太っている人ほど糖尿病になりやすい傾向から肥満は糖尿病の原因と言われるようになっただけ

世界的に糖尿病人口は増加傾向にあります。日本国内でも、2千万人が糖尿病か糖尿病予備軍とされていますから、日本人6人に1人が糖尿病か糖尿病予備軍になります。

なんで、こんなにたくさんの人が糖尿病になるののでしょうか。きっと、多くの人は生活習慣に問題があるから。具体的には暴飲暴食をして運動もせず肥満になるからと答えると思います。確かに食生活の乱れが糖尿病になる危険性を高めます。

でも、太っていなくても糖尿病になる人はいます。太っていない人は、普通に考えると食生活が乱れていないでしょう。それなのに糖尿病になるのですから、必ずしも肥満が糖尿病の原因とは言えません。

高カロリー食が血糖値を高めるという思い込み

太っている人ほど糖尿病になる傾向はあります。

だから、昔の人は肥満が糖尿病を惹き起こすと考えたのでしょう。『アルツハイマー病は「脳の糖尿病」』という書籍に興味深い実験が紹介されています。

高カロリー食が糖尿病発症の引き金になることは、従来からよく知られています。アメリカのテンプル大学のボーデンらは、健康な男性にピザやハンバーガーを主とする超高カロリー食を一週間食べさせただけで糖尿病予備軍の状態となり、最短二日で高いインスリン抵抗性を示したことを報告しています。(96ページ)

この内容を読むと、高カロリー食が糖尿病の危険性を高めるように思えます。

インスリン抵抗性とは、血糖値が上がった時にすい臓のβ細胞から分泌されるインスリンの効き目が弱くなることです。インスリンは、血糖値を下げる働きをしますが、肥満の人はその効き目が弱くなる傾向にあり、高血糖の状態が長時間持続します。

糖尿病は、高血糖が慢性化している状態です。だから、インスリン抵抗性があると血糖値が高くなり糖尿病と診断されます。そして、インスリン抵抗性を惹き起こすのは、多くの場合、太っている人なので、肥満が糖尿病の原因だと言われるわけですね。

痩せていても高血糖になる

肥満が糖尿病の原因なら、低カロリーな食事を心がけることで糖尿病を予防できるはずです。ところが、肥満ではなくても糖尿病になる人がおり、特に日本では痩せていても糖尿病の人がいます。

全世界的な肥満の増加が、糖尿病の増加と深い関係にあると考えられますが、しかし直接的な要因とも言い切れません。というのも、日本でも肥満者は増加の一途を辿っていますが、その数や程度は欧米に比して非常に少ないものです。にもかかわらず、糖尿病は日本でも激しく増加しているのです。このように糖尿病と肥満とに直接関連があるかについては、不明と言わざるを得ません。(96~97ページ)

この文章は、とても大切なことを述べています。

太っている人は、糖尿病になりやすい傾向にあります。しかし、痩せていても糖尿病になる人もいます。太っていて糖尿病の人は高カロリー食、痩せていて糖尿病の人は低カロリー食でしょうから、糖尿病になるかどうかは、摂取カロリーの高低とは関係ないのではないかという疑問が出てきます。

血糖値を直接上げるのは糖質のみ

人体は、糖質、脂質、タンパク質の三大栄養素からエネルギーを作り出します。だから、三大栄養素を多く含む食事が高カロリー食となります。ちなみに三大栄養素の語源は、糖質、脂質、タンパク質が人体にとって重要だという意味で名づけられたのではありません。

高カロリーな食事は、脂質が多く含まれる食事のことです。糖質とタンパク質は、1グラム当たり4kcalの熱量とされていますが、脂質は1グラム当たり9kcalとされています。同じ量であっても、脂質の方が摂取カロリーが2倍になります。だから、高カロリーな食事が糖尿病の原因だと仮定した場合、脂質を控え糖質やタンパク質を食べる方が、摂取カロリーを少なくできて満腹感が得られるので、食べすぎを予防でき、糖尿病になりにくいというわけです。

ところが、高カロリーとされる脂質をどんなに食べても、それ自体が血糖値を上げることはありません。実は、三大栄養素の中で血糖値を上げるのは糖質だけです。

食後に血糖値が上がるのは糖質を食べたからです。タンパク質を食べた場合も血糖値が上がりますが、それはすい臓のα細胞からグルカゴンというホルモンが分泌されて糖新生が起こり、体内でブドウ糖が作られるからです。タンパク質そのものが血糖値を上げているわけではありません。

インスリンは血糖を中性脂肪に変えて蓄える

糖質を摂取して血糖値が上がるとインスリンが分泌されます。インスリンは血糖値を下げますが、では血糖はどこに行くのでしょうか。

血糖の一部は、骨格筋などにグリコーゲンとして蓄えられますが、中性脂肪に変えられて脂肪組織にも蓄えられます。糖質を食べれば食べるほどインスリンが分泌され血糖が中性脂肪に変わっていきますから、糖質の食べ過ぎこそが肥満の原因と言えます。

先の実験では、男性にピザやハンバーガーを食べさせています。ピザもハンバーガーも糖質が多く含まれている小麦粉をたくさん使った食品ですから、これらを食べれば血糖値が上がりインスリンが分泌されます。しかも、高カロリー食ということですから、ハンバーガーを1個ではなく何個も食べたのでしょう。

個人差がありますが、脂肪組織に中性脂肪を蓄えられる量には限界があります。その限界に近づいてくると、インスリンをどんなに分泌しても血糖を脂肪組織に押し込むのが難しくなります。これが、インスリン抵抗性と言われる状態です。

肥満の人はインスリン抵抗性があるから高血糖が持続しやすいのはその通りです。

では、痩せているのに高血糖が持続するのはなぜでしょうか。それは、インスリンの分泌量が減っているからです。頻繁に糖質摂取を繰り返すと、すい臓のβ細胞がインスリンを出しっぱなしになります。このインスリン出しっぱなし状態が続くと、やがてβ細胞は壊れてしまい、インスリンを出すことができなくなります。β細胞は数えられないほどたくさんすい臓にありますが、壊れていく量が増えていけば、次第にすい臓のβ細胞の数が減っていきますから、やがて、血糖値を下げるのに十分な量のインスリンを出せなくなります。この状態をインスリン分泌不全といい、やはり、高血糖が持続する糖尿病と診断されます。

肥満が原因のインスリン抵抗性なら、痩せれば血糖値が下がっていきます。

しかし、β細胞が壊れるインスリン分泌不全の場合は、痩せても血糖値が下がるわけではありません。一度壊れたβ細胞は生き返りません。肥満が少ない日本で糖尿病が増えているのは、このインスリン分泌不全になる人が増加していると推測できます。

β細胞に負担をかけないためには、カロリー制限ではなく糖質制限を心がけなければなりません。糖質を食べなければ血糖値が上がりませんから、β細胞も無駄にインスリンを分泌しなくて済みます。

太っているから糖尿病になるという思い込みが、まちがった糖尿病治療を続ける理由なんでしょうね。

参考文献