一般的に肥満は、高カロリーな食事と運動不足が原因と言われています。誰だって、食っちゃ寝、食っちゃ寝していれば、簡単に太るということは想像できますよね。
食べ過ぎの指標としてよく用いられるのが摂取カロリーです。摂取カロリーが多ければ多いほど、太りやすいとされていますが、どうも、これが統計的には説明できないようです。むしろ、日本人、特に男性は、摂取カロリーが少ない方が太りやすいんですよね。
日本人男性の30%が肥満
厚生労働省が公表している国民栄養調査によると、2012年の日本人の肥満率は、男性が29.1%、女性が19.4%ということです。
肥満率の指標としているのは、BMIです。BMIは以下の計算式で求めることができます。
- BMI=体重/(身長×身長)
上の式では、体重はキログラム、身長はメートルを使います。肥満とされるのは、BMIが25以上の場合です。
肥満の原因が食べ過ぎや運動不足だというのなら、摂取カロリーを少なく、消費カロリーを多くすることで、肥満を解消することができるはずです。ところが、厚生労働省の統計資料によると、摂取カロリーを減らせば減らすほど、男性は太っていくようです。
1980年の1日当たりの平均摂取カロリーは、2,084kcalです。この時の男性の肥満率は17.8%と女性の肥満率よりも低かったのですが、摂取カロリーが減少するにしたがって、肥満率は増加しています。そして、摂取カロリーが1,900kcalを割り込んだ2006年には、男性の肥満率は29.7%と30%目前に達しています。
その後も、摂取カロリーは減っていき、2007年以降は男性の肥満率が30%を超えます。
1980年以降、仕事内容が肉体労働からデスクワークに移行し始め、運動不足になりやすくなったことが肥満の原因だという指摘があると思います。でも、現代人は30年前と比較すると200kcalも摂取カロリーが減っているのですから、少々、運動不足になっているとしても、摂取カロリーと消費カロリーの差が大幅に広がっているとは思えません。
ちなみに200kcalを消費するためには、2時間の散歩が必要になります。
食べ物の摂取比率によって太りやすさは変わる?
摂取カロリーは、タンパク質、脂質、炭水化物(糖質)の摂取量から計算されます。
摂取カロリーが減少傾向にあるのに男性の肥満率が上昇しているのなら、これらの栄養素の摂取割合の変化が肥満と関係があるのではないかと思い、1975年から2012年までの摂取比率をグラフにしました。
1980年以前は、炭水化物の摂取割合が70%を超えていましたが、1985年以降は70%を割り込んでいます。
1日当たりの摂取量で見ても、炭水化物は年々減少傾向にありますね。
どうやら、炭水化物の摂取量を減らせば減らすほど太るという傾向にあるようですね。
タンパク質と脂質の摂取量が増えても痩せている
上のグラフを少し見ただけだと、炭水化物の摂取量と肥満率との間に高い相関関係がありそうです。
だから、痩せるためには炭水化物を多く食べることが効果的と言えそうなのですが、2012年のグラフを見ると、そうとは言えないんですよね。
確かに2012年は炭水化物の摂取量が増え、男性の肥満率が減少しています。でも、摂取量が増えているのは、タンパク質も脂質も同じなんですよね。
このように統計だけを見ていると、どこかで辻褄が合わないことが出てきます。だから、最初から炭水化物の摂取量が少なくなっていることが肥満率の上昇の原因だという結論ありきで理論を展開していくと、不都合な情報を見せないようにしなければなりません。
上に示した3つのグラフで言うと、タンパク質と脂質の項目を除外すれば、炭水化物をたくさん食べても太りませんという結論を導くことができますね。
神経内科医のたがしゅう先生のブログの以下の記事で、わからないことをあたかもわかったように断定している例が紹介されています。
記事の中では、戦後、糖質の摂取量が減って、脂質の摂取量が増えるとともに動脈硬化や糖尿病が増加しているとの指摘に対する反論が述べられています。
上のグラフでは、1975年の脂質の摂取量は1日に52gなのに対して、2012年は55gと、それほど増えているわけではありません。なのに糖尿病になる人が年々増えているのですから、脂質の摂取量の増加と糖尿病の増加との間に相関関係があるようには思えません。
結局、統計だけでは何が原因で太ったり痩せたりするのかを導き出すのは無理だと思うんですよね。
食べたものが、体の中でどのように変化するのか、それを食べると体がどういう反応を起こすのか、そういったことに目を向けない限りは、事実はわからないでしょう。
データを並べて、特定の食べ物と肥満との関係をグラフで比較して議論しても、それは、分析という名のこじつけ合戦でしかないと思います。
炭水化物(糖質)を摂取すると、インスリンが追加分泌され、糖質を脂肪に変えて体に貯め込んでしまう。
人間の体は、そういう造りになっているのですから、糖質をどのようにコントロールするのかが、肥満解消の近道だと思うのですが。
ちなみにこの記事を書く前は、糖質の摂取量の増加と肥満率の上昇とが比例するグラフを作れるのではないかと思っていたのですが、実際には、糖質摂取量が減れば肥満率が上がるというグラフになってしまいました。統計で答えを出すことはできないという良い見本ですね。
2015年2月22日追記
摂取カロリーが減少しているのは、高齢化で高齢者の数が増えていることが原因ではないかという鋭い指摘を受けました。
なので、男女年代別に摂取カロリーと肥満率の推移を示したグラフを作り、以下の記事に掲載しました。