日頃の食事で、何かとお世話になることが多い牛。私は、毎日、牛肉、牛乳、ヨーグルト、チーズなど、何かしら牛と関係のある食べ物を口にしてます。牛乳はそのまま飲むことはほとんどありませんが。
牛肉も乳製品も栄養価が高い食品ですから、積極的に食べたいですね。ところで、牛は牧草や穀物しか食べていないのに体がとても大きいですよね。そのおかげで、たくさんの肉を食べれるのですが、いったい草や穀物だけでどうやってあんなに大きな体になるのか不思議に思ったことはないですか?
第一胃で低級脂肪酸を吸収
聞いたことがあると思いますが、牛には4つの胃袋があります。口に近い方から第一胃、第二胃、第三胃、第四胃と数えます。
4つも胃袋があれば、効率的に食べ物を消化して栄養素を吸収しているのだろうと思ってしまいそうですが、消化酵素があるのは第四胃だけです。では、その他の胃袋は何のために存在しているのでしょうか。
まず、第一胃ですが、ここでは細菌や原生生物などの微生物が棲んでいます。第一胃は、たくさんの水が蓄えられていて、そして、体温で微生物が生活しやすい温度に調整されています。
実は、牛が草を食べるのは、第一胃に棲んでいる微生物たちに栄養を与えるのが目的です。そして、微生物たちの排せつ物である酢酸、乳酸、プロピオン酸、酪酸などの低級脂肪酸を第一胃から吸収して糖新生回路でブドウ糖を作りだし、脂肪に変えています。
これに関しては、動物育種繁殖学を専門とする酒井仙吉先生の著書「哺乳類誕生 乳の獲得と進化の謎」で解説されています。
植物は、セルロースでできた細胞壁で細胞を覆っています。セルロースを分解するためには、セルラーゼという消化酵素が必要ですが、牛も人間もセルラーゼを持っていません。したがって、牛が草食動物だと言っても、自ら草を消化して栄養補給できないのです。
それなのに牛が草を食べるのは、第一胃に棲んでいる微生物たちに栄養を与えるためで、決して牛が自らの力で草を消化して栄養補給しているのではないんですね。
第四胃でタンパク質を消化
牛の第四胃には消化酵素があると述べました。第四胃の消化酵素はタンパク質を分解してアミノ酸にします。
ここで、牛は草食動物だから肉などのタンパク質は食べないのではないかという疑問がわいてきます。でも、牛の第四胃にタンパク質を分解する消化酵素があるのですから、彼らだって、タンパク質を補給しているはずです。これについて前掲の酒井先生の著書では、以下のように解説されています。
ウシは唾液と第一胃に尿素を分泌する。微生物は尿素と、胃で発生するアンモニアからアミノ酸をつくる。これも非反芻動物には不可能である。草のタンパク質は微生物に利用されてしまうが不利にならない。微生物が第四胃に送られると胃酸で死滅、タンパク質消化酵素で分解され、小腸でアミノ酸となって吸収されるからである。タンパク質は草に含まれていた一〇~一〇〇倍に増加し、量的に不足することはない。微生物も動物であり、必須アミノ酸が欠乏することもない。また、各種ビタミンも微生物から得ている。口にした栄養はみかけで、第四胃に到着した栄養が本物である。(166ページ)
牛は植物ばかり食べていると思っていたら、実は、しっかりと動物性タンパク質を補給していたんですね。
お子さんが野菜嫌いだと、お母さんは「モーモーだって草を食べてあんなに大きくなったんだから野菜を食べなさい」と叱ると思います。でも、このお母さんの叱り方は間違ってます。だって、モーモーは、第一胃で微生物が草を分解して作り出した脂肪酸を吸収していますし、第一胃で養殖した微生物を第四胃に運んで消化し、大量のアミノ酸(タンパク質)を摂取しているのですから。
すなわち、牛は動物性タンパク質中心の食事をしているのです。
だから、お子さんがモーモーのように大きな体になるためには、肉、魚、卵などの動物性タンパク質をしっかりと食べさせてあげることが大切です。
菜食をされている方も、牛が草を食べて大きくなるとおっしゃることがありますが、これも違いますね。牛と同じように口から草を入れて栄養補給をしようと思うと、食道でセルラーゼを持った微生物を飼育し、大量に培養できたところで飲み込まなければなりません。こんなことを人間ができるのかどうかわかりませんが。
でも、腸内にセルラーゼを持った細菌が棲んでいる方がいらっしゃるそうですから、そういう方は野菜ばかり食べていても、うまく脂肪酸やアミノ酸を摂取できているのでしょうね。しかし、自分の腸内にセルラーゼを持った細菌がいるかどうか調べようがありませんから、動物性タンパク質を食べて栄養補給するのが基本だと思いますよ。