ビタミンB群の一種にナイアシンがあります。
ナイアシンは、我々の体の中で、糖質、脂質、タンパク質の三大栄養素からアデノシン三リン酸(ATP)というエネルギーを作り出すために非常に重要な役割を果たしています。
ちょっと歩くだけでもATPは必要ですし、何もせずダラダラしている間も、体の中の内臓を働かせるためにATPは必要となります。そして、ATPが作られる過程でナイアシンは欠かすことができません。
ナイアシンの種類
ナイアシンは、ニコチン酸とニコチンアミドの総称です。
ニコチン酸は植物性食品に存在し、ニコチンアミドは動物性食品に存在しています。人間も動物なので、体の中ではニコチンアミドとして存在しています。
ナイアシンは、食物から摂取しなければならない必須の栄養素ですが、体内でトリプトファンというアミノ酸から合成することも可能です。しかし、トリプトファンからの転換率は60分の1と低いため、普段の食事からナイアシンを摂取する必要があります。
我々の体内でニコチンアミドとして存在するナイアシンは、ニコチンアミド・アデニン・ジヌクレオチド(NAD)とニコチンアミド・アデニン・ジヌクレオチドリン酸(NADP)に変化し、代謝に必要な脱水素酵素の補酵素として働いています。
アルコールの代謝にも、ナイアシンは利用されるので、お酒を飲む人は、そうでない人よりも多めにナイアシンを摂取しておきたいですね。
糖質からのATP産生
ATP産生に重要な働きをするのはNADです。NADには、電子を失った酸化型のNAD⁺、電子を受け取った還元型のNADHがあります。
三大栄養素に含まれている電子は、このNADに受け渡しが行われ、最終的にATPというエネルギーとなります。
糖質は、消化吸収されるとグルコース(ブドウ糖)となります。
グルコースからATPを作る場合、まず、解糖系を経てピルビン酸になりますが、この時にNAD⁺が電子を受け取り、NADH+H⁺となります。
ピルビン酸は、酸素が使える状況では酸化されてアセチルCoA(コーエー)となりますが、この時にもNADが必要となります。また、酸素が使えない状況では、ピルビン酸は乳酸に発酵されます。この乳酸に変わる過程でもNADが必要となります。
脂質からのATP産生
脂質(中性脂肪)からATPを作り出す過程でも、NADは必要です。
中性脂肪は、グリセロールと脂肪酸がくっついた物質です。中性脂肪をグリセロールと脂肪酸に分解するためには、NADが必要となります。また、脂肪酸からアセチルCoAにβ酸化する過程でもNADは欠かせません。
タンパク質からのATP産生
タンパク質はアミノ酸の集合体ですが、タンパク質からアミノ酸に分解する過程で、ナイアシンが働きます。
アミノ酸は、ピルビン酸やアセチルCoAに変わりますが、その過程でNADが関わります。また、アミノ酸がクエン酸回路に入る場合にもNADが必要となります。
クエン酸回路でのNADの働き
三大栄養素がアセチルCoAまで加工されると、オキサロ酢酸とくっついてクエン酸になります。
細胞質にあるミトコンドリア内では、このクエン酸から電子を取り出していきます。取り出された電子は、NAD⁺に渡されてNADH+H⁺に変わります。
このNADH+H⁺は、さらに電子伝達系へと進みます。電子伝達系では、NADH+H⁺の電子を電子伝達体を通過させて、最終的にATPを作り出します。
1組のNADH+H⁺からは3分子のATPを作り出せます。最近では、2.5分子とされています。
もしも、ナイアシンがなければ、電子伝達が行われなくなるので、我々の体はエネルギーを作り出すことができません。だから、ナイアシンは、人間が活動するためには絶対に必要となります。
ナイアシンの1日の推奨量
ナイアシンの1日の推奨量は、成人男性で15mg、成人女性で12mgとされています。これは、トリプトファンからの転換分も含めたナイアシン当量なので、食事から摂取するナイアシンは、もうちょっと少なくても構いません。
ナイアシンは肉類に多く含まれている傾向があります。カロリーSlismで調べた牛肉、豚肉、鶏肉100グラム当たりのナイアシン含有量は以下の通りです。
- 牛肉=3.9mg
- 豚肉=4.6mg
- 鶏肉=5mg
他にカツオは、100グラム当たりで18~19mgのナイアシンが含まれていますし、牛や豚のレバーにも100グラム当たりで14mgほどのナイアシンが含まれています。
基本的に動物性食品を食べていれば、不足することはありません。
なお、ナイアシンの欠乏症には、皮膚炎、神経障害、不安症などの症状が出るペラグラがあります。
ナイアシンには、耐容上限量が設定されています。
成人男性は、ニコチンアミドで350mg/日、ニコチン酸で85mg/日です。成人女性は、ニコチンアミドで250mg/日、ニコチン酸で65mg/日です。
過剰症としては、皮膚の発赤、嘔吐、下痢、肝機能障害があります。
普段の食事で耐容上限量を超えるほどのナイアシンを摂取することは、そうそう考えられませんが、サプリメントを服用する場合は注意した方が良いですね。特にニコチン酸は耐容上限量が低いことを知っておくべきです。
ナイアシンは、ATP産生に大切な栄養素ですが、他にも血管拡張作用があり、血流の改善や皮膚の健康維持にも関わっています。そのため、ナイアシンは、肌のビタミンとも呼ばれています。
ダイエットやスキンケアなど、美容を意識するなら、動物性食品中心の食事をするべきですね。