ブドウ糖が優先的にエネルギー利用されるのはなぜか考えてみた

人体がエネルギーを作り出すための材料としているのは、ブドウ糖(糖質)、脂肪酸(脂質)、アミノ酸(タンパク質)です。

この中で、優先的にエネルギーに使われるのはブドウ糖です。そういったこともあり、ブドウ糖は人体にとって大事なエネルギー源だと言われたり、主要なエネルギー源だと言われたりします。

確かに赤血球のようにブドウ糖からしかエネルギーを作り出せない細胞があるので、ブドウ糖は大事なエネルギー源です。しかし、主要なエネルギー源との主張には疑問があります。

ブドウ糖が優先的に使われるのは邪魔だから?

ブドウ糖が優先的にエネルギー利用されているという事実だけに着目したら、主要なエネルギー源と思えなくもありません。

しかし、ブドウ糖が主要なエネルギー源であれば、高血糖が持続している状態は好ましいはずなのに我々の身体は、高血糖を許しません。血糖値は、血液100mlあたりブドウ糖80~100mgの範囲に保たれているのが正常です。この範囲を上回ると血糖値を下げようとします。

なんで?

と疑問に思うわけですが、これは、糖尿病の合併症を思い浮かべると、その理由がわかってきます。

糖尿病は、高血糖が持続する状態のことです。血糖値が高い状況が何年も続くと、合併症を併発します。足の指が壊死したり、失明したり、腎臓が機能しなくなったり。つまり、血糖値が高い状態は、人体にとって好ましくない状態だから、血糖値が上がると速やかに下げようとするんですね。

要するにブドウ糖は人体を正常に保つためには、多すぎると困るわけです。邪魔者とも言えますが、先ほども述べたようにブドウ糖からしかエネルギーを作り出せない細胞もありますから、完全な邪魔者とまでは言い切れません。

人体にとって迷惑な存在は速やかに処理する

人体には、それを正常に保つために邪魔な存在を自動的に排除する仕組みがあります。病原体が侵入してきたときにやっつける働きがその代表です。体の中に異物が入って来ても、邪魔な存在でなければ速やかに排除する必要はありません。

ブドウ糖の場合はどうでしょうか?

ブドウ糖が体内に入って来ると血糖値が上がりますが、上がった血糖値はすい臓からインスリンが分泌されることで正常値まで下げられます。どうやって血糖値を下げるのかというと、細胞にグルコース・トランスポーターという輸送体を発現させて細胞内にブドウ糖を取り込むのです。インスリンは数あるグルコース・トランスポーターのうち、GLUT4を発現させ、骨格筋や脂肪組織にブドウ糖を取り込ませます。

グルコース・トランスポーターは、トンネルやエレベーターのようなものと考えるとわかりやすいです。エレベーターに例えると、地下で停止していたエレベーターを地上に上げるためには、誰かが「↑」のボタンを押す必要があります。そして、地上に上がってきたエレベーターのドアが開くと人が入り、再び地下に降りていきます。グルコース・トランスポーターもそれと同じで、普段は、細胞の中にありますが、何らかの指令により、細胞の表面に浮上してきてブドウ糖を細胞内に誘導します。GLUT4だとその指令はインスリンが担っています。

今必要なエネルギーについてはブドウ糖からエネルギーが作り出されますが、余ったブドウ糖は、骨格筋だとグリコーゲンとして、脂肪組織だと中性脂肪として蓄えられます。ブドウ糖が最も重要なエネルギー源というのなら、わざわざ他の物質に変換して身体に蓄える必要はないと思いませんか?

ブドウ糖をグリコーゲンや中性脂肪に変換する働きは、一種の解毒だと思うんですよね。

脳がエネルギーの大部分をブドウ糖に頼るのは糖質を摂取した時だけ

ブドウ糖が、重要なエネルギー源と言われる大きな理由は、脳がエネルギーの大部分をブドウ糖に頼っているからだと思います。

古い知識では、脳はブドウ糖からしかエネルギーを作り出せないとされていましたが、これは完全な間違いです。今では、脂肪酸から合成されるケトン体からも、脳はエネルギーを作り出せることがわかっています。

それでも、脳の主要なエネルギー源がブドウ糖であることに変わりないとの反論がありますが、これもおかしな理屈です。

なぜなら、脳がブドウ糖から多くのエネルギーを作り出すのは、糖質を摂取している時だけだからです。糖質を摂取していない状況では、脳のエネルギー源は、60%以上がケトン体になります。

脳がケトン体をエネルギー利用するのは、絶食時だけと言われますが、そうではありません。糖質を摂取せず、脂質やタンパク質を食べている時でも、脳はケトン体をエネルギー利用します。すなわち、ブドウ糖を体内に入れない状況が続くと、脳のエネルギーの大部分がケトン体から作り出されるのです。

糖質を摂取するから、脳がブドウ糖を優先的にエネルギー利用しているだけで、絶食時や糖質以外のものを食べている時には、そのようなことは起こりません。飢餓状態という非常時だけ、脳はケトン体を利用するのではなく、平常時でも脳はケトン体を利用しているのです。

脳はブドウ糖の重要な処理機関

脳がブドウ糖からエネルギーを作り出すのは、脳にとってブドウ糖が最も適したエネルギー源ではなく、脳がブドウ糖を最も速やかに処理できる機関だからではないでしょうか?

筋肉でブドウ糖を処理しようとすると、運動しなければなりません。食事のたびに運動なんてしてられないですよね。グリコーゲンとして貯め込むと言っても、骨格筋と肝臓を合わせて300グラム程度しかグリコーゲンとして貯蔵できません。

中性脂肪に変換すれば、10kgくらいは軽く保存できますが、際限なくブドウ糖を中性脂肪に変換して貯め込むことはできませんから、ブドウ糖を直接処分する手段が必要になります。

脳は、ブドウ糖を処分するのに好都合な機関なのでしょう。

しかし、脳だって、際限なくブドウ糖からエネルギーを作り出せるわけではありません。脳にブドウ糖を供給し続けると、やがて、ブドウ糖をエネルギー利用できなくなるインスリン抵抗性が惹き起こされます。そうなると、脳はエネルギー不足に陥ります。アルツハイマー病は、この脳のインスリン抵抗性が原因だと言われるようになっています。

このように考えていくと、ブドウ糖は多すぎると人体にとって不都合だから速やかにエネルギー利用する仕組みになっているように思えます。ブドウ糖をエネルギー利用しているように見えて、実際には、焼却処分しているだけではないでしょうか。その過程で、エネルギーが生み出されているだけのように思えます。

まるで、廃棄物を焼却処分した時のエネルギーを有効活用するサーマルリサイクルのようですね。