オートファジーでダイエットは難しい

われわれ人間の細胞内にはリソソームと呼ばれる小器官が存在しています。

このリソソームは、細胞内の一部を分解する働きをしています。細胞内の一部を分解したら、細胞は死んでしまうのではないかと思いますが、分解されたものは再び細胞が食べて、自らの体を維持します。この働きをオートファジーといいます。

なんで細胞が自分の体の一部を食べるかというと、飢餓を乗り越えるためです。体外から栄養が入ってこなくなった場合には、オートファジーで栄養を作り出し、それを食べることで細胞は餓死をしなくて済みます。

それなら、絶食をしてオートファジーを活発にすれば、ダイエットできるはずだと思いますが、それは難しいようです。

オートファジーの役割

オートファジーには、以下の働きがあります。

  1. 飢餓に耐える
  2. 発生の過程で細胞内を大規模に入れ替える
  3. 細胞内を浄化する
  4. 自己成分以外を分解する

オートファジーは、飢餓状態になると活発になるので、「1」の飢餓に耐えることが主目的と考えられています。だから、オートファジーを利用すれば効率的にダイエットできるのではないかと考えるわけですね。

「2」については、生命が誕生する際に細胞の中身を大きく変化させなければならない場面があり、その際もオートファジーが働きます。

「3」は、細胞が生存していると中にゴミが溜まって来るので、そのゴミを分解し細胞内をきれいにする働きです。

「4」は、細菌やウィルスなどの異物を分解する働きです。

こうやって見ると、「1」以外の役割も重要だと感じます。

オートファジーは脂肪も分解できる

オートファジーは、タンパク質を分解してアミノ酸にします。そのアミノ酸を使って再びタンパク質を合成するので、延々とオートファジーとタンパク質合成を続けていれば、タンパク質を食べなくても問題なさそうです。

1日にアミノ酸に分解されるタンパク質の量は約200グラムと言われています。分解されてできたアミノ酸は、いったんアミノ酸プールに集められた後、タンパク質の再合成に使われます。

この説明だけを読めば、タンパク質を食べる必要はなさそうに思えます。ところが、分解されてできたアミノ酸の一部は対外に捨てられますから、タンパク質を食べなければ、身体を維持できません。

体外に捨てられるアミノ酸は、体重に1グラムを乗じた量だとされています。例えば、体重が50kgの人だと50グラムのアミノ酸が捨てられるので、同量のタンパク質を食べなければ、アミノ酸プールに200グラムのアミノ酸を維持できません。

タンパク質を外部から調達しなければならない以上、絶食によるダイエットには限界があると言えそうです。

オートファジーは、タンパク質だけでなく、脂肪を分解することもできます。

だから、絶食すれば、オートファジーが活性化して脂肪を減らせるはずだと思いつきますし、それは事実でもあります。

水島昇先生の「細胞が自分を食べるオートファジーの謎」にも、肝細胞などにある比較的小型の脂肪滴はオートファジーで分解できると説明されています。脂肪肝の方にはうれしいお知らせではないですか。

ところが、脂肪細胞に過剰に蓄積した脂肪は、核より大きな脂肪滴のため、オートファジーで分解するのは困難です。したがって、オートファジーの力だけで肥満を解消するのは現実的ではないようです。

中性脂肪を分解するのはリパーゼ

お腹周りについている一般的に脂肪と言われている物質は、正確には中性脂肪です。

中性脂肪の分解に関わっているのは、リパーゼで、身体に蓄積した中性脂肪を分解するリパーゼをホルモン感受性リパーゼといいます。

このホルモン感受性リパーゼの働きを活発にしてあげれば、中性脂肪が分解されてできた脂肪酸をエネルギー利用できます。では、ホルモン感受性リパーゼを活発にするにはどうすれば良いでしょうか。そもそも、そんなことできるのでしょうか?

もちろん、できます。

ホルモン感受性リパーゼは、糖質を食べたときにすい臓から分泌されるインスリンによって働きが抑えられます。だから、インスリンの分泌量を減らせれば、ホルモン感受性リパーゼの働きを活発な状態で維持できます。

では、インスリンの働きを抑えるには、どうすれば良いでしょうか?

答えはすでに書いてますよね。糖質を食べたらインスリンが分泌されるのですから、糖質を控えることがインスリン分泌を抑える方法です。つまり、糖質制限をするということです。

絶食も糖質制限ですから、ホルモン感受性リパーゼの働きを活発にできます。しかも、オートファジーで肝細胞に蓄積した脂肪も減らすことができます。しかし、生きていくために必要なタンパク質の補給ができなくなるので、長期間の絶食は不可能に近いです。

糖質制限は、タンパク質摂取を制限しません。だから、タンパク質を補給しながら、ホルモン感受性リパーゼの働きを活発にし、中性脂肪を分解しやすい状態を維持できます。

ダイエットのために絶食しようと考えている方は、ちょっと待ってください。

まずは、糖質制限を試して、お腹周りがすっきりするかどうかを確認しましょう。糖質制限でも、思ったように肥満が解消しない場合は、食事量を減らしたり運動量を増やしたり工夫をしましょう。

なお、ホルモン感受性リパーゼについては、以下の記事で説明しています。

参考文献