先日、家族がある健康番組を見ていると、体の中の脂肪のサビが老化の原因だと紹介されていました。
私は、その頃読書をしていたのでしっかりと見てはいません。でも、音声が耳に入ってくるので、ある程度の内容はわかりました。サビとは、要するに酸化のことです。体内の脂肪が酸化すると体が老化するので、酸化を食い止めるためにビタミンEをたくさん補給しましょうと。
これ自体は化学の視点から正しいのですが、他にも解説すべきことがあるのにまったくそこには触れていませんでしたね。
ビタミンEは過酸化脂質の増加を防ぐ
脂肪は酸素に触れると酸化します。
酸化とは、物質が持っている電子を奪われることです。反対に電子を受け取ることを還元と言います。空気中に含まれている酸素は酸化させる力が強いので、それを吸うと細胞が電子を奪われて老化します。
特に活性酸素は酸化させる力が強いので、老化予防のためには活性酸素に細胞が電子を奪われないようにしなければなりません。活性酸素から細胞を守るためには、他の物質から電子を渡す必要があります。ビタミンCやビタミンEは、他の物質に電子を渡す力が強いので、こういった還元剤を多く摂取すれば酸化予防になると考えられています。
脂肪の酸化を防ぐ働きがあるのはビタミンEです。なので、脂肪がサビるのを予防するためには、積極的にビタミンEが含まれている食品を食べるのが有効だとされているわけです。ちなみにこの辺のことは以下の過去記事でも書いています。
まず酸化しやすい脂肪酸摂取を控える
ビタミンEをたくさん摂取して脂肪がサビるのを予防する前にまずは酸化しやすい脂肪酸の摂取を減らすべきでしょう。
脂肪酸には、酸化しやすい脂肪酸と酸化しにくい脂肪酸があります。酸化しやすい脂肪酸はキャノーラ油や紅花油などの植物油に多く含まれている不飽和脂肪酸です。一方、酸化しにくい脂肪酸は動物性脂肪に多く含まれている飽和脂肪酸です。
したがって、脂肪のサビを気にするのであれば、食事での脂質摂取は動物性脂肪を中心とし植物油を避けるべきなのです。
脂肪酸は複数の炭素原子がつながってできています。
炭素原子は4本の手を持っています。隣り合った2つの炭素原子に2本の手を出してつなぎ、残りの2本は水素原子2つと結合しています。この炭素原子がいくつも結合しているのが脂肪酸です。2本を隣り合った炭素原子とつなぎ、2本を水素原子とつないで、4本すべての手を使って連なっている脂肪酸を飽和脂肪酸と言います。
飽和脂肪酸の炭素原子は、4本の手が他の物質と結合しているので、これ以上は別の物質と手をつなげません。だから、活性酸素が「手をつないで」と言いながら寄ってきても、炭素原子は「今、手が離せないから無理」と断り酸化を防げます。
一方、不飽和脂肪酸は複数の炭素原子のつながりの中で1ヶ所以上、2本の手で結合している部分があります。この二重結合が1ヶ所あるのが一価不飽和脂肪酸、2ヶ所以上あるのが多価不飽和脂肪酸です。
炭素原子間に二重結合があると、その部分は1本の手でつながっているよりも強固な結びつきのように思えます。ところが、そうではなく、2本の手でつながっている部分は1本余裕があるので、活性酸素が「手をつないでよ」と言って寄ってくると「1本だけならいいよ」と手を差し出せます。しかし、炭素原子が手を出した途端、活性酸素によって電子を奪われ、不飽和脂肪酸は過酸化脂質になってしまいます。
さらに困ったことに過酸化脂質は、他の不飽和脂肪酸まで過酸化脂質にしてしまいます。そして、新たにできた過酸化脂質も別の不飽和脂肪酸を酸化させるので、酸化の連鎖が延々と続いていきます。まるで、ゾンビに噛まれた人がゾンビになり、そのゾンビが他の人を噛んでまたゾンビにするようなものですね。
過酸化脂質の連鎖を止めてくれるのはビタミンEです。だから、ビタミンEを多く摂取しておけば不飽和脂肪酸の酸化、つまり脂肪のサビを予防できるとされているんですね。でも、本当に必要なことは、酸化しやすい不飽和脂肪酸の摂取を控えることでしょう。不飽和脂肪酸の二重結合は、リノール酸で2ヶ所、アラキドン酸で4ヶ所、オレイン酸で1ヶ所あります。健康に良いと言われているαリノレン酸も二重結合が3ヶ所あるので酸化しやすいです。
健康番組を見る前に化学の本を読む
健康番組を見るのは構わないですが、その前に化学の入門書を1冊くらいは読んでおいた方が良いでしょう。早稲田大学高等学院化学科教諭の竹田淳一郎先生が書かれている「大人のための高校化学復習帳」は、化学の知識がない人にもわかりやすく解説されているのでおすすめです。
不飽和脂肪酸が酸化しやすい理由も以下のように説明されていますね。
反応しやすい二重結合が多くあると、空気中の酸素と反応して油脂は酸化されて風味が落ちてしまいます。植物性油脂が動物性油脂に比べて保存がききにくいのは、二重結合が多くあるのが理由です。(226ページ)
私は、高校の時に化学を選択していませんでしたが、この本を読んで入門程度の知識を身に着けることができました。中学生の頃は理科は嫌いだったのですが、今は興味を持って化学や生物学の本を読んでます。
以前に脳科学の本を読んだら、子供の頃は丸暗記が得意で論理的に暗記するのが苦手だけど、大人になると論理的に物事を覚えるのが得意になると書かれていました。きっと、中学生や高校生の時に化学や物理が苦手だった人でも、今なら割と理解できると思いますよ。