脂肪酸合成の材料は糖質

お腹になんで脂肪が付くんだろう。

やっぱり、脂っこいものを食べているのが原因?

確かに脂質が多い食品を食べれば、体に脂肪が蓄えられます。だから、脂質を制限することがダイエットには大切だと考えても変ではありません。しかし、脂質の摂取量を制限しているのになかなかお腹周りがスッキリしてこないと悩んでいる人は、多いのではないでしょうか?

それはそうですよ。

だって、毎日、米やパンなど炭水化物(糖質)が多く含まれている食品を食べていれば、脂質を摂取しなくても体内で糖質を材料に脂肪酸が合成された後、中性脂肪となって蓄えられるのですから。

脂肪酸は酸化されてエネルギー利用される

お腹にたっぷりと蓄えている中性脂肪からは、化学エネルギーを取り出すことができます。

中性脂肪は、1個のグリセロールと3個の脂肪酸の集合体で、化学エネルギーを取り出すためには、いったん中性脂肪をグリセロールと脂肪酸に分解しなければなりません。

中性脂肪を分解して生じた脂肪酸は、細胞質の中にあるミトコンドリアに送られて酸化され、アセチルCoA(コーエー)となります。この脂肪酸をアセチルCoAに酸化することをβ酸化といいます。

ミトコンドリア内のアセチルCoAは、さらにオキサロ酢酸とくっついてクエン酸になります。このクエン酸を様々に反応させて再びオキサロ酢酸を合成する過程をクエン酸回路(TCA回路)といいます。クエン酸回路をぐるっと1周させて、その後に電子伝達系で作業が行われると、脂肪酸から取り出した化学エネルギーを利用してアデノシン三リン酸(ATP)という体内で使えるエネルギーが作られます。

人間が、生きていくための活動には、このATPを必要としますから、脂肪酸からATPを合成し続けていれば、お腹周りのぜい肉はすっきりしてくるはずです。

アセチルCoAから脂肪酸が合成される

理屈では、ミトコンドリア内のアセチルCoAを増やせば増やすほど、どんどんATPが合成されて痩せやすくなるはずです。

しかし、ミトコンドリア内のアセチルCoAが、エネルギー需要を超えた場合、オキサロ酢酸とくっついてクエン酸となり、ミトコンドリアの外、すなわち細胞質に出されてしまいます。

細胞質に出されたクエン酸は、再びアセチルCoAとオキサロ酢酸に分かれます。そして、アセチルCoAはマロニルCoAとなり、その後、様々な反応を経て脂肪酸(パルミチン酸)になってしまいます。

脂肪酸を酸化してできたのがアセチルCoAなら、アセチルCoAを材料に作られるのもまた脂肪酸なのです。

なんか変な感じがしますよね?

脂肪酸を酸化してアセチルCoAを作ったのにまたアセチルCoAから脂肪酸を合成するのなら、最初から脂肪酸を酸化しなければ良いじゃないかと思いませんか?

脂肪酸の合成と酸化の概略

説明しよう。

脂肪酸からATPを作る際、まずは、中性脂肪が分解されて脂肪酸になります。その脂肪酸がさらに脂肪酸アシルCoAとなり、ミトコンドリア外膜にあるカルニチンアシルトランスフェラーゼ(CPT)Ⅰを介して、ミトコンドリアの中に入ります。ミトコンドリアに入った脂肪酸アシルCoAはβ酸化されてアセチルCoAとなり、オキサロ酢酸とくっついてクエン酸回路に入りATP合成の流れに乗ります。

一方、脂肪酸合成は、クエン酸をミトコンドリアの外に出し、細胞質でアセチルCoAを合成して開始されます。クエン酸は、アセチルCoAカルボキシラーゼ(ACC)を活性化し、アセチルCoAからマロニルCoAへの合成を促進します。マロニルCoAは、CPTⅠの働きを阻害して脂肪酸アシルCoAがミトコンドリア内に入るのを阻害します。

マロニルCoAは、さらに様々な反応を経てパルミチン酸(脂肪酸)となり、その他の反応に使えるようにするため補酵素A(CoA)がくっつけられ、パルミトイルCoAになります。細胞質中のパルミトイルCoA濃度が高まると、ACCの働きを阻害してアセチルCoAからマロニルCoAへの合成を抑制し、脂肪酸合成を減少させます。

なんか、ややこしくなってきましたが、「代謝ナビゲーション」という本の115ページに脂肪酸の合成と酸化の概略図が掲載されていたので、それを少々加工して以下の図を作りました。

脂肪酸の合成と酸化のイメージ

上の図の中央やや右側が脂肪酸の酸化の流れです。脂肪酸アシルCoAがCPTⅠを介してミトコンドリアに入ります。しかし、マロニルCoAが多く合成されていれば、CPTⅠの働きが阻害されるので、脂肪酸アシルCoAはミトコンドリアの中に入れなくなります。

ミトコンドリアの中に脂肪酸アシルCoAが入れなくなると、ミトコンドリアの中のアセチルCoAが少なくなるので、上の図の左側の脂肪酸合成の流れには乗らず、アセチルCoAはオキサロ酢酸とくっついてクエン酸回路(TCA回路)に入り、ATP合成の流れに乗ります。

すなわち、アセチルCoAが増えるから脂肪酸合成の流れに乗るのですが、脂肪酸合成が進めばミトコンドリアの中に脂肪酸アシルCoAが入れなくなるのでアセチルCoAが減るという、真逆の結果をもたらしてしまうのです。

グルコースが太る原因

この矛盾を解くカギは、上の図の一番右側にある「グルコース→ピルビン酸→アセチルCoA」の流れです。

グルコース(ブドウ糖)は、解糖系でピルビン酸に加工された後、ミトコンドリアでアセチルCoAとなります。

細胞質で多くのマロニルCoAが生じると、CPTⅠの働きを阻害して脂肪酸アシルCoAがミトコンドリアの中に入るのを防いでいました。しかし、ピルビン酸がミトコンドリアに入るのを抑えるわけではないので、CPTⅠの働きを阻害したところで、ミトコンドリアではピルビン酸由来のアセチルCoAが合成されます。

そう、上の図の左側の脂肪酸合成の流れは、ピルビン酸由来のアセチルCoAの流れだったんですね。つまり、糖質(グルコース)を摂取すればするほど、ミトコンドリアで多くのアセチルCoAが合成されるので、脂肪酸も多く合成される結果となるのです。

しかも、マロニルCoAがCPTⅠの働きを阻害するので、脂肪酸アシルCoAがミトコンドリアに入れなくなります。さらに糖質摂取はすい臓からのインスリン分泌を促し、そのインスリンがホルモン感受性リパーゼの働きを抑え、中性脂肪の分解も止まり、脂肪酸が合成されなくなります。

お腹に脂肪が付くのが嫌だから、脂質を制限して代わりに炭水化物(糖質)を食べよう。

これ、間違いです。

糖質を摂るから、中性脂肪の分解がストップし、脂肪酸のβ酸化も邪魔されるのです。だから、お腹の脂肪を減らしたければ、糖質制限をすることが大切なんですね。

じゃあ、脂質はどんなに食べてもお腹周りのぜい肉にならないのでしょうか。

脂質も食べれば、別経路で脂肪組織に中性脂肪が運ばれるので、食べ過ぎれば太ります。でも、脂質を食べても、中性脂肪は分解されますし、脂肪酸もβ酸化されます。だから、糖質摂取のように脂肪酸からのATP合成の経路が邪魔されることはありません。

とりあえず、理屈はわからなくても、「体に蓄えた中性脂肪を減らしたい」とか「これ以上、お腹周りにぜい肉を付けたくない」と思うのであれば、日頃の食事から、米やパンなど糖質が多く含まれている食品を減らしましょう。

参考文献