我々人間の身体は、糖質、脂質、タンパク質の三大栄養素からエネルギーを取り出して活動しています。
三大栄養素から取り出されたエネルギーは、アデノシン三リン酸(ATP)に一時的に蓄えられます。蓄えると言っても、バッテリーのように長時間蓄えることはできないので、ATPに蓄えたエネルギーはすぐに何らかの活動に利用されます。
さて、三大栄養素からエネルギーを取り出し、ATPを産生するためには、ビタミンB群が必要になります。特に糖質からATPを産生するために重要となるのがビタミンB₁です。
グルコースをアセチルCoAに変換するために欠かせない
ビタミンB₁は、チアミンとも呼ばれており、生体内の各組織で、チアミン酸二リン酸(TDP)に変換されます。
三大栄養素の1つである糖質は、口から入って小腸から吸収されるときには、ブドウ糖(グルコース)まで分解されます。
このグルコースからエネルギーを取り出すためには、いったん解糖系に入ってピルビン酸に合成されなければなりません。さらにピルビン酸は、ミトコンドリアに送られアセチルCoA(コーエー)に変換されます。
TDPとなったビタミンB₁は、解糖系を動かすために必ず必要となります。特に重要なのが、ピルビン酸をアセチルCoAに変換する際に必要となるピルビン酸脱水素酵素の補酵素として働くことです。
アセチルCoAは、ミトコンドリア内でオキサロ酢酸とくっついてクエン酸になります。クエン酸は、様々な反応を経て再びオキサロ酢酸となる過程で、電子が取り出されます。この一連の反応をクエン酸回路(TCAサイクル)と言います。クエン酸回路で取り出された電子が、さらに電子伝達系に送られると、大量のATPが合成されます。ビタミンB₁は、クエン酸回路でも必要となりますから、結局、グルコースからATPを産生する過程のほとんどで働いていることになります。
もしも、ビタミンB₁が不足すると、グルコースからのATP産生が滞ってしまいますから、エネルギーも不足しやすくなります。だから、米や小麦など多くの糖質が含まれている食品を食べると、ビタミンB₁が不足しやすくなります。糖質を控えることはビタミンB₁の節約になります。糖質を食べるなら、ビタミンB₁が多く含まれた食品も一緒に食べなければなりません。
ビタミンB₁の必要量
ビタミンB₁は、成人男性で1.4mg/日、成人女性で1.1mg/日が推奨量とされています。
耐容上限量は設定されていないので、基本的に摂りすぎに注意する必要はありません。むしろ、ビタミンB₁は、意識的に摂らないと不足しやすい栄養素なので、積極的に摂取する努力をすべきです。
ビタミンB₁が多く含まれている食品
ビタミンB₁が多く含まれている食品の代表と言えば、豚肉です。
豚肉は、部位にもよりますが、100グラム当たりで0.54mgのビタミンB₁が含まれています。ヒレ肉だと100グラム当たりで0.98mgです。
したがって、男性だと約260グラム、女性だと約200グラムの豚肉を毎日食べればビタミンB₁の推奨量を摂取できる計算です。
他にウナギもビタミンB₁が比較的多く含まれていますが、それでも、100グラム当たりで0.36mgでしかありません。
ちなみに白米は、1膳160グラム当たりで、ビタミンB₁は、たったの0.03mgしか含まれていません。玄米でも、1膳160グラム当たりで、わずか0.26mgのビタミンB₁含有量にしかすぎません。
糖質を食べると、ビタミンB₁が不足しがちになるのは、体内での消費量が増えるだけでなく、糖質が多く含まれている食品のビタミンB₁含有量の少なさも理由ですね。
なお、食品に含まれるビタミンB₁については、カロリーSlismを参考にしました。
ビタミンB₁が不足するとどうなる?
ビタミンB₁が不足すると、脚気になることは有名な話です。
イスに座って足を宙ぶらりんにした状態で、膝を木槌で叩き、足が前にピクっと動けば脚気ではないと診断する方法は今でも使われているのでしょうか?
ビタミンB₁の不足は慢性疲労につながり、さらに不足すると脚気のような死にいたる病気となります。
他にウェルニッケ脳症もビタミンB₁不足で起こります。ウェルニッケ脳症は、歩行運動の失調、眼球の運動麻痺などの症状を起こし、慢性化すると記憶障害、せん妄を引き起こすコルサコフ症候群に発展します。
ビタミンB₁の1日の推定平均必要量は、推奨量よりも10%ほど低い量となっていますが、これは脚気を予防する量ではなく、尿中にビタミンB₁の排泄量が増え始める摂取量です。したがって、推奨量や推定平均必要量を摂取できなかったからと言って、脚気になるわけではないです。
でも、ビタミンB₁不足はATP産生に悪い影響を与えますから、疲れやすく感じ始めた人は、しっかりと摂取しておきたいですね。
糖質摂取は肥満しやすい
グルコースが解糖系でピルビン酸になり、ビルビン酸はアセチルCoAとなって、オキサロ酢酸とくっつきクエン酸になることは先述した通りです。
クエン酸回路が滞りなく回っている場合、ミトコンドリアに送られてきたピルビン酸は、次々とATP産生の流れに入っていきます。
ところが、解糖系はクエン酸回路よりも反応が早いので、一度に多くのグルコースが体内に入ってくると、クエン酸回路が渋滞します。この時、余ったクエン酸は、いったんアセチルCoAとオキサロ酢酸に戻されます。そして、アセチルCoAは、脂肪酸合成の流れに乗り、最終的に中性脂肪となり贅肉として体に蓄積されます。
糖質摂取で肥満しやすくなるのは、これが一因です。
ビタミンB₁不足も肥満の原因とされていますから、太りたくないのであれば、ビタミンB₁の含有量が少ない白米や玄米の多食は控えましょう。