尿からケトン体が排出されるのは体脂肪を消費した証拠

痩せるとは、どういうことでしょうか?

単純に体重が減ることを痩せると表現することが多いと思います。でも、ダイエットに取り組んでいる人は、ただ体重が減ることを望んでいるわけではないでしょう。きっと、体についた脂肪が減った時、痩せたと実感するはずです。

だから、ダイエットをしている方は、いかにして体脂肪を減らすかに興味があることと思います。

人工飼育のオランウータンは糖尿病になる

ここで、ちょっとダイエットから離れてオランウータンの話をします。

東南アジアに棲むオランウータンは、果実を食し、時に葉、つぼみ、若い新芽を食べるそうです。オランウータンが食べる果実は、我々が食べるミカンやリンゴなどの柔らかく熟したものではなく、未熟なもののようです。

霊長類に詳しい島泰三先生が著した「ヒト」を読んでいると、「オランウータンは未熟な果実を食べ、果実の堅い殻をバラバラにして仮種皮を食べ、種子を噛み割って殻だけを吐き出す」との記述がありました。

未熟な果実は、人間の葉では到底太刀打ちできません。緑色の梅にかぶりつける人は、そうそういないでしょう。そんなことをしたら歯がどうかなってしまいそうです。

ところが、オランウータンは強靭な顎を持っていて、トゲがあるカッチカチのドリアンでさえ噛み砕き、中にある果肉や種子、厚い種皮も食物としてしまうとのこと。ただ、果実の最盛期は3ヶ月しかないので、1年中、未熟な果実を食べ続けることはできません。そこで、オランウータンは、その3ヶ月の間に高カロリーの果実を選んで大量に食べ、体内に脂肪として蓄え、果実の少ない時期を乗り切るのだそうです。

なるほどと思いながら、さらに読み続けていると興味深い記述を見つけました。

オランウータンは人工飼育下では、人間と同じように糖尿など脂肪過多による病気を起こす。野生状態と違って栄養の高い食物を飼育下では与えられつづけるので、オランウータンは糖尿になるのである。いっぽう野生では果実が不足する時期には、オランウータンの尿からケトン体が排出されるが、それはオランウータンがこの季節に体脂肪を消費した証拠だった。(35ページ)

やっぱり、人間に飼育されて1年中果物を与えられるとオランウータンも糖尿病になるのかと思ったわけですが、それよりも興味深く感じたのは、「野生では果実が不足する時期には、オランウータンの尿からケトン体が排出されるが、それはオランウータンがこの季節に体脂肪を消費した証拠」という部分です。

そう、体脂肪を消費したければ、肝臓でケトン体が合成される食生活に変えれば良いのです。

ケトン体合成の仕組み

ケトン体は、アセトン、βヒドロキシ酪酸、アセト酢酸の総称です。このうちアセトンは呼気や尿から排出されますが、βヒドロキシ酪酸とアセト酢酸はエネルギー利用できます。

肝臓がケトン体を合成する時に使う材料はアセチルCoA(コーエー)です。アセチルCoAは、主にブドウ糖由来のものと脂肪酸由来のものがありますが、ケトン体合成の材料となるのは脂肪酸由来のアセチルCoAです。ブドウ糖も、アセチルCoAから脂肪酸へと変わるので、その後に脂肪酸が再びアセチルCoAになればケトン体合成の材料となり得ます。

アセチルCoAは、ミトコンドリアの中でオキサロ酢酸とくっついてクエン酸になり、クエン酸回路に入ってアデノシン三リン酸(ATP)と呼ばれるエネルギー産生に利用されます。したがって、肝臓でアセチルCoAがATP産生に使われるとケトン体は合成されなくなります。

そのため、アセチルCoAからケトン体を合成するためには、肝臓でのエネルギー需要を超えて多くのアセチルCoAが作られなければなりません。脂肪酸からアセチルCoAを作る作業をβ酸化といいますが、このβ酸化が肝臓で活発に行われることがケトン体合成の条件となります。

しかし、十分な量の脂肪酸が肝臓になければ、ケトン体合成はおろかアセチルCoAさえも作り出せません。

そこで、体に蓄えた中性脂肪を分解して、脂肪酸を調達します。中性脂肪は1個のグリセロールと3個の脂肪酸でできています。中性脂肪はホルモン感受性リパーゼによって分解されますから、この働きが活発になれば脂肪酸の量が増え、β酸化を経て作られるアセチルCoAも増加します。アセチルCoAが肝臓でのエネルギー需要を超えて作られれば、余りはケトン体合成に回ります。

呼気中や尿中にアセトンが多く含まれるようになれば、中性脂肪分解→脂肪酸のβ酸化→ケトン体合成と代謝された証拠であり、体脂肪を減らしたいとの希望がかなえられたことになります。

ケトン体を合成するためにはどうすべきか?

では、肝臓でケトン体が合成されるようにするにはどうすれば良いのでしょうか?

その答えは、すでにオランウータンが教えてくれています。

ケトン体合成の最も簡単な方法は絶食です。オランウータンも果実が手に入らない期間は、食事量が減るはずです。時には絶食もすることでしょう。

だから、人間も絶食すれば体脂肪を減らすことができます。当たり前と言えば当たり前ですね。

絶食をすれば体脂肪を減らせるとは言っても、全く食べずに生きていくことはできません。

食べながらでも体脂肪を減らす方法はないものか。

そんな都合の良い方法はないだろうなと諦める必要はありません。食べながらでも、体脂肪を減らすことは可能です。

体脂肪(中性脂肪)は、ホルモン感受性リパーゼが活発に働けば分解が進みます。だから、ホルモン感受性リパーゼの働きが活発な状態を維持できれば体脂肪を減らすことは可能です。

ホルモン感受性リパーゼは、すい臓から分泌されるインスリンによって働きが抑制されます

だから、インスリンの分泌を少なくする食事をすれば、体脂肪を減らすことは可能です。

インスリンは、炭水化物(糖質)を摂取した時に多く分泌されます。だから、米、パン、麺類、果物、根菜など、糖質が多く含まれている食品を極力食べないようにすれば、インスリン分泌を減らせます。

糖質制限がダイエットに効果があるのは、これが理由なんですね。

体脂肪を減らしたければ糖質制限をすること。

糖質制限で体脂肪が減る仕組みはすでにわかっているんですよ。

参考文献