国立がん研究センターのウェブサイトによると、2022年に子宮頸がんで亡くなった方は2,999人だそうです。
子宮頸がんは、ヒトパピローマウィルス(HPV)に感染すると発症する可能性があります。だから、HPVワクチンを接種しておけば、感染する確率を減らせ、死亡リスクも下げることができます。
現在、HPVワクチンは定期接種が行われていますが、1997年4月2日から2008年4月1日までに生まれた女性に対しては、定期接種が行われていません。この世代はキャッチアップ世代と呼ばれており、2025年3月まで無料でHPVワクチンを接種できるようになっています。
数千人が死亡するというのは誇張されているのでは?
HPVワクチンを接種していないキャッチアップ世代は、将来、数千人が子宮頸がんで死亡するとの予測がありますが、本当にそんなに死亡するのでしょうか。子宮頸がんを発症して亡くなるのは将来のことなので、現時点で正確な死亡者数を予測することはできません。でも、この数字は誇張されているように思います。
Wikipediaの日本人の人口統計のページを見ると、1997年から2008年までの出生数は13,658,054人です。男子が女子より5%ほど多く生まれることが生物学的にも統計学的にも証明されていると、以前、テレビのクイズ番組で解説されていたので、これを前提に計算すると、この期間の女子の出生数は、6,662,465人と推定されます。女子だけの出生数を調べられるでしょうが、ネットでは探し出せませんでした。
とりあえず、キャッチアップ世代は6,662,465人としておきましょう。おそらく、実際の人数とそれほど大きくは異なっていないでしょう。
ちなみにエムスリー総合研究所によると、キャッチアップ世代でHPVワクチンの未接種者は約320万人だそうです。以下のプレスリリースによれば、約6,400人が死亡すると予想されています
キャッチアップ世代の死亡は100人くらいじゃないか?
キャッチアップ世代の中で子宮頸がんで死亡するのが数千人だということに疑問を持ったのは、Gigazineの以下の記事を読んでからです。
この記事を見ると、日本の場合、女性10万人あたり子宮頸がんを発症するのは12.53人となっています。そうするとキャッチアップ世代約666万人のうち子宮頸がんを発症するのは830人ほどとなります。そして、この830人が全員子宮頸がんで死亡するわけではないので、死亡者数はもっと減るはずです。
冒頭で紹介した国立がん研究センターのウェブサイトでは、罹患率が10万人あたり16.0例、死亡率は10万人あたり4.8人となっています。この数字から計算すると、キャッチアップ世代の死亡は320人くらいになります。
上のGigazineの記事によると、HPVワクチンは15歳までに接種するのが推奨されるのですが、日本の場合、15歳までの接種は7%と低い状況にあります。したがって、ほとんどの日本の女性は推奨される時期にHPVワクチンを接種していません。その状況で、死亡率が10万人あたり4.8人ですから、この数字をキャッチアップ世代に当てはめて計算しても良いと考えます。もちろん、将来のことなので、正確な死亡者数を計算することはできません。
また、ジョイセフの以下のページでは、日本の子宮頸がんでの死亡率は2.9となっています。
上のページでは、死亡率を%として表示していますが、おそらく10万人あたりの死亡数だと思います。そうでなければ、エスワティニは55.7%の女性が子宮頸がんで死亡していることになり非現実的です。
日本の死亡率を10万人あたり2.9人として計算した場合、キャッチアップ世代の死亡数は193人となります。キャッチアップ世代のうち約320万人がHPVワクチン未接種ということですから、半数は接種済みとすると、キャッチアップ世代での死亡はもっと減り100人くらいになるのではないでしょうか。
HPVワクチンだけで子宮頸がんを防げない
Gigazineの記事では、イギリスが在学中にHPVワクチンの接種を行ったことで、子宮頸がんの発生率を90%減らせたと紹介されています。イギリスの子宮頸がんの罹患者数は10万人あたり7.51人ということですから、同じGigazineの日本人の罹患者数12.53人と比較すると、10万人当たり5.02人だけ罹患者数を減らせる計算です。
定期接種を実施しても、罹患者数を減らせるのは半分くらいなんですね。
また、死亡数はジョイフルのページによると、イギリスが1.9、日本が2.9となっていますから、1だけ減ることになります。この数字が10万人あたりのものだとすれば、キャッチアップ世代にイギリス並みにHPVワクチンを定期接種していても、67人しか死亡者数を減らせないことになります。
以下のWHOの日本語訳のページでは、徹底的なワクチン接種だけでなく、徹底的な検診とワクチン接種が、子宮頸がんの排除には重要だと紹介されています。
このページを見れば、キャッチアップ世代でHPVワクチンの接種を逃した方でも、徹底的な検診によって子宮頸がんを発症する確率を減らせることがわかります。ワクチンだけが子宮頸がんの予防手段ではありません。
また、G20の中で、サウジアラビアとトルコも定期接種が行われていませんが、定期接種が行われている国より子宮頸がんの発生率が低くなっています。
Gigazineの記事だと、発生率は10万人あたりサウジアラビアが2.36人、トルコが4.75人です。なぜ、両国で子宮頸がんの発生率が低いのかも検証する必要があるでしょう。キャッチアップ世代が数千人子宮頸がんで亡くなるなんて試算し、厚生労働省を批判するお医者さんがいますが、そんな暇があれば、サウジアラビアとトルコでの子宮頸がんの発生率の低さを研究してほしいですね。
なお、HPVワクチンは、絶対に安全なものではなく副反応が出ることもあります、厚生労働省の2024年11月29日の「疾病・障害認定審査会 感染症・予防接種審査分科会 審議結果」では、3名の女性がHPVワクチンの副反応で医療費・医療手当が認定されています。