三大栄養素の摂取バランスの変化に体はすぐ適応できない?

炭水化物(糖質)、脂質、タンパク質は三大栄養素と呼ばれており、日本人の食事摂取基準2015年版では、これらのカロリー摂取比率を以下のようにすることを推奨しています。

  • 炭水化物:50~65%
  • 脂質:20~30%
  • タンパク質:13~20%

炭水化物に偏っているので非常にバランスが悪いです。この比率に従えば日本人の一般的な食事内容になって問題ないだろうという確率論的な考え方から求められた数値なので、日本人の平均的なカロリー摂取比率も大体このようになっています。

ところで、このカロリー摂取比率を変えるとどうなるのでしょうか?

体内には三大栄養素を補完する反応がある

三大栄養素の中には、脂質に含まれる必須脂肪酸、タンパク質に含まれる必須アミノ酸のように必ず食物から補給しなければならない栄養素があります。

でも、それ以外の糖質、脂質、タンパク質(アミノ酸)は、それぞれが補完し合う関係にあることから、必ずしも三大栄養素を毎回の食事で摂取する必要はありません。帝京大学名誉教授の杉晴夫先生の著書「栄養学を拓いた巨人たち」によると、体内でよく起こる三大栄養素の相互補完的な反応は以下のとおりです。

(1)糖質→脂質・アミノ酸
(2)脂質→アミノ酸
(3)タンパク質→脂質・糖質
(209ページ)

昔の日本人は糖質中心の食生活だったことから反応(1)が体内でよく起こっていたと考えられます。また、海獣を食する習慣があったイヌイットは主にその脂肪で生活していたことから反応(2)が必要だったはずです。

反応(3)は、絶食をした時に身体のタンパク質をエネルギー源として利用する反応です。当然、身体を構成するタンパク質が減っていくので痩せていきます。

食事を米食から肉食に変えたらスタミナが減少した

「栄養学を拓いた巨人たち」では、古代ローマ人や日本の武士は、米や小麦などの穀物を主体とした食事をしていたのに優れたスタミナを持っていたと述べられています。彼らのスタミナが優れていたのは、身体の代謝系が食習慣に適応して反応(1)が盛んになり、動物性タンパク質の不足を糖質で補うことができたからだということです。

また、興味深い事例として明治初期に西洋医学を日本に伝えたベルツの体験談が紹介されています。

彼は滞日中、当時わが国で発明された人力車を引く車夫のスタミナに感心した。彼らは客を乗せて一日数十キロメートルを軽々と走破した。ところが、ベルツが試みに彼らに肉を食べさせてみたところ、たちまちスタミナを消失し、少し走っただけでばててしまった。つまり、彼らは動物性タンパク質を有効にエネルギー代謝に利用する(3)の反応をただちに発動させて肉食に適応することができなかったのである。(211~212ページ)

一読しただけだと、米は肉よりもスタミナがつく食品だと思うでしょう。そして、実際に米を食べるのをやめて肉中心の生活にした方も、体が疲れやすくなったと感じたと思います。

でも、それは米がスタミナ食というのではなく、米や小麦など糖質中心の食生活によって反応(3)が起こりにくい体質になっていたということではないでしょうか?また、同書では、イヌイットとは異なる民族が彼らと生活を共にすると食習慣に適応できないため反応(2)がよく起こらず、重篤な症状に陥ることがあるとも述べられています。

なんてことはなく、摂取カロリーの60%を糖質から摂取する偏った食生活をしていると、三大栄養素のバランスをちょっと変えただけでも体調が悪くなるということでしょう。

糖質制限を開始して間もない時期は疲れやすく感じる

米、パン、麺類、イモ類、砂糖の摂取量を減らす糖質制限を開始すると、以前よりも疲れやすくなったと感じる方もいるようです。

私の場合は、糖質制限を始めて間もない時期は、息が上がるような疲れはなかったのですが、筋肉が疲労しやすくなったように感じました。でも、それも最初の頃だけで、2ヶ月かそこらで筋肉は疲れにくくなりました。

それどころか、暑さに強くなるし、息も上がりにくくなるしで、全体的に体が疲労しにくくなりましたね。さらに体重を減らさないように脂質をたっぷりと摂るようになってからは、子どもの頃のように体が元気になってきました。

ここからは私の妄想ですが、糖質制限開始直後は、反応(1)の代謝から反応(2)にうまく切り替えれなかったのだと思います。そして、糖質制限の開始から間もない期間に体重が大幅に減少するのは、反応(1)から反応(3)に代謝が切り替わったからなのではないでしょうか?

そして、反応(3)は、体が反応(2)への移行段階にあることを示しているのかもしれません。

もう一度整理すると、反応(3)は身体を構成しているタンパク質を取り崩して、脂質と糖質を作り出しエネルギー利用する反応です。反応(2)は脂質を取り崩して身体を構成するアミノ酸(タンパク質)を作り出す反応です。

この反応(2)と(3)をじっくりと考えると、身体づくりに重要なのは反応(3)であり、脂質をたくさん摂取することが大切なのではないでしょうか?

1回の食事で吸収できるタンパク質の量は20gから40g程度と言われていますので、たくさんタンパク質を摂取したところで、身になりにくいように思います。それなら、脂質を多く摂取して体内で反応(3)が起こりやすい状態にしておいた方が良いと思うのですが。

なお、「栄養学を拓いた巨人たち」については以下の記事も参考にしてください。

参考文献