糖質制限で糖尿病になると言っている人は糖質コルチコイドの働きを知らないね

米、パン、麺類など炭水化物(糖質)が多く含まれている食品を食べないようにする糖質制限食は、糖尿病の治療食として、京都高雄病院の江部康二先生が採用した食事療法です。

糖尿病は、上がった血糖値を下げられなくなる病気です。だから、血糖値を上げる原因となる糖質摂取を制限することは理にかなっています。

また、糖質制限をすると血糖管理以外にも、体脂肪が減るという副次的効果があることから、最近では、ダイエット目的で糖質制限をする人も増えていますね。

何かと健康面で良い結果が出る糖質制限ですが、世間に広まると反対派が出てくるものでして、その中には「糖質制限をすると糖尿病になる」と言う人もいます。

血糖値を上げる糖質コルチコイド

糖質制限をすると、外からブドウ糖(グルコース)が入って来ないので、体内でブドウ糖を作り出す糖新生という機能が働きます。

糖新生には、グルカゴン、アドレナリン、成長ホルモンといったホルモンが関わっており、ストレスを感じた時に分泌される糖質コルチコイドも糖新生に関わっています。この中で、糖質コルチコイドは、石川隆先生監修の「カラー図解 栄養学の基本がわかる事典」で以下のように説明されています。

副腎皮質から分泌される糖質コルチコイドは、糖代謝に関わるホルモンの総称です。代表的なものに、コルチゾルコルチコステロン、コルチゾンがあります。これらは肝臓での糖新生を促進し、末梢組織での糖利用を抑制することにより、血糖を増加させます。(147ページ)

糖質制限をすると糖尿病になると言っている人は、どうやら糖質コルチコイドの働きを知らないようです。

上記のように糖質コルチコイドが分泌されると、糖新生が促進され、末梢組織での糖利用が抑制されます。つまり、糖質コルチコイドが分泌されると、上がった血糖値は末梢組織での取り込みが抑えられるのです。

糖質コルチコイドが分泌されている時に糖質を摂取すれば、血糖値が上がり、そして、血糖値が下がりにくくなっているのですから、あたかも糖尿病のような状況になっているでしょう。

ストレスを感じている時の糖質摂取はやめよう

糖質コルチコイドは、ストレスを感じた時に分泌されます。

とは言っても、ストレスを感じて、いきなり糖質コルチコイドが分泌されるわけではありません。

ストレスなどの刺激は、まず視床下部の副腎皮質刺激ホルモン放出ホルモン(CRH)を分泌させます。そして、CRHは、脳下垂体前葉を刺激して、副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)を分泌し、さらにACTHが刺激となって副腎皮質から糖質コルチコイドが分泌されます。

ストレスを感じた時は、甘いものを食べるとリラックスできると言われています。しかし、ストレスを感じて糖質コルチコイドが分泌されると、血糖値が上がっているのですから、このような状況で、さらに甘いものを食べて糖質を体内に入れると、さらに血糖値が上がってしまうでしょう。ストレスを感じた時こそ、糖質制限が正解じゃないですか?

まあ、糖質コルチコイドが分泌されると、脳下垂体前葉と視床下部に負のフィードバックをかけて糖質コルチコイドの濃度を一定に保とうとしますから、イライラしている時に少々甘いものを食べても、とんでもなく血糖値が上がることはないのかもしれませんが。

糖質制限で糖尿病になるというおかしな理屈

糖質制限をすると、糖尿病になると言っている人の中には、「糖質制限をすると、血糖値を下げるインスリンを分泌するすい臓のβ細胞を使わなくなり廃用性萎縮する」と主張する人がいます。しかし、この主張は、「糖質コルチコイドが分泌されて血糖値が上がり糖尿病になる」という主張と矛盾します。

血糖値が上がるとインスリンを分泌して、血糖値を下げます。つまり、糖質コルチコイドが分泌されて血糖値が上がれば、β細胞がインスリンを分泌して血糖値を下げようとするのですから廃用性萎縮という発想は出てきません。

もしも、β細胞が廃用性萎縮するのなら、過食して太り、これ以上血糖を筋肉や脂肪組織に取り込めなくなるインスリン抵抗性を惹き起こせば、β細胞がインスリン分泌量を増やすので、当該細胞は増殖・維持され糖尿病にならないはずです。

しかし、実際は、インスリン抵抗性が強まると、β細胞がインスリンを出し続けて疲弊し、やがて壊れてしまいます。壊れたβ細胞は元に戻らないと言われていますから、インスリンを過剰に分泌してβ細胞を酷使することは血糖値を下げにくくする体にしようとしているのと同じでしょう。

  1. 糖質制限をすると糖質コルチコイドが分泌されて血糖値が上がり糖尿病になる
  2. 糖質制限をするとβ細胞がインスリンを分泌しなくなるので廃用性萎縮し糖尿病になる

この2つの理屈は両立しませんよね。

糖質コルチコイドが分泌されて血糖値が上がれば、β細胞がインスリンを分泌して血糖値を下げようとします。糖質コルチコイドが分泌されていると末梢組織での血糖の取り込みが抑制されますから、β細胞はさらにインスリンを分泌して血糖値を下げようとします。

β細胞は働きっぱなしになるじゃないですか。だったら、廃用性萎縮はしませんよね。

また、糖質コルチコイドが分泌されると負のフィードバックがかかるので、普通は、際限なく糖質コルチコイドが分泌され続けることはないでしょう。ただし、クッシング症候群という病気になると糖尿病を発症することがあります。

ただし、糖質コルチコイドの分泌が過剰に増加すると、クッシング症候群とよばれる病気となり、糖尿病、高血圧、骨粗鬆症を発症します。(147ページ)

クッシング症候群は、難病情報センターの以下のページによると、「下垂体にACTHを産生する腺腫ができてACTHの過剰分泌を生じることが原因」と考えられているようで、ACTHを産生する下垂体腺腫ができる原因は研究段階だそうです。

下垂体腺腫ができる原因がわかっていないのに糖質制限で糖尿病になると、なぜ言い切れるんでしょうね。

不思議です。

参考文献