2型糖尿病患者に処方される薬にメトホルミンがあります。
メトホルミンは、肝臓での糖新生を抑制することで、血中のブドウ糖(血糖)が増えないようにする薬です。血糖値は、糖質が含まれている食品を食べると上がりますが、肝臓での糖新生でも上がります。だから、糖新生を抑制するメトホルミンを飲めば、血糖値が上がりにくくなります。
このメトホルミン。最近では、抗がん薬としても使われているようです。
メトホルミンがガン細胞をやっつける仕組み
メトホルミンが、ガン細胞をやっつける仕組みについては、代謝ナビゲーションという書籍に解説が載っています。
メトホルミンが腫瘍の増殖を減弱させる機序として、(1)個体レベルでがん細胞にとって既知のマイトジェンである血中インスリンを低下させること、(2)細胞自律的にミトコンドリア電子伝達系の複合体Ⅰを標的とすること、の2つの相反しない機序があげられる。(206ページ)
なんか難しい言葉が並んでいますが、要するにメトホルミンはガン細胞が増殖しようとするのを邪魔する作用があるということです。
まず、(2)の「細胞自律的にミトコンドリア電子伝達系の複合体Ⅰを標的とする」という部分は、ガン細胞がアデノシン三リン酸(ATP)というエネルギーを作り出すのを邪魔するということです。細胞が持つミトコンドリアの中には電子伝達系と呼ばれるものがあり、複合体ⅠからⅣまでを電子が通るようになっています。この電子の流れが止まるとATPを作り出せなくなるので、細胞は死んでしまいます。
この(2)のメトホルミンの働きは、直接抗がん作用なので、メトホルミンそのものにガン細胞をやっつける働きがあると考えられます。
細胞自律的な機序は、がん細胞が有機カチオン輸送体(OCT)を発現してメトホルミンを細胞内へ促して複合体Ⅰを阻害するかどうかで異なる。メトホルミンが、肝臓のようなOCTを発現する正常な組織に蓄積することはまれなため、正常組織におけるメトホルミンの安全性プロファイルは良好である。(207ページ)
(1)の「個体レベルでがん細胞にとって既知のマイトジェンである血中インスリンを低下させる」の部分は、間接的にガン細胞の増殖を抑える働きです。
細胞は栄養を取り込むために増殖因子を介してホスファチジルイノシトール-3-キナーゼ(PI3K)を活性化させます。PI3Kが活性化すると、細胞でのグルコース(ブドウ糖)の吸収が活発になり、解糖系の働きも亢進します。つまり、PI3Kが活性化すると、細胞はグルコースからのATP産生を盛んにします。
一部のガン細胞では、インスリン受容体を発現することが観察されています。インスリンは、マイトジェン(分裂促進因子)なので、インスリンがたくさん分泌されれば、それだけガン細胞が増殖しやすくなります。
インスリンは、血糖値が上がった時にすい臓のβ細胞から多く分泌されます。糖新生によって血糖値が上がれば、インスリンを多く分泌して血糖値を下げようとします。その活動は、一方でガン細胞の増殖を助ける働きをしています。
だから、糖新生を抑制するメトホルミンを服用すれば、インスリン分泌を少なくできるので、ガン細胞の増殖を抑えられると考えられています。
メトホルミンの血中グルコースを低下させる肝臓における糖新生阻害作用により、PI3K経路のインスリン受容体活性化が弱まり、腫瘍の増殖が減弱すると考えられる。(207ページ)
糖質制限でもインスリン分泌を抑えられるよ
インスリンは血糖値が上がった時に多く分泌されますから、血糖値を上げないことが、ガン細胞の増殖を抑えるためには大切だと、メトホルミンの抗がん作用は語っているようなものです。
では、血糖値を上げないようにするにはどうすれば良いのでしょうか?
答えは、糖質制限です。
糖質を摂取しなければ血糖値は上がりません。血糖値が上がらなければインスリンの追加分泌も起こりません。インスリン分泌を抑えるためにメトホルミンを服用するのなら、糖質制限をしても良いわけですよね。
もちろん、メトホルミンは糖新生を抑えてインスリン分泌を少なくする薬なので、糖質制限とは異なる部分はあります。でも、メトホルミンを服用しながら、糖質を摂取していたのでは、インスリン分泌を抑えることはできませんよね。メトホルミンを処方するだけで、糖質制限を指導しないのでは意味がないでしょう。