血流を抑制すると遅筋が働きにくくなるから乳酸が成長ホルモン分泌スイッチを押しやすくなるのかも

スロートレーニングは、ゆっくりとした動作で筋トレをして血流を抑制し、成長ホルモンの分泌を良くすることで筋力アップを達成するトレーニング方法です。

ゆっくりとした動作で、しかも、関節を伸ばし切らず曲げ切らずに筋トレをすれば、常に筋肉に力が入りっぱなしになります。そうすると、血管が圧迫されて血流が悪くなります。そして、この状態で筋肉を酷使していると、乳酸が溜まりやすくなります。

乳酸は筋肉内の成長ホルモン分泌スイッチを押す働きをすることから、乳酸が溜まりやすい状況下での筋トレは、成長ホルモンを大量に分泌させます。この仕組みは、加圧トレーニングの研究からわかったことで、後にこの原理を応用して石井直方先生が考案したのがスロトレです。

運動中に速筋を使いまくると乳酸が溜まる

筋肉には、速筋と遅筋の2種類があります。簡単に両者の違いを説明すると以下のようになります。

  • 速筋=動かすのに酸素を必要としないので速い動作に対応できる。
  • 遅筋=動かすのに酸素を必要とするので動作が遅くなる。

こんな感じですね。

この説明を読むと、遅筋を使わず速筋だけを使った方がいいじゃないかと思いますが、無酸素下で得られるエネルギー量は非常に少ないので速筋だけで運動することは難しいのです。酸素を使った方が多くのエネルギーを得られますが、エネルギーを作るまでの化学反応に時間がかかるので瞬発力を発揮しようと思ったら速筋に頼らざるを得ません。このような違いから、以下のような視点で両者の働きを説明することがあります。

  • 速筋=短距離走、重量挙げなど瞬発力を要する運動で主に働く。
  • 遅筋=ウォーキング、ジョギング、マラソンなど持久力を要する運動に適している。

速筋は速いけども短時間しか動かせない。遅筋は遅いけども長時間動かせる。

こんなイメージですね。

解糖系とクエン酸回路

人間の活動に必要なエネルギーは、アデノシン三リン酸(ATP)とされています。

家電製品を動かすための電力、自動車を走らすためのガソリンに相当するのがATPです。

ATPを作り出す過程にはいくつかありますが、ブドウ糖を使ってATPを作る場合は、細胞内の解糖系とミトコンドリアを使わなければなりません。

1分子のブドウ糖は、まず解糖系に入って2分子のピルビン酸になります。この時、ATPも2分子得られます。解糖系では酸素は不要です。

ピルビン酸は、その後、ミトコンドリアに入り、アセチルCoA(コーエー)となります。アセチルCoAはオキサロ酢酸とくっつきクエン酸に変化し、様々な化学反応を経て、再びオキサロ酢酸になります。その後も、アセチルCoAとくっついてクエン酸になり、様々な化学反応を経てオキサロ酢酸になるということを延々と繰り返します。これがクエン酸回路(TCAサイクル)です。

クエン酸回路が1回転すると、NADH+H⁺やFADH₂といった電子伝達体も作られ、これが電子伝達系に運ばれると大量のATPが得られます。そして、ミトコンドリア内で大量のATPを得るためには酸素は不可欠です。なお、クエン酸回路から電子伝達系までで得られるATPは12分子とされています。

血流が抑制されるとクエン酸回路が回らない?

さて、ここまで読めば速筋と遅筋がどうやってATPを獲得しているか、おおざっぱにわかったと思います。

速筋は酸素を使わない解糖系で得たATPを使って動いており、遅筋は酸素を必要とするミトコンドリアで得たATPを使って動いています。速筋は他にクレアチンリン酸も使って瞬発力を発揮しています。

加圧トレーニングやスロトレは、血流を抑制した筋トレ方法と先に述べました。酸素は血流にのって各組織に運ばれます。したがって、血流を抑制して筋トレをすることは、酸欠状態で筋肉を動かしていることになります。

そうすると、加圧トレーニングやスロトレでは、酸素を必要とする遅筋を動員しにくくなるので、速筋を使う比重が高まるはずです。

ここで、速筋は解糖系で得た2分子のATPを利用してトレーニングをしなければなりません。この時、解糖系で合成されたピルビン酸は、酸素供給が不十分なのでミトコンドリアに入れず、乳酸発酵という別の経路で処理されます。乳酸発酵では、ピルビン酸が乳酸となり、NAD⁺という電子伝達体が得られます。解糖系では、このNAD⁺がなければ反応が進まないので、ピルビン酸の乳酸発酵で得たNAD⁺は無酸素下でATPを獲得し続けるために必要です。

酸素が十分にある状況では、ミトコンドリアで大量のATPを獲得できるので遅筋の動員割合が高まるはずです。しかし、酸素が少なければミトコンドリアが働けないので遅筋の動員割合が低くなります。つまり、酸素供給量が乏しい状況では速筋に頼らざるを得ないのです。

速筋に頼って体を動かせば、解糖系の次に乳酸発酵の流れに移行するので、ピルビン酸から乳酸が合成されます。したがって、酸素供給量を減らせば減らすほど乳酸の合成量が増えますから、それだけ成長ホルモン分泌スイッチが多く押されることになるはずです。

血流を抑制する加圧トレーニングやスロトレで、通常時の100倍以上の成長ホルモンが分泌されるのは、こういうことなのでしょう。

私がスロトレを始めた時は、スロトレの本に成長ホルモンがたくさん分泌されると書いてあることに、ただ、「そうなんだ」と思う程度でした。

でも、エネルギー代謝のことも勉強するようになって、乳酸がどうやってできるのかを知り、よりスロトレの理解が進みましたね。エネルギー代謝については、まだまだわからないことが多いので、もっと勉強する必要があるのですが。

参考文献