理屈では糖質制限でガン細胞へのブドウ糖の供給をストップできるはずだけど事実はどうなの?

現在、日本人の死因の第1位はガンです。だから、ガン告知を受ければ誰でもショックを受けます。もう自分に残された人生が残り少ないと言われるようなものですから。

治療でガンを克服している人はたくさんいますが、やはり死因第1位のガンにはかかりたくないですよね。ガンで死にたくなければ、ガン治療の前にガンを予防するための生活習慣を身につけることが大切でしょう。でも、テレビの健康番組を見ていても、食の洋風化がガンの原因とか、バランスの良い食事がガンにならないとか、抽象的なことばかりで、どう生活習慣を変えれば良いのかわかりません。

酸素を吸わないと十分なエネルギーを確保できない

近年、食事での糖質の摂取量を減らす糖質制限が注目されています。この糖質制限にガン予防の効果があるのではないかと言われています。糖質制限によるガン予防は理論的で、納得のいくものです。

人間の細胞は、解糖系とミトコンドリアの2つのエネルギー産生工場を持っています。解糖系は無酸素下でアデノシン三リン酸(ATP)というエネルギーを生みだし、ミトコンドリアは酸素を利用してクエン酸回路(TCAサイクル)を回しATPを生み出します。

解糖系はブドウ糖(糖質)を主原料としでATPを生み出しますが、1分子のブドウ糖からは2分子のATPしか産生できません。一方のクエン酸回路は糖質、脂質、タンパク質から作られるアセチルCoA(コーエー)1分子から12分子のATPを産生できます。

解糖系はクエン酸回路より2.5倍速くATPを産生できるとされています。しかし、解糖系では、クエン酸回路が1回転する間に生み出せるATPは計算上5分子なので、クエン酸回路1回転で得られる12分子に及びません。人間が酸素を吸ってクエン酸回路でATPを産生しなければ、エネルギー不足になることは理解できると思います。呼吸をしなければ生きていけないのも、これが理由と考えられますね。

ガン細胞は解糖系を使ってATPを生み出す

糖質制限でガンを予防できるのではないかという理屈は、ガン細胞が解糖系を使ってしかATPを産生できないとされているからです。つまり、ガン細胞は無酸素下でブドウ糖を主原料にして生み出されたATPだけで生存、増殖できるのです。

しかし、解糖系ではクエン酸回路が1回転する間に5分子のATPしか生み出せず、クエン酸回路1回転の12分子よりも少ないのでエネルギー不足になるはずです。ところが、ガン細胞は正常細胞の3倍から8倍のブドウ糖を消費してATPを生み出しているので、エネルギー不足にならないのです。仮に3倍のブドウ糖の取り込みだったとしても、正常細胞がクエン酸回路を1回転する間に15分子のATPを得られる計算なので、酸素なしでもエネルギー不足になりません。

そこで、ガン細胞の増殖を阻止するためにブドウ糖の供給を断つ糖質制限をすれば良いのではないかと考えられます。理論的には、糖質を摂取しなければ、ガン細胞を兵糧攻めできるから、ガン細胞は増殖できず、そのうち今あるガン細胞も死んでしまってガンが治るとなりそうです。

しかし、人間は肝臓で糖新生によりブドウ糖を生み出しますから、ガンに糖質制限は効果がないのではないかとも言われています。糖新生で生み出されたブドウ糖をガン細胞が取り込んで増殖できると考えられるからです。

免疫栄養ケトン食

頭の中で、糖質制限をすればガンが治るかどうかを考えても、実際にやってみなければ結論は出ません。

糖質制限でガン治療をする人がどこにいるのか?

日本にいたんですね。外科医の古川健司先生が、19人のガン患者に極端な糖質制限食を試みたところ、83%に効果があったことが著書の「ケトン食ががんを消す」で述べられています。

その治療成績を見ると、がんの完全寛解(CR)が5人、がんが30%以上消失した部分奏効(PR)が2人、がんの進行制御(SD)が8人にも上り、増悪(PD)はわずか3人にすぎません
完全寛解が部分奏効よりも多いのは、がんの顕著な縮小や転移巣の消失によって、手術に持ち込めた症例が多いためです。
完全寛解率は約28%、完全寛解も含めた奏効率(がんが消失、もしくは縮小した患者さんの割合)は約39%、SDをくわえた病勢コントロール率に至っては、実に83%にも上っています。(10ページ)

古川先生がガン患者に指導している極端な糖質制限食は、糖質摂取量を95%カットするスーパーケトジェニックで、脂質の摂取に積極的にMCTオイルを活用したり、魚に多く含まれている不飽和脂肪酸のEPAを多く摂取するものです。古川先生は、ご自身が行っているスーパーケトジェニックを免疫栄養ケトン食と名付けています。

糖質を95%カットですから、京都高雄病院の江部康二先生が推奨している1日の糖質摂取量を60グラム未満に抑えるスーパー糖質制限食よりも厳しい制限です。

これだけ厳しく糖質制限をすれば、ガン細胞を兵糧攻めできるわけですね。さらにEPAはガン細胞をやっつける働きがありますし、MCTオイルに含まれる飽和脂肪酸の中鎖脂肪酸は血中のケトン体濃度を高め、体に良い効果をもたらすのだそうです。

ガン細胞がブドウ糖を主原料にATPを生み出していることは90年前にオットー・ワールブルグによって明らかにされていたのですが、最近までガンの治療食に糖質制限を試そうとした医師はあまりいませんでした。

これは擦りこみのせいですよ。

何の擦りこみかって?

ブドウ糖が人間にとっての主要エネルギー源だという擦りこみですよ。

参考文献