お腹が空くと、頭がボーっとしてきて眠くなるから、朝食はしっかり食べましょう。
このようなことを一度は耳にしたことがあると思います。朝食を抜くと、血糖値が下がって脳が働かなくなることが眠気の原因だということです。
でも、昼食後、しばらく経過してから睡魔に襲われる経験をした人は、結構多いと思います。食後なら血糖値が上がっていますから、低血糖で眠くなることは考えられませんよね。しかし、午後1時から2時の間くらいになったら、仕事中なのにあくびが出てしまう人がいませんか?
昼食を食べてから、それほど時間が経っていないのに眠くなるのは不思議です。
反応性低血糖症なの?
食後に眠気が襲ってくる理由として、反応性低血糖症が挙げられることがあります。機能性低血糖症ともいいますね。
食事をして血糖値が上がると、すい臓のβ細胞からインスリンが分泌されます。インスリンは、血糖値を下げる働きをするホルモンです。食事で上がった血糖値は、このインスリンの作用で通常レベルまで下がります。
しかし、人によっては、インスリンが血糖値を下げ過ぎてしまい、低血糖を起こす場合があります。これが反応性低血糖症です。
反応性低血糖症を起こす人もいれば、起こさない人もいます。体質的なものなのでしょう。
反応性低血糖症に限らず食後に眠くなるのは、程度の差はあれ、インスリンが上がった血糖値を下げるからだと言われています。だから、インスリンの分泌量を抑えれば、血糖値が下がり過ぎず、睡魔に襲われることはないはずだと。
確かにこの説は一理あると思います。
炭水化物(糖質)を摂取すると、血糖値が上がりインスリンが分泌されます。でも、炭水化物を食べなければ、血糖値は上がらずインスリンは分泌されません。厳密にはインスリンの追加分泌を起こさないということです。
炭水化物の摂取量を少なくする糖質制限をすればわかるのですが、食後でも、炭水化物をほとんど食べていなければ眠くなることはありません。
だから、食事で、白米、パン、麺類を食べないことが食後の眠気対策になります。
高血糖が覚醒物質オレキシンの働きを抑える
高糖質食で、インスリンが分泌され血糖値を下げ過ぎてしまうことが眠気の原因だというのは、糖質制限をしている人たちの間では当たり前となっています。
私も糖質制限を始めてから、食後に眠くなることは、ほとんどなくなりました。だから、インスリンの追加分泌で血糖値が下がることが眠気の原因だとする説に納得していました。
でも、最近、この説も怪しいと思うようになりました。
分子生物学者の粂和彦先生の著書「時間の分子生物学」を読んでいると、オレキシンというホルモンの解説がありました。
オレキシンは、発見された時、食欲が増して食べる量が増えることがわかりました。その後、オレキシンは、睡眠を減らして覚醒を増やすことがわかります。さらにオレキシンを調べていくと、起きている時間帯は多く、眠っている時間帯は少ないこともわかりました。
どうやら、オレキシンは食欲と覚醒に関係するホルモンのようです。
先に述べたように食後の眠気は、インスリンが血糖値を下げるからと言われることがあります。また、食事で副交感神経の働きが優位になるから眠くなるとも言われています。
ところが、オレキシンの発見で、眠たくなるのは、覚醒物質の減少が関係しているのかもしれないと考えられるようになりました。
時間の分子生物学では、食後の眠気について以下のように説明されています。
オレキシンの研究から、食後、満腹になって血糖値が上がると、オレキシンの分泌が減ることがわかり、これが脳の覚醒度を下げて、眠気につながるらしいことが示されています。逆にネズミに餌を与えないで絶食させると、通常不眠になり、眠らないで餌を探し続けます。この時は、脳内のオレキシンの量が増えています。オレキシンは「食欲」を増し、「覚醒度」を上げて餌探しを続けさせるのですから、合目的的な二つの作用を併せ持っていることになります。(195~196ページ)
この文章で注目すべきは、「血糖値が上がると、オレキシンの分泌が減る」というところですね。
ネズミの実験なので人間にも当てはまると断定はできませんが、高血糖が眠気の原因と考えられます。すなわち、高血糖は覚醒度を低下させると言えそうです。
オレキシンの視点から考えると、冒頭で述べた「朝食を抜くと眠くなる」という説は成り立ちません。そもそも、空腹時に眠くなるのなら、動物は満腹時に捕食活動をするはずですが、そんなことはないでしょう。お腹が空くから、獲物を探すと考えるのが自然です。
また、満腹時でも、糖質摂取量が多かった場合と少なかった場合でも眠気の度合いは異なります。これも食後に血糖値が上がる高糖質食の場合にオレキシンの分泌が抑制されるから、睡魔に襲われると考えることができます。
眠ってはいけない場面では、炭水化物を食べるな。
こういうことですね。