糖質制限で体温が上昇するのは褐色脂肪細胞と関係がありそう

私が糖質制限を始めてから、それまでよりも体温が上昇したことは、以前にこのブログで報告しています。

なぜ、糖質制限をすると体温が上がるのか?

糖質制限をするとタンパク質摂取量が増えるので、その消化吸収でエネルギーを多く使うことが熱を発生させやすくしていると言われています。これは、体温上昇の理由の一つだと思います。でも、タンパク質摂取量の増加だけが、体温上昇の理由ではないでしょう。他にも、糖質制限をすると、多くの要因が組み合わさって、体温が上昇するのだと思います。

それら要因の一つとして、褐色脂肪細胞も体温上昇に関わっているのではないかと思うんですよね。

非ふるえ熱産生の主役は褐色脂肪組織

人間も含めて哺乳類は、熱を生み出す手段として、ふるえ熱産生非ふるえ熱産生という2つの方法を用いています。

日本比較内分泌学会編集委員会の「ホメオスタシスと適応-恒-」では、ふるえ熱産生は骨格筋の周期的な収縮により熱を作りだし、非ふるえ熱産生は骨格筋の収縮によらずに熱を作り出す方法であることが解説されています。

運動をすると、体が温まるのは骨格筋の収縮と関係していますから、ふるえ熱産生に該当します。

一方の非ふるえ熱産生は、肩甲骨間や腎臓周囲などに分布している褐色脂肪組織が、その主役を担っています。

褐色脂肪組織を構成する褐色脂肪細胞は、白色脂肪細胞と異なり、小型で複数の脂肪滴と多数のミトコンドリアを含んでいるそうです。

ミトコンドリアは、生体内でのエネルギー工場の役割を担っている細胞内小器官で、ここで作り出されたエネルギーはアデノシン二リン酸(ADP)にリン酸基をくっつけて格納されます。そして、生み出されるのがアデノシン三リン酸(ATP)です。ATPは電池のようなもので、リン酸基が1個外れると、1分子あたり7.3kcalの熱量を発生させ、ADPとなります。

ミトコンドリアでは、酸素がある限り常にADPからATPが合成され、人間が生きていくためのエネルギーが生み出されています。

褐色脂肪細胞もミトコンドリアを持っているので、エネルギーを生み出しているのですが、作り出したエネルギーはATP合成を経ずに調節に熱へと変換されて散逸消費されるようになっています。

したがって、褐色脂肪細胞のミトコンドリアは、熱産生に特化したエネルギー工場と言えますね。

ホルモン感受性リパーゼが活性化しなければならない

褐色脂肪細胞の機能は、白色脂肪細胞から遊離された脂肪酸の取込みによるエネルギー消費と、それに伴う「熱産生」であることが「ホメオスタシスと適応-恒-」に記載されています。

褐色脂肪組織における産熱メカニズムのもっと詳しい解説は以下の通りです。

寒冷刺激が加わると交感神経の活動が亢進し,交感神経末端からノルアドレナリンが分泌される。これが褐色脂肪細胞の膜表面に局在するβ受容体に結合して一連の産熱反応が開始される.とくに重要なのはβ₃受容体で,Gsタンパク質とアデニル酸シクラーゼが活性化し,cAMPが産生され,プロテインキナーゼAの作用を介してホルモン感受性リパーゼが活性化する.そして,脂肪滴内の中性脂肪から脂肪酸が遊離し,この脂肪酸が酸化分解されて熱源となる.また,プロテインキナーゼAの活性化は,cAMP応答配列結合タンパク質という転写調節因子を介し,脱共役タンパク質1(uncoupling protein 1:UCP1)遺伝子の発現を増加させる.最終的には,UCP1の作用に結びついてエネルギーが熱に変えられる.(205~206ページ)

なんか難しい言葉がたくさん出てきましたが、この文章で注目すべきは「ホルモン感受性リパーゼ」です。

ホルモン感受性リパーゼは、簡単に言うと、体に蓄えた中性脂肪を分解して脂肪酸を作り出す酵素です。過去記事でも解説していますが、ホルモン感受性リパーゼは、インスリンが分泌されると働きが抑制されます。

糖質を摂取すると、すい臓からインスリンが追加分泌されますから、ホルモン感受性リパーゼの働きが弱くなります。ホルモン感受性リパーゼの働きが弱くなれば、中性脂肪が脂肪酸に分解されなくなりますから、褐色脂肪細胞では脂肪酸を利用して熱を生み出せなくなります。

糖質制限では、糖質の摂取量を少なくしますから、それによりインスリンの追加分泌も減ります。インスリンの追加分泌が減れば、ホルモン感受性リパーゼが活性化された状態を維持できるので、褐色脂肪細胞は脂肪酸から熱を生み出し続けることができます。

これが、糖質制限をすると、体温が上昇する一つの要因なのだと思います。

成長とともに褐色脂肪組織は退縮する

しかし、褐色脂肪組織は、人間では成長に伴って退縮していくそうです。

褐色脂肪組織の退縮速度には個人差があるみたいですが、誰でも加齢とともに褐色脂肪組織が退縮していき、それに伴って褐色脂肪細胞も減っていくのでしょうね。

だから、糖質制限をして体温が上昇するかどうかは、褐色脂肪細胞がどれだけ残っているかにも影響を受けそうです。

とりあえず、低体温で悩んでいる方は、糖質制限を試してください。褐色脂肪細胞が少なくなっていて体温が上がらなかったとしても、ホルモン感受性リパーゼを活性化しておけば、中性脂肪が減り多くのエネルギーが産生されるのですから、体が疲れにくくなりますし、贅肉も溜まりにくくなりますよ。

参考文献