栄養不足の発見は臨床の現場から

先日、テレビ番組の「ザ・世界仰天ニュース」を見ていると、丸山ワクチンが紹介されていました。

丸山ワクチンはガン治療に使われるものです。治療で丸山ワクチンを投与されたガン患者は延命できているデータがあるのですが、厚生労働省は認可していません。一方で、丸山ワクチンが認可されなかった頃、ガンの治療薬として認可されたある薬は、後に効果がないとして認可取り消しになっています。

背後で何か大きな力が働いていそうな感じですね。

丸山ワクチンについて私は詳しいことを知りませんが、栄養不足から発症する病気が、丸山ワクチンと同じように臨床の現場で予防法や治療法が明らかにされていった歴史があるのが興味深いです。

壊血病

杉晴夫先生の著書「栄養学を拓いた巨人たち」では、栄養素の不足が原因で起こる病気の治療方法が発見された経緯がいくつも紹介されています。

例えば、ビタミンCの不足で起こる壊血病。この病気は、古代から船乗りがかかりやすい病気として知られており、気力と体力の衰え、内出血、毛根や歯茎からの出血といった症状があり、長引けば死にいたります。

壊血病は、船の中の劣悪な環境が原因で発症する伝染病だと、長い間信じられていました。しかし、18世紀にジェームス・リンドが、12人の壊血病患者を集め、その中の2人にオレンジとレモンを与えるとむさぼるように食べるのを見て、毎日オレンジとレモンを与えたところ、その2人だけが数日以内に症状が軽くなり、やがて病気から快復しました。

これにより柑橘系の果物が壊血病の治療に有効だとわかったのですが、ビタミンCが健康を保つために必須の栄養素であることは20世紀前半になるまで発見されませんでした。

ペラグラ

皮膚の紅斑や赤舌、口腔炎など、粘膜上皮に炎症を起こし、さらには、消化不良、貧血、下痢、精神障害などの症状も発症するペラグラは、20世紀初頭に米国南部で貧しい人々の間で蔓延しました。

この病気も、当初は伝染病と思われていたのですが、ジョゼフ・ゴールドバーガーによって食事が原因で起こる病気だと解明されました。

ペラグラが伝染病であれば、次々に感染する人が出てくるはずですが、ペラグラ患者が治療を受けている病院では医師も看護師も全くペラグラにかかりませんでした。この事実から、ジョゼフ・ゴールドバーガーはペラグラは伝染病ではないとし、食事に原因があるのではないかと推測しました。

そこで、病院の従業員とペラグラ患者の食生活を比較します。すると、従業員はミルク、バター、卵、肉などの動物性食品を食べているのに対して、ペラグラ患者は穀類、トウモロコシなどの糖質が多い食事をしておりタンパク質摂取が少ないことがわかりました。

そして、ジョゼフ・ゴールドバーガーが、ペラグラ患者にミルクと肉を与えたところ、劇的に症状が改善します。これにより、彼は動物性食品に含まれる未知の物質が、ペラグラの予防と治療に有効だと証明しました。しかし、一度伝染病だと信じ込まれされた人々は、ペラグラが栄養不足が原因だとなかなか信じません。

彼は、囚人に低栄養な食事を与えてペラグラを発症させました。これにより、後にミルク、卵、肉に含まれる物質が、ペラグラの予防と治療に効果があることが学問的に承認されます。しかし、それでも、伝染病だと信じ込む医師が多く、ジョゼフ・ゴールドバーガーは、ペラグラ患者の血液を採取して健常者に注射したり、ペラグラ患者の排泄物を食物に混ぜて食べたりして、ペラグラを発症しないことを彼らに見せつけ沈黙させました。

なお、ペラグラの予防と治療に有効な道の物質は、研究によりナイアシンであることがわかりました。

脚気

以前は、日本人の国民病とも言われていた脚気は、白米の多食が原因で起こっていました。我が国で脚気の予防に取り組んだのは高木兼寛でした。彼は、海軍に麦入りの白米を食べさせたところ、287日の航海中、333人の乗組員の内14人しか脚気になりませんでした。

高木兼寛の実験により、海軍は脚気に悩まされることはなくなったのですが、陸軍では森鴎外が脚気は伝染病だと主張し続けたせいで、日露戦争で3万人近くの兵士が脚気で亡くなりました。

その後、脚気を予防する栄養素がビタミンB₁だとわかり、脚気は伝染病でないことが証明されます。

夜盲症

暗いところで物が見えにくくなる夜盲症は、ビタミンAの欠乏症です。

オーストラリア海軍の長期航海で、夜盲症にかかる乗組員が多かったのですが、医師のシュバルフが肝臓を食べさせたところ治癒しました。また、19世紀後半にエストニアのドイツ大学の研究生レニンが、マウスにある飼料を与えていたら全滅したので、ミルクを飼料に加えたところ、正常に育つことに気付きました。

2人の発見は、長い間無視され続けましたが、20世紀初頭にマッカラムがビタミンAを発見し、必須の栄養素だとわかりました。肝臓にもミルクにもビタミンAは豊富ですね。

栄養素が原因の病気の予防法と治療法は臨床でわかる

上で紹介した栄養不足を原因とする病気は、いずれも臨床の現場で治療法が発見されています。他にビタミンD欠乏が原因のくる病やビタミンB₁₂の欠乏を原因とする悪性貧血症も、臨床の現場で治療法が発見されています。

おもしろいですね。

高額な研究費を使っても治療できない病気がある一方で、患者と健常者の食生活を比較して両者の違いから治療法を見つける医師もいるのですから。

もちろん、臨床の現場では、不足している栄養素がビタミンであったことまでは特定できませんでした。でも、臨床の現場で、健康を維持するために必要な食品を見つけだしたからこそ、その後のビタミンの発見につながっていますから、それら食品に気づいた医師たちの仕事は偉大です。

現代の多くの生活習慣病も、そうじゃないですか。

ある食事をすると健康を維持できると臨床医の先生が言っても、薬の研究が優先されて、有効な予防法や治療法が一般大衆に広まらないことが多々ありそうです。

臨床の現場から吸い上げた情報が研究に活かされたからこそ、ビタミンの発見につながりました。ペラグラや脚気の特効薬を最初に作ろうとして、ビタミンが見つかったんじゃないんですね。

とりあえず、体調が良くないなと感じたら、食事を見直すのが大切だと思います。特に動物性食品は積極的に食べるべきですね。

参考文献