適度な運動は健康に良いと言われますよね。でも、激しい運動は逆効果で老化を促進するとも言われています。この「適度」と「激しい」の境目がわかっていれば良いのですが、具体的なことを教えてくれる人はいないですよね。また、「適度」と運動不足の境目もよくわかりません。
毎日1時間歩くことは、適度な運動なのか運動不足なのか判断しにくいです。毎日1時間のジョギングも適度な運動なのか激しい運動なのかよくわかりません。
老化とミトコンドリア
そもそも激しい運動をすると老化を早めるという考え方は、動物の細胞内にあるエネルギー産生工場のミトコンドリアを原因としています。
ミトコンドリアは、酸素を使ってアデノシン三リン酸(ATP)というエネルギーを生み出しています。このATPがミトコンドリアで作られなくなると動物は生命活動を維持できなくなります。そして、ミトコンドリアの働きが低下してATP産生量が減り、生命活動が衰えていくのが老化と考えられています。
ミトコンドリアがATPを生み出す過程で活性酸素が発生するのですが、この活性酸素がミトコンドリアDNA(mtDNA)を傷つけて突然変異させます。mtDNAの突然変異が蓄積されていくとATP産生量が減り、生命活動の維持が難しくなります。加齢によって酸化的ストレスを受ける機会が多くなると、mtDNAの突然変異の蓄積量も増え、やがてATPを作れなくなり死にいたるということです。
この考え方を老化ミトコンドリア原因説と言います。
激しい運動をする場合、ミトコンドリアは多くのATPを作らなければなりません。その際に活性酸素も多く発生するので、mtDNAがそのダメージを受けて突然変異しやすくなると考えられます。だから、激しい運動は老化を早めると言われているんですね。
ミトコンドリア連携説によれば運動と老化は無関係?
ところが、ミトコンドリアと老化は無関係だとする説もあります。
理学博士の林純一先生は、ミトコンドリアが活性酸素によるダメージを受けても別のミトコンドリアが助けてくれるので、老化に影響を与えないのではないかといった旨を著書の「ミトコンドリア・ミステリー」の中で述べています。
ミトコンドリア内には、カタラーゼなどの酵素により酸素呼吸の副産物として発生する活性酸素を無害な形に変えることで酸化的ストレスを回避するシステムがある。実際に運動を継続的に行うと、これらの酵素の活性が上昇する。
(中略)
すなわち、mtDNAにランダムにダメージを補いあうことで呼吸酵素活性が低下するのを防ぐことができる。(178ページ)
これは、ロールプレイングゲームによくあるやつじゃないですか。
ドラゴンクエストで例えましょう。ドラゴンクエストは、シリーズにもよりますが、3人とか4人の仲間で旅をし、いろんなところでモンスターと遭遇して戦います。戦闘中に仲間の1人がモンスターの攻撃を食らってHP(ヒットポイント)が残りわずかになり、次の攻撃で死んでしまうという状況になっても、他の仲間がベホイミなどの呪文を唱えれば、ダメージを受けた仲間のHPが回復しモンスターと戦えます。
ミトコンドリアも、これと同じで、あるミトコンドリアがダメージを受けたとしても別のミトコンドリアがmtDNA突然変異によって作れなくなった物質やmtDNAそのものを相互に融通し合っているのではないかと林先生は考えているわけです。この説をミトコンドリア連携説といいます。
ミトコンドリア連携説によると、激しい運動によって活性酸素がたくさん発生し一部のミトコンドリアがダメージを受けても、他のミトコンドリアがそのダメージによって失われた機能を補完するので、ダメージを最小限に食い止めれると考えられます。
おそらく、激しい運動でミトコンドリアがダメージを受けて老化することはないのでしょうね。むしろ、運動によってミトコンドリアの酵素活性が上昇するそうですから、運動はしないよりもした方が健康に良さそうです。
ただ、普段、運動をしていない人がいきなり激しい運動をするのは危険でしょうね。