物ダイエットは、低インスリンダイエットとも言われていますが、さらに突っ込んだ言い方をすると、ホルモン感受性リパーゼ活性化ダイエットと言えそうです。

医師の釜池豊秋先生は、著書の「糖質ゼロの食事術」の中で、インスリンの脂肪組織に対する働きは、血糖処理よりも貯蔵脂肪の分解をストップさせる方がメインではないかと述べています。

インスリンは、貯蔵した脂肪を脂肪酸に分解する酵素、ホルモン感受性リパーゼの働きを封じてしまいます。貯蔵脂肪の分解がストップすると、血中の脂肪酸が減ります。筋細胞は好みの脂肪酸が手に入らないので、仕方なくいなやブドウ糖を取らざるを得なくなるのです。(128ページ)

また、糖質制限食を糖尿病治療に活かしている江部康二先生も、著書の「『糖質オフ!』健康法」で糖質摂取が太りやすいことを述べています。

糖質を優先的に使うと、二重の意味で太りやすくなります。ひとつは、からだの脂肪が燃えにくくなる。もうひとつは、とり過ぎたぶんの糖質が脂肪になってしまう。いってみれば、脂肪増加の負のスパイラルが生じることになります。(102ページ)

簡素な文章ですが、インスリンが、脂肪組織にGLUT4を発現させて血糖を取り込ませること、ホルモン感受性リパーゼの働きを抑制して脂肪の分解を止めることが、述べられているわけですね。

糖質も脂質も、摂取すれば脂肪組織に中性脂肪として蓄えられますが、インスリンが分泌されて中性脂肪の分解が抑制される分だけ糖質の方が贅肉が蓄積されやすいです。肥満予防や痩身に糖質制限が有効なのは、中性脂肪を分解するホルモン感受性リパーゼの働きが抑えられないことにあったんですね。

余談ですが、中学生や高校生の時と同じ食事内容なのに大人になって太りやすくなったという人がいらっしゃると思います。これは、中学生や高校生の時は、成長ホルモンが大量に分泌されてホルモン感受性リパーゼが活性化し中性脂肪の分解が進みやすかったのが、大人になって成長ホルモンの分泌量が減りホルモン感受性リパーゼが働きにくくなっているからなのかもしれません。

参考文献