ダイエット中でもタンパク質摂取量は減らさない

体重を減らそうとダイエットをされている方は、おそらく以前よりも食事量を減らしていると思います。そして、食事量の指標としているのはカロリーだと思います。ダイエット前は3,000kcal食べていたとしたら、それよりも2割少ない2,400kcalにするなど、カロリーを物差しにして食事量を量っていることでしょう。

カロリー計算の対象となるのは、糖質、脂質、タンパク質です。だから、これら三大栄養素を万遍なく減らす場合も、どれか一つを極端に減らす場合も摂取カロリーが一緒なら体重の減り方も同じと考えられています。しかし、糖質、脂質、タンパク質は、体内で異なる働きをしますから同列で扱うことはできません。

まず減らすべきは糖質

最近では糖質制限ダイエットが普及したこともあり、脂肪の蓄積の原因は米、小麦、砂糖などに多く含まれる炭水化物(糖質)だと理解している人が増えています。

脂肪と聞くと、肉に含まれている脂身を想像しますが、脂身を食べるよりも糖質を摂取した方が体に脂肪が溜まりやすいです。もちろん、脂身を食べても脂肪組織に中性脂肪が蓄えられますが、糖質を食べて高血糖になっている状況では中性脂肪の分解が進まないので、脂身よりも米やパンを食べる方が太りやすくなります。

このことをわかっていれば、減量時に食事から減らすべきは糖質だと理解できるはずです。

「しかし、糖質を減らすと言っても、一切摂取しなくて大丈夫なのか?」

こういう疑問を持つ人は多いです。血液中にはブドウ糖(血糖)が一定量含まれていますから、一切、糖質を摂取しないとなると血糖が枯渇して低血糖となり倒れるのではないかと思ってしまいます。

でも、心配ご無用。

人間には、自力でブドウ糖を作り出す糖新生という機能が備わっているので、糖質を摂取しなくても低血糖になることはありません。しかし、糖質の代わりにタンパク質と脂質、特にタンパク質は多く食べる必要があります。

糖新生の主役は糖原性アミノ酸

ブドウ糖を口から摂取しなくても良いと言っても、体にとっては欠かすことのできない物質です。

人間は、主に脂肪酸からエネルギーを取り出して活動を行っていますが、赤血球だけは脂肪酸をエネルギー利用できません。だから、赤血球はブドウ糖をエネルギー利用するしかなく、そのためにブドウ糖は必要になります。

また、ブドウ糖は体内で必要な化合物の材料ともなります。特にDNAやRNAといった核酸は、その材料の一部がブドウ糖ですから、不足すると不都合が生じます。そのため、人間には、自前でブドウ糖を合成する糖新生という機能が備わっているのです。

糖新生で作り出したブドウ糖(グルコース)は、赤血球のエネルギー源となります。さらにブドウ糖は、ペントースリン酸回路を経由して、リボース-5リン酸となり、これが核酸の成分になります。

人間に糖新生という機能が備わっているからと言っても、何もないところからブドウ糖を合成できません。糖新生の材料となるのは、中性脂肪の分解産物であるグリセロールとタンパク質の分解産物であるアミノ酸です。他にも運動するとできる乳酸も糖新生の材料になります。

生物・化学系ライターの大平万里先生の著書「『代謝』がわかれば身体がわかる」によると、糖新生の主役は20種類のアミノ酸のうちロイシンとリシン(リジン)を除いた18種類の糖原性アミノ酸だそうです。糖原性アミノ酸は、その名の通りブドウ糖になれるアミノ酸ということです。

20種類のうち18種類が糖原性アミノ酸ですから、「糖原性アミノ酸をしっかり摂取しないと」と考える必要はなく、とにかくタンパク質をしっかりと補給しておけば、ブドウ糖を合成できないという事態にはならないでしょう。

糖新生で筋肉が落ちる

ブドウ糖をタンパク質から合成していると、筋肉が落ちてしまうのではないかと疑問を持つ人もいると思います。

基本的に食事からタンパク質を摂取していれば、筋肉が落ちるということは考えられません。また、肝臓にアミノ酸が貯蓄されているので、空腹時には、その貯蓄を取り崩して糖新生に充てることもできます。

しかし、肝臓のアミノ酸の貯蓄も無くなってしまえば、他からタンパク質を分解して糖原性アミノ酸を調達しなければなりません。その時に筋肉のタンパク質が分解され糖新生に回ります。

人間は脂肪酸を主たるエネルギー源としていますから、太っている人はお腹周りに蓄えた中性脂肪を分解して脂肪酸をエネルギー利用すれば痩せると考えられます。それなら、食事をしなければ中性脂肪の分解が進んで、すぐに痩せられそうだと思うでしょうが、糖新生まで考慮するとそう簡単ではないようです。

極端な絶食による減量を強行すると、脂肪より先に筋肉が落ちてゆくことがある。脂肪酸からは糖は合成できないので、アミノ酸による糖新生を優先させているのである。どんな減量法を実行するにせよ、タンパク質は絶対に摂取しなくてはならない。(301ページ)

中性脂肪を分解して脂肪酸をエネルギー利用すれば、もれなくグリセロールが付いてくるので、これを糖新生に回せば良いように思います。しかし、グリセロールからの糖新生だけでは、十分量のブドウ糖を確保できないので、どうしても糖原性アミノ酸からの糖新生に頼らざるを得ません。

絶食をして体重が減っても、その内訳が脂肪よりも筋肉が多いのでは好ましくないですよね。

プロテインスコアから、人間にとって良質なタンパク源は、卵、魚、肉です。したがって、ダイエット中でもこれらの食材からしっかりとタンパク質を摂取しなければなりません。体重の0.1%がタンパク質の必要摂取量とされていますが、筋トレをしている人であれば体重の0.2%が目標量と言われています。

減量中の人であれば、標準体重の0.2%をタンパク質摂取の目安とすれば良さそうですね。そうすると、食べ過ぎになると危惧する方もいると思います。でも、糖質を控えれば食べ過ぎになることはありません。普段の食事から、ごはん、パン、麺類を抜き、代わりに卵、魚、肉を食べれば、筋肉が分解されて糖新生に回ることはありませんし、脂肪が蓄積していくこともないです。

参考文献