糖質、脂質、タンパク質は、あわせて三大栄養素と呼ばれています。三大栄養素というわけですから、これらが生きていくために不可欠な栄養素ということですね。
しかし、これらの栄養素は体内に入ると、すべて同じエネルギーとなります。三大栄養素と聞くと、3つの栄養素がそれぞれに重要な意味を持っているように思ってしまいますが、エネルギー源という意味では同一なのです。
この事実は、意外と知られていないのではないでしょうか?
私もこれを知ったのは、つい最近のことです。
三大栄養素はまずアセチル-CoAになる
食事から補給した三大栄養素は、体に入り消化吸収されるとアセチル-CoA(アセチルコーエー)という同一の中間代謝物となります。
糖質、脂質、タンパク質は、それぞれ異なる性質のものですが、体内に入れば、まずアセチル-CoAになるのですから、この段階では、三大栄養素と区別されることはなくなります。
アセチル-CoAは、体の中でいろいろな反応が起こった後で、アデノシン三リン酸(ATP)という物質に変わります。これが、エネルギー源の最小単位です。
ATPになってしまえば、もはや、糖質も脂質もタンパク質も関係ないですね。ちなみにここまでの話は、酸素を十分に使える時の好気的代謝によって起こることです。
運動強度によって糖質と脂質を使い分ける
三大栄養素は、エネルギーとして使われる場合には、すべてATPになることがわかりました。
でも、この中でタンパク質は体の組織をつくる材料となるので、通常はエネルギーとして消費しません。ということは、三大栄養素の中でエネルギー源となるのは、糖質と脂質が主といえます。
糖質と脂質が、エネルギーとして消費される際、前者は強度が高い運動の時、後者は強度が低い運動の時に利用されます。
糖質は、体に入ると、いったん多数のブドウ糖が結合したグリコーゲンという形で、肝臓と筋肉に貯蔵されます。そして、強度の高い運動をすると、グリコーゲンからすばやくATPを作り出し、運動に必要なエネルギーとして使います。
これについては、医師の釜池豊秋先生の著書「医者に頼らない!糖尿病の新常識 糖質ゼロの食事術」の中で、解説されています。
筋肉内に貯蔵されたグリコーゲンがいくつもの酵素反応を経てピルビン酸と乳酸になる過程でATPが正味三つ作られます。
この一連の反応を「解糖」といいます。解糖には酵素を必要としません。また、解糖によってATPができるスピードは、糖質や脂質が酵素と反応してATPができるそれよりも、二.五倍程度速いのです。(102ページ)
つまり、糖質をグリコーゲンという形で体内にたくさん貯蔵しておけば、瞬時にエネルギーとして利用できるので、運動のパフォーマンス向上に貢献しやすいと考えられます。だから、グリコーゲンのもとである糖質を含む穀物やイモ類、砂糖を普段から大量に摂取すれば良いということになりそうです。
しかし、動物の体はそんなに都合よくはできていません。グリコーゲンの貯蔵量というのは、とても少ないのです。
糖質は、多数のブドウ糖が結合したグリコーゲンという形で、肝臓(たかだか六%重量)と筋肉(一%重量未満)に一対三~五の割合で貯蔵されています。そのうち、肝臓のグリコーゲンは血糖値を保つのが本来の役割です。(90ページ)
すなわち、運動に使われるグリコーゲンは筋肉に蓄えられている部分だけで、体重60kgの人なら、1%未満の600gも蓄えることができません。それほど運動をしていない人であれば、グリコーゲンを筋肉に300g蓄えることも難しいといわれています。
糖質1gのエネルギーは4kcalなので、300gのグリコーゲンから生み出されるエネルギーは1,200kcalということですね。これは成人男性が1日に必要とする摂取カロリー約2,000kcalと比較すると、かなり少ないことがわかります。
これに対して脂質は、1gで9kcalのエネルギーを生み出します。体重60kgで体脂肪率が20%なら12kgの脂肪を貯蔵していることになるので、108,000kcalものエネルギーを蓄えていることになります。
脂質は強度の低い運動時のエネルギーとして使われます。日常生活で歩いたりする時に使うのが脂質です。全力疾走したり、重たいものを持ち上げたりしない限りは、通常は脂質をエネルギーとして使います。
動物にとって糖質は主要なエネルギーとはならない
このような体の仕組みからすると、糖質は主要なエネルギーとならないことがわかります。
1日に必要とするエネルギー量も賄うことができないわけですからね。それにもかかわらず、現代栄養学で、糖質を主要なエネルギーと位置付けているのはどうしてなのでしょうか?
おそらく、これは、動物の体の仕組みから導き出されたものではなく、経済的な理由から出された結論なのではないでしょうか?
このブログで何度か紹介している分子栄養学の三石巌先生は、その著書「医学常識はウソだらけ」の中で、大豆が良質なタンパク源という誤解が広まった理由について、以下のように推測しています。
なぜ大豆万能主義が世界的に広まったのかというと、そこには経済的理由が存在した。国連のWHOは、卵が大豆よりはるかに優れたタンパク質であることは十分に承知していた。だがこの説を広めると、たちどころに卵の供給不足が世界的に起こってしまう。そこで、卵とは比較にならないほど大量に生産されている大豆に目をつけたのである。(133ページ)
これと同じ理由で、脂質よりも糖質の方が重要なエネルギー源であるという説が広まったんじゃないかと思うんですよね。日常生活で必要になるエネルギー量を脂質で賄おうとすると、多くの肉や魚が世界的に消費されることになり、それらの供給量が消費量に追いつかなくなってしまうから、糖質が多く含まれている穀物をたくさん食べるように推奨しているのではないでしょうか。
しかも、糖質は筋肉にグリコーゲンとして貯蔵できなくなれば、脂肪として体に貯め込むので、脂質を摂取したのと同じだと考えたのかもしれません。
しかし、多量に糖質を摂取すると、血糖値が急上昇して、血管にダメージを与えてしまいます。血液もドロドロになるので、糖質の多量摂取は、デメリットが多すぎます。
筋肉にグリコーゲンとして蓄えれるだけの糖質摂取量は必要だとも思えますが、タンパク質をしっかりと補給しておけば、体内でアミノ酸に変わったタンパク質を材料にして糖質を作り出すことができます。なので、糖質を積極的に摂取する理由はないんですよね。
それよりも筋トレをしているのなら、タンパク質を多く摂取した方が、筋肉量を増やすのに効果的ですし、ダイエットをしている人も筋肉量が増えた方が基礎代謝がアップするので太りにくくなります。
このように考えると、肉、魚、卵といったタンパク質と脂質を多く摂取できる食品を普段から積極的に食べた方が良いように思いますね。