前回の記事では、アルツハイマー病がインスリン抵抗性と関係があることを紹介しました。
インスリン抵抗性は、血糖値が上がった時にすい臓のβ細胞から分泌されるインスリンの効きが悪くなって、高血糖を解消しにくくなる状態です。インスリン抵抗性があると、将来的に糖尿病になる危険もありますから、インスリン抵抗性を惹き起こさないようにすることは、アルツハイマー病や糖尿病の予防に重要となると想像できますね。
アミロイドβタンパクの蓄積
前回も紹介した、鬼頭昭三先生と新郷明子先生の共著「アルツハイマー病は『脳の糖尿病』」では、脳にアミロイドβタンパクが蓄積していくことがアルツハイマー病発症の原因だと述べられています。
アルツハイマー病になると、特に記憶を司る海馬に悪影響が出やすいことから、早期に記憶障害を起こします。
インスリンは脳の中で、神経細胞の生存、修復を支え、記憶をつくり、アミロイドβタンパクを分解する作用を持っています。脳でのインスリン作用がうまく機能しなくなれば、アミロイドβタンパクの蓄積を招きます。さらにいうと、アミロイドβタンパクの蓄積は脳の中のミクログリアといわれる細胞を刺激して、サイトカインなどの炎症性物質の分泌を亢進させ、インスリン情報伝達をさらに悪化させるという悪循環を招き、アルツハイマー病を進行させることになります。
結論としては、アルツハイマー病の基本的な原因は、脳内でのインスリン抵抗性の存在であると考えられるのです。(123~124ページ)
インスリン抵抗性があると、高インスリン血症になりやすくなります。高インスリン血症の状態では、インスリン分解酵素がインスリンの分解のために多く消費されます。インスリン分解酵素は、アミロイドβタンパクの分解もしてくれますが、高インスリン血症の状態では、インスリン分解酵素はインスリンの分解に多く使われ、アミロイドβタンパクの分解が疎かになるそうです。
だから、高インスリン血症の予防、すなわち、インスリン抵抗性を惹き起こさないことがアルツハイマー病予防に重要だと考えられるんですね。
いかにしてインスリン抵抗性を予防するか
「アルツハイマー病は『脳の糖尿病』」によると、糖尿病予防もアルツハイマー病予防も同じで、インスリン抵抗性を惹き起こさないことが大切だということです。
そのためには、インスリンの無駄撃ちを抑えなければなりません。
インスリンは、血糖値が上がった時に分泌されるので、血糖値を上げないこと、上がった血糖値を速やかに下げることがインスリンの無駄撃ちを防ぐために重要となります。
血糖値を上げないようにするには、糖質が多く含まれる食べ物を控えることです。
食事療法において大切なのは、一食ごとの炭水化物の摂取量を計算する。カーボカウントという方法です。血糖を上げるのは炭水化物だけであり、カロリーではないからです。(157ページ)
そして、上がった血糖値を速やかに下げるためには運動療法を行うのが効果的です。
運動をしている筋肉は血中のブドウ糖を取り込み、エネルギー源として消費するので、血糖値がその場で下がる。(155ページ)
さらにやってはいけないことには、飲酒や喫煙が挙げられていますが、最も重要と思ったのは、「運動療法と食事療法を行わないまま、糖尿病薬を内服すること」という部分です。
薬さえ飲んでいれば、糖尿病もアルツハイマー病も悪化しないと考えるのは危険だということですね。
血糖値を上げないためには、炭水化物(糖質)を控える糖質制限をした方が良いでしょう。
同書では、ブドウ糖消費の多い脳の健康のために朝食を抜くことは良くないとの記述がありますが、この部分には疑問を感じます。睡眠中に多くのブドウ糖を使い、肝臓に蓄えたグリコーゲンが少なくなっているので、朝食時に糖質をしっかり補給すべきだということなのでしょう。しかし、朝は副腎から血糖値を上げるコルチゾールというホルモンが分泌されていますから、わざわざ朝食で糖質を摂取する必要はないはずです。
副腎疲労を起こしてコルチゾールの分泌が悪くなっているなら、普段の食事で、コルチゾールの合成に必要なビタミンB群をしっかり補給することが大切です。
運動も、食前の無酸素運動で、少しでも筋グリコーゲンを消費しておいた方が良いと思います。運動をするとGLUT4というグルコーストランスポーターが骨格筋に発現し、インスリンに依存しなくても血糖を骨格筋に取り込んで血糖値を下げることができるからです。もちろん、食後の有酸素運動も血糖値を下げる効果を期待できますが、血糖値を下げることよりも上げないことの方が大切だと思います。
とりあえず、まずは糖質制限ですね。糖尿病やアルツハイマー病の予防だけでなく、ダイエット効果も期待できますから、やらない理由が見つかりません。