空腹時の運動でミトコンドリアを増やす

人間は、体内でアデノシン三リン酸(ATP)と呼ばれるエネルギーを生み出して活動をしています。このATPは、主に細胞の中にあるミトコンドリアで、糖質、脂質、タンパク質から合成されるアセチルCoA(コーエー)を主原料に酸素を利用して産生されます。

なので、ミトコンドリアが多いほど、ATPも多く作られます。ATPがたくさん作られれば、エネルギー不足になりにくいので、体が疲れにくくなるはずです。

サーチュイン遺伝子と連動してミトコンドリアは増殖

ミトコンドリアが多いほどATP産生量を増やせるとしても、そもそもミトコンドリアを増やせるのかが問題です。

ガン治療に免疫栄養ケトン食を導入している医師の古川健司先生の著書「ケトン食ががんを消す」によれば、日常生活の中でミトコンドリアを増やすことは可能だそうです。

ミトコンドリアを増やすためには、飢餓状態を作り出すことが有効のようです。人間は飢餓状態になると長寿遺伝子のサーチュイン遺伝子が働き出します。1日1食で知られている医師の南雲吉則先生がよく紹介しているあのサーチュイン遺伝子ですね。

飢餓状態になるとサーチュイン遺伝子が壊れた細胞を修復し始め寿命を延ばすとされていますが、このサーチュイン遺伝子と連動してミトコンドリア増殖スイッチも押されるのだそうです。

ケトン体もサーチュイン遺伝子を働かせる

飢餓状態だけでなく、サーチュイン遺伝子は脂肪酸から合成されるケトン体によっても働きだします。

ケトン体は、炭水化物(糖質)を制限すると肝臓で合成され、各組織でミトコンドリアがアセチルCoAに変換してATPを作り出す原料となります。このケトン体が出ると、サーチュイン3と呼ばれる長寿遺伝子が働き始め、ミトコンドリアの働きを活性化し、同時にDNAの修復も行うのだとか。

そうすると、飢餓状態に陥れば、糖質摂取も絶たれてケトン体が合成されやすくなるはずです。

飢餓状態で働く長寿遺伝子はサーチュイン2で、ケトン体由来のサーチュイン3とは違うものみたいですが、何日も絶食すれば両方のサーチュイン遺伝子が働き、ミトコンドリアの増殖と活性化に効果がありそうです。

プチ断食と糖質制限

しかし、何日も絶食することなんてできません。やろうと思えばやれますが、永遠に食を絶つことは常人には不可能に近いことです。

古川先生は、サーチュイン2を働かせるためにガン患者に1週間に1回のプチ断食を推奨しています。古川先生のプチ断食は簡単に言うと夕食を少な目、翌日の朝食を食べないといったものです。これくらいなら、やれないことはないでしょう。

さらに日頃から糖質制限をしていれば、サーチュイン3が働いてミトコンドリアが活性化しているはずです。

加えて有酸素運動もしておけば、ミトコンドリアの増殖が期待できます。人間の筋肉には瞬発系の白筋と持久系の赤筋がありますが、ミトコンドリアが多く含まれているのは赤筋です。だから、白筋を鍛える高強度の筋トレよりも、赤筋を使う有酸素運動の方がミトコンドリアを増やすのに効果的でしょう。

ただし、有酸素運動と言っても歩くだけでは筋肉が増えませんから、ある程度の強度は必要です。古川先生は、タバタプロトコルというインターバルトレーニングを取り入れいてるそうです。

たとえば、縄跳びや筋トレ、スクワットなどで軽く汗をかいた後に、早歩きのウォーキングか軽いジョギングに入ります。ウォーキングの前に短いダッシュ走を行うことによって、有酸素運動への切り替えを早くすることもできます。(243ページ)

「有酸素運動への切り替えを早くする」とは、脂肪分解を早めることです。有酸素運動の開始20分ほどは、中性脂肪を脂肪酸とグリセロールに分解するリパーゼと呼ばれる酵素が働かず、脂肪酸のエネルギー利用に時間がかかります。ところが、事前に強度の高い運動をしておけば、中性脂肪が分解されやすくなるのです。

タバタプロトコルがどのようなものなのか詳しいことはわかりませんが、中性脂肪の分解を早めるのであればスロートレーニングも有効です。

スロートレーニングは、筋トレ時の動作をゆっくりにすることで、アドレナリン、ノルアドレナリン、成長ホルモンを分泌させることができます。これらのホルモンは、中性脂肪の分解を促進するので、スロートレーニング後の有酸素運動では、すぐに脂肪酸のエネルギー利用が開始されます。しかも、成長ホルモンの脂肪分解効果は5時間にも及びます。なので、脂肪酸からのケトン体合成も進み、ミトコンドリアの働きをより活性化させられるかもしれません。

と言うことで、サーチュイン遺伝子を活性化させたければ、とりあえず糖質制限をし、食前にスロトレと有酸素運動をしておけば良さそうですね。

参考文献