現代の和食を昔の日本人は食べていない

日本は長寿国とあって、日本人の生活習慣が世界的に注目されているようです。海外でも、日本の文化が知られるようになり、和食は健康食だという情報も広まっていると、テレビ番組で紹介されることがあります。

こういう番組を見ると、「日本人は古来から和食を食べてきたから健康で長生きできるんだ」と思いがちですが、この認識は間違っていると言っていいでしょう。

食事は基本的に地産地消

現代の和食のイメージは、一汁三菜ではないですか。

形成外科医の夏井睦先生の著書「炭水化物が人類を滅ぼす【最終回答編】」によると、一汁三菜が全国に普及するのは昭和50年代以降だそうです。そして、同書では、近藤正二先生の著書「日本の長寿村・短命村」の内容も要約されていて、これがなかなか興味深いのです。

近藤先生は昭和初期から中期にかけて、日本全国の食事内容と寿命を調査した結果を著書にまとめています。夏井先生の著書の92ページで、その内容が要約されているので以下に紹介します。

  • 食材はその土地で採れるものに限られ、食材のバラエティに乏しい。
  • 毎日同じものを食べていて、料理法のバランスも乏しい。
  • 隣り合った村同士なのに、食事(食材)が全く異なっていることがまれではない。
  • コメを食する地域もあれば、ほとんどコメを食べない地域もある。
  • コメを多食する村は短命村であり、長寿村はない。野菜や海藻を多食する村は全て長寿村。
  • 村人たちは、「〇〇を食べる(食べない)のはこの村の風習だから」と回答している。

戦前は、一汁三菜どころか、各地域で全く異なる食事をしていたんですね。しかも、米を多食する村は短命村というのですから、現代の和食の中心的存在とも言える米が寿命を縮めていたと考えることができます。それ以前に戦前の日本人は全員短命なんですけどね。

日本人1人当たり炭水化物摂取量の推移

戦前までは、日本人は、その土地で採れたものを食べていたのですから地産地消だったのです。物流が発達していない時代ですから、当たり前と言えば当たり前なのですが、一汁三菜が和食の基本だと思い込んでいると、山国でも魚を食べていたように思ってしまいますね。

地産地消で栄養が偏るのは当たり前

最近では、地産地消が大切だと言われています。地域経済を活性化させるには地産地消は良いのかもしれませんが、それと健康や長寿とは関係ありません。むしろ、健康のことを考えると地産地消にこだわるのは愚かなことです。

だって、山国の人は山菜ばかりを食べて魚を口にしないのなら、ドコサヘキサエン酸(DHA)やエイコサペンタエン酸(EPA)といった必須脂肪酸に準じた脂肪酸摂取ができませんからね。稲作地帯なら、米を多食するのが健康的なはずですが、上記のように米を多食する村ほど短命だというのですから、地産地消で健康になるとか長生きできるとかいうことに根拠はありませんね。

それどころか、地産地消は栄養不足で病気になる危険すらあります。

例えば、克山病(けしゃんびょう)です。克山病は、心筋壊死を伴う心疾患で、中国東北部の克山に住んでいる人がよくかかる病気です。克山病の原因は必須ミネラルのセレンの欠乏です。克山の土壌にセレンが少ないことから、克山に住んでいる人はセレンが不足がちになるようです。

つまり、克山に住んでいる人が「地産地消が健康に良いのだ」と言って、他の地域で採れた作物を食べなければ、セレンの欠乏症を引き起こすリスクが高まるのです。反対に漁村に住んでいる人が、海藻ばかりを食べているとヨウ素の過剰摂取となり、甲状腺機能に異常が出る危険があります。

ついでに言っておくと、日本の土壌にはセレンが比較的多く含まれているので、セレンの欠乏症になることはまずありません。むしろ、セレンを過剰摂取しやすくなるので、サプリメントでセレンを摂取するのは控えめにした方が良いと思います。セレンの過剰症でよく見られるのは、脱毛と爪の変形です。

日本人は和食を食べてきたから長寿だというのが嘘なら、地産地消が健康的というのも嘘です。

現代日本人がどこでも和食を食べれるようになったのは、高速道路というベルトを全国に通し物流が整ったからでしょう。そして、地産地消にこだわらず、他の地域から様々な食材を調達できるようになったから、栄養素の過不足が改善され、日本人は健康になったと考えるのが筋だと思いますよ。

参考文献