解糖系とミトコンドリアのどちらを重視するかで主要エネルギー源は変わる?

人間の主要なエネルギー源については、グルコース(ブドウ糖)なのか脂質なのかといった議論があります。

昔からグルコースが主要なエネルギー源と言われていますが、人間は、グルコースの他にも、タンパク質と脂質もエネルギー源として利用できます。なので、グルコースが主要エネルギー源だとする考え方においては、タンパク質と脂質はおまけといった位置づけになるのでしょう。

一方、脂質を主要なエネルギー源と考えるのであれば、グルコースとタンパク質はおまけとなるはずです。

解糖系とミトコンドリアの比較

糖質(グルコース)、タンパク質、脂質の三大栄養素のうち、どれが主要なエネルギー源かを決める前にエネルギーを生み出すエンジンには、解糖系とミトコンドリアがあることを知っておかなければなりません。

そして、解糖系とミトコンドリアのどちらがメインエンジンかを決めなければ、三大栄養素のどれが主要なエネルギー源かを決定できないはずです。ということで、まずは解糖系とミトコンドリアの違いを知る必要があります。

なお、以下の説明では、タンパク質は主要なエネルギー源の候補からは外します。タンパク質が分解されたアミノ酸は、糖新生によってグルコースになりますから、タンパク質を主要なエネルギー源と考えることは、グルコースを主要なエネルギー源と考えることと同じになるからです。

解糖系は、グルコースを使ってアデノシン三リン酸(ATP)と呼ばれるエネルギーを作り出します。グルコース1分子から解糖系で生み出されるATPは2分子です。

一方のミトコンドリアは、解糖系でのグルコースの代謝産物であるピルビン酸や脂質が分解された脂肪酸がアセチルCoA(コーエー)になり、クエン酸回路で代謝されてATPが産生されます。

解糖系は、酸素が供給されなくてもATPを産生できるので即効性があります。一方のミトコンドリアは、酸素がなければATPを作り出せないので、解糖系と比較するとエネルギーを作り出すのが遅いです。

しかし、ミトコンドリアは解糖系と比較すると大量のATPを作り出せます。解糖系で代謝されたグルコースは、ピルビン酸、アセチルCoAを経てクエン酸回路に入って30分子のATPを生み出します。また、脂質が分解された脂肪酸から変換されたアセチルCoAは、100分子以上のATPを生み出します。特に脂肪酸のうちパルミチン酸は129分子ものATPを生み出します。

上の説明を簡単な図で示すと以下のようになります。

解糖系とミトコンドリア

即効性とエネルギー量のどちらを重視すべきか

解糖系とミトコンドリアのどちらをメインエンジンと考えるかは、即効性とエネルギー量のどちらを重視するかにかかっています。これを議論せずにグルコースと脂肪酸のどちらが主要なエネルギー源かを決定することはできないでしょう。

ATP産生の速度が早いか遅いか、ATP産生量が多いか少ないかを表にまとめると以下のようになります。

エンジンとエネルギーの組み合わせ

理想のエンジンとエネルギー源は、ATP産生速度が速く、ATP産生量が多いエンジンとエネルギー源の組み合わせですが、上の表を見ればわかるようにそのような組み合わせはありません。

また、速度が遅く量が少ない「ミトコンドリア+グルコース」の組み合わせは、普通に考えれば主たるエンジンとエネルギー源の組み合わせにはなりません。

そうすると、即効性はあるが量が少ない「解糖系+グルコース」の組み合わせか、即効性はないが量が多い「ミトコンドリア+脂肪酸」の組み合わせのどちらかが、「メインエンジン+主要なエネルギー源」となるはずです。

ライターとガスコンロのどちらが好きかで決まる

「解糖系+グルコース」の組み合わせは、ライターに例えることができるでしょう。ライターは、ポケットから取り出して親指でボタンを押すか、円い金具をこするかすると火がつきます。すぐに火を使いたいときはライターが便利ですが、火力が弱いといった難点がありますね。

「ミトコンドリア+脂肪酸」の組み合わせは、ガスコンロに例えるとわかりやすいです。ガスコンロを使うためには、ガスボンベをコンロに設置しなければなりません。ライターに比べると用意する時間がかかります。また、つまみを回して数秒間カチカチと火花が散った後、やっと火がつきます。しかし、いったん火がつくと、その火力はライターをはるかにしのぎます。

即効性を重視するのなら、米やパンなど炭水化物(糖質)が多く含まれた食べ物を食べれば良いでしょう。逆にエネルギー量重視なら、脂質が多く含まれた肉などの動物性食品を積極的に食べれば良いでしょう。

ちなみに産婦人科医の宗田哲男先生の著書「ケトン体が人類を救う」では、糖質エンジンは高率が悪くメインエンジンにはならないといった旨の記述があります。そして、脂質を使ったケトン体エンジンこそが、メインエンジンだと述べています。

ほかの生物では、ケトン体の働きはもっとはっきりしています。たとえば、冬のシベリアに向かって飛んでいく渡り鳥は、どんなエネルギーで飛んでいるのでしょうか。
これは蓄えた脂肪を燃やして飛んでいるのです。糖質エンジンは、じつは効率が悪くて、長く飛べるようなエンジンではありません。動物の身体に蓄えられるエネルギー源は、じつは脂肪である場合が多く、糖質は一時しのぎのエネルギーであって、補給を頻繁にしないとすぐに枯渇してしまいます。(120ページ)

鍋料理をする時、即効性があるからとライターで温める人はいませんよね。準備に少しくらい時間がかかってもガスコンロを使うはずです。

それと同じで、人間やそのほかの動物も、解糖系ではなくミトコンドリアをメインエンジンにしているのではないでしょうか。

そう考えると、脂肪酸よりもATP産生量が少ない糖質(グルコース)が主要なエネルギー源になるとは考えにくいですね。

参考文献