太っている人が痩せようとする場合、摂取カロリーよりも消費カロリーを多くすることが常識となっています。
しかし、人間が太ったり痩せたりすることを「カロリー」の一言で片づけるのは簡略化し過ぎです。食事をすると体の中では様々な化学反応が起こりますが、それをカロリーだけで説明するのは乱暴ですね。例えば、脂質は1グラムで9kcalあり、糖質やタンパク質の4kcalよりもカロリーが多いから太りやすいと考えるのも、体内での化学反応を無視した理屈です。
脂肪吸収と遊離脂肪酸濃度の関係
豚ロースの脂身を見ると、「これを食べたら自分のお腹に付いてしまう」と思うもの。
しかし、脂身を食べたからと言っても、必ず贅肉になるわけではありません。食べた脂身が贅肉になるかどうかは、血中の遊離脂肪酸濃度とも関係しているからです。
形成外科医の夏井睦先生の著書「炭水化物が人類を滅ぼす【最終解答編】」にその辺りのことが簡潔に記されています。
食物中の脂肪は小腸から吸収されるが、吸収されるかどうかは血中の遊離脂肪酸濃度によりコントロールされている。血中遊離脂肪酸の濃度が低ければ脂肪は吸収されるが、遊離脂肪酸の濃度が正常値に達すると、腸管からの脂肪吸収はストップし、腸管内に残った脂肪は便と一緒に排泄される。
これは、血液中の遊離脂肪酸の溶存量には限界があって、それ以上は溶け込むことができないためらしい。つまり、脂肪たっぷりの食事をしても、それに含まれる脂肪が全て吸収されるわけではないのだ。(101ページ)
血中の遊離脂肪酸濃度が高いと小腸からの脂肪吸収が抑えられます。20グラムの脂身が付いたロースステーキを食べても、血中の遊離脂肪酸濃度によって脂肪の吸収量が変化するのですから、「脂肪は高カロリーだから太る」とは一概には言えないのです。
血糖値が上がれば脂肪が吸収されやすくなる
血中の遊離脂肪酸濃度が高いと脂肪吸収が抑えられるのですから、太っている人が痩せようと思った場合には、血中の遊離脂肪酸濃度を高めてあげれば良いです。
そんなことができるのかと思う方もいらっしゃるでしょうが、簡単にできます。ただ、糖質(炭水化物)を食べなければ良いだけです。
糖質を食べると、血糖値が上がります。血糖値が上がると、すい臓はインスリンを分泌します。インスリンは、血中の糖質(血糖)を脂肪組織に押し込んで中性脂肪に変えます。そうすると、血糖値が正常値まで下がります。
血糖値が上がっていない状況では、ホルモン感受性リパーゼという酵素が、中性脂肪をグリセロールと脂肪酸に分解し、血中に脂肪酸を放り込んで他の組織に運びます。この時、血中の脂肪酸はアルブミンと結合して遊離脂肪酸となります。
しかし、インスリンはホルモン感受性リパーゼの働きを抑える作用があるので、糖質摂取で血糖値が上がりインスリンが分泌されると、中性脂肪の分解が進まなくなり血中の遊離脂肪酸濃度が下がります。この状況で豚ロースの脂身を食べれば、その多くが小腸から吸収されることは容易に想像できるでしょう。
肥満の予防や解消に糖質制限が有効なのは、この辺りにも理由があるのです。
糖質と脂質の同時摂取は太る
血中の遊離脂肪酸濃度を高く保つためには、常に中性脂肪が分解されている状態を維持しなければなりません。しかし、先ほども述べたように糖質を摂取してインスリンが分泌されると遊離脂肪酸濃度が下がります。
この遊離脂肪酸濃度が下がっている状態で脂肪を口に入れると、小腸からの吸収率が高まります。例えば、ご飯と一緒にトンカツを食べれば、ご飯に含まれる糖質がインスリン分泌のスイッチを押し、遊離脂肪酸が下がりますよね。そうすると、トンカツの端っこの脂身が小腸から吸収されやすくなりますから、お腹周りに贅肉が付いてしまいます。
そう、糖質と脂質の同時摂取は太りやすいのです。さらに糖質とタンパク質を同時に摂取した場合もインスリン分泌が増えるので、糖質、脂質、タンパク質を一緒に食べると肥満が加速します。
糖質、脂質、タンパク質の中で肥満の原因を作っているのは、糖質だと気付きましたよね。同じ摂取カロリーでも、糖質と脂質を組み合わせて食べる場合の方が、脂質とタンパク質を組み合わせて食べる場合よりも太りやすいのです。
カロリー収支だけで、太るか痩せるかを語ることはできませんよね。