疲れているときは、おいしいものを食べたくなりませんか?
仕事の合間に甘いものが食べたくなる人もいるかと思います。
おいしいものや甘いものを食べたくなるのは、疲れているとき、それも、肉体的な疲労ではなく精神的な疲労の時が多くないでしょうか?
肉体は衰えても精神は衰えない
先日、山岡荘八の小説『徳川家康』を読んでいるときに興味深いことに気づきました。
『徳川家康』は全26巻もある長編で、その中の12巻で、徳川家康が商人の茶屋四郎次郎と食事をする場面が描かれています。その時の食事内容は以下の通りです。
- 麦飯
- 椀の底がすけてみえそうな味噌汁
- 香の物
- いかにも塩からそうな乾からびた小鰯1尾
食事は、徳川家康が茶屋四郎次郎に振る舞ったものですが、なんとも質素です。商人の茶屋四郎次郎にとって、このような質素な食事を見ることは滅多にないことです。それを察した徳川家康は、時々うまいものが食べたくなるけど、それはよく考えてみると自分が疲れている時だと語ります。
「わしが疲れるといったのは現身の、肉体の疲れを指して言ったのではない」
「なるほど」
「精神の疲れのことを申したのじゃ。美食がしたいと考えるような時は、せねばならぬ仕事、つまり目的があいまいになっている時だと申したのじゃ」
「あ!そのことでございますか」
「そうじゃ。肉体はのう、どれほど美味を摂り、どれほど大切にして寝ていてみたところで百歳までは生きられるものではない。衰える時が来ればきっと衰える。しかし精神は死ぬまで衰えさせぬことが出来る」
これを読んで、「なるほどな~」と思ったものですよ。
確かに肉体が疲れているときは、おいしいものを食べたいという感情は、それほど湧き上がって来ません。むしろ、食事よりも眠りたいと思います。また、肉体的に疲れているときは、気持ち悪くて食事ができないこともあります。風邪になって寝込んでいる時だって、そうですよね。風邪も肉体的な疲労です。
一方で、頭脳労働をした後のように精神的に疲れている時は、おいしいものを食べたいと思うことがあります。お酒を飲みたくなる人もいるのではないでしょうか。
おいしいものを食べるから精神が疲労しやすくなるのでは?
ここでふと思ったのは、精神が疲れている時においしいものを食べたくなるのではなく、おいしいものを食べ続けていると精神が疲れやすくなるのではないかということです。
おいしいものを食べた後に精神が元気になるのは、薬を飲むと疲れを感じなくなるのと同じようなものだと思うんですよね。精神が疲れたと感じた時においしいものを食べる習慣がついていると、やがて、おいしいものを食べた後だけ精神的に元気になり、それ以外の時は精神的に疲れを感じた状態になるのではないでしょうか。
甘いものを食べた時になんか元気になったように感じるのも、甘いものを頻繁に食べた結果、そういう体質になってしまっているだけなのかもしれません。
本当に精神が疲れている時、例えば、深い悩みを抱えている時においしいものを食べたいと思うでしょうか。きっと、悩みが深いほど、食欲はなくなっていくはずです。
おいしいものや甘いものを食べたくなるのは、実は本当に精神が疲れている時ではなく、精神が疲れているように思える時なのでしょう。それは、偽りの食欲と言っても良さそうです。
体の不調は、この偽りの食欲からもたらされていることが多そうです。精神的に疲れている時は、食べる以外のことで、ストレスを発散する方法を考えるべきでしょう。